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「プライバシー重視」宣言
突然の大転換に潜む
フェイスブックの欺瞞
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Zuckerberg’s new privacy essay shows why Facebook needs to be broken up

「プライバシー重視」宣言
突然の大転換に潜む
フェイスブックの欺瞞

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが、これまでの同社の方針を転換するかのようなプライバシー保護に関する長文を発表した。だがよく読むと、ザッカーバーグCEOがプライバシーの何たるかを理解していないことは明らかだ。 by Konstantin Kakaes2019.03.12

フェイスブックの新規株式公開(IPO)が実施された2012年、最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグは公開状の中で、フェイスブックは「よりオープンでつながりのある」世界の実現を目指すと発表した。ビジネスへの信頼性は高まり、人と人とのつながりが強まり、政府の説明責任が高まる。「よりオープンな世界ほどより良い世界」であるとザッカーバーグCEOは記した。

そのザッカーバーグCEOが今回、大きな心変わりをした。

ザッカーバーグCEOは3月6日、「プライバシー重視のソーシャルネットワークのビジョン(A Privacy-Focused Vision for Social Networking)」と題した3200ワードあまりの長文をフェイスブックに投稿し、「プライバシーを最重視したよりシンプルなプラットフォームを構築」したいと語った。驚きの方針転換だが、ザッカーバーグCEOによると「人々の間で、デジタル版リビングルームでプライベートにつながりたいという要求も高まっている」という。

ザッカーバーグCEOのこの投稿は、懺悔を装った権力掌握術だ。投稿を注意深く読んでほしい。プライバシーを有意義な形で守ることを考えるなら、フェイスブックを解体する必要があるという結論を下さざるを得ない。

フェイスブックは急速に巨大化し、カテゴリー化できない企業になった。フェイスブックは新聞であり、郵便局と電話交換局の役目も果たし、政治議論フォーラムであり、スポーツ放送局でもある。誕生日のリマインダー・サービスや共同フォトアルバムも提供する。フェイスブックはいま挙げたすべてのカテゴリーと、さらに、その他多数のカテゴリーを組み合わせた企業であり、したがって、そのどのカテゴリーにも属さない。

ザッカーバーグCEOはフェイスブックを「町の広場」と表現するが、フェイスブックは町の広場などではない。フェイスブックの昨年の広告売上高は550億ドルを上回り、利益率は45%だ。フェイスブックは史上最大級の収益性を誇るビジネスベンチャーだ。その点を正確に理解する必要がある。

フェイスブックがこれほど大もうけできているのは、同社がこれまでにない規模でプライバシーを商品化する方法を見極めたからだ。プライバシー侵害がフェイスブックの主力製品だ。ザッカーバーグCEOは、フェイスブックの20億人のユーザーが容認して良いと考えるプライバシーのレベルと広告業者に売りつけることができる価値の差を利用し、ある種の裁定取引をして大もうけしてきた。ザッカーバーグCEOの投稿は、フェイスブックが方針転換後に自社の収益をどのように維持するつもりなのかについては一切触れていない。この点が、突然の方針転換を疑いの目で見る健全な理由の1つだ。

「正直なところフェイスブックは現在、プライバシー保護サービスの開発には高い評価を受けていません」とザッカーバーグCEOは認める。しかし、大きな問題点はフェイスブックに対する評価などではない。フェイスブックのビジネスモデルが問題なのだ。フェイスブックがサービス全体に強力なプライバシー保護を導入したとすれば、オーディエンスの規模の大きさ以外、広告業者に売るものがほとんど残らない。それでもフェイスブックは大きな収益を上げるかもしれないが、収益性はかなり落ちるだろう。

ザッカーバーグCEOの今回の提案はおとり商法だ。彼が …

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