「使用済みタンポン」に着目
フェムテック企業が目指す
血液検査のイノベーション
女性の健康改善を目的としたテクノロジーを開発する「フェムテック」企業が増えている。しかし、フェムテック分野で市場拡大が見込めるとして投資家が注目するのは生殖問題を扱う企業に限定されている。そうした現状や女性に対する偏見を打破して、イノベーションを起こすべく奮闘しているスタートアップ企業がある。 by Dayna Evans2019.03.26
米カリフォルニア州オークランドのごく普通の脇道へ入り、皮膚科動物病院を通り過ぎて数区画先へ進むとオーガニック食料品スーパーがある。そのすぐそばの小さなオフィスで、女性の健康を管理する新たな手法を開発しようとしているのが、リディ・タリヤルとスティーヴン・ガイアだ。1月にオフィスを訪れたときには、コンピューターモニターの上に飾られた先端を染色したタンポンを連ねた虹色のガーランドが、2人の研究をいたずらっぽく表現していた。
タリヤルとガイアが2014年に創設したスタートアップ企業「ネクストジェン・ジェーン(NextGen Jane)」にとって、タンポンは象徴的な存在と言える。ネクストジェン・ジェーンは使用済みタンポンから絞り出した血液を使った診断の実現を目指しているからだ。同社は、生理の血、すなわち経血の中に子宮内膜症の早期診断マーカーを発見したいと考えている。最終的にはその他のさまざまな病気の早期診断マーカーが見つかることを期待している。シンプルで使いやすい手法であり、開発に成功すれば現在の標準治療を大きく改善できるだろう。
子宮内膜症は、子宮の内側以外の場所で子宮内膜組織が異常増殖する病気だ。本来、子宮内膜細胞は子宮の内側にしか存在しない。診断の際には、外科医が内視鏡を腹腔に挿入し、子宮内膜以外で増殖した子宮内膜細胞を探し出す。異常な細胞が見つかった場合、病変組織をその場で取り除けることも多い。しかし、子宮内膜症の診断を受けるのは罹患してから10年以上経ってからのことが多い。何年も激しい痛みに悩まされてきた人もいる。
子宮内膜症が女性の生活に及ぼす肉体的・精神的影響は計り知れない。しかし、そのような痛みがあるのは普通だと思い込む女性が多く、治療を求めない。また、医師が痛みへの主観的な判断に依存して、診断が遅れることもよくある。テレビ番組司会者であり、米国子宮内膜症財団(Endometriosis Foundation of America)を設立したパドマ・ラクシュミは、2018年4月に開催された会議で、「診察を受けた医師たちから、私は『痛みの閾値が低い』だけであり、何も治療法はないから痛みに慣れなさいと言われました」と語った。
多くの子宮内膜症は、一度も診断されることがない。もっとも明らかな症状には複数の原因が考えられ、症状の深刻さは基礎疾患の深刻さと強い相関関係はない。生殖可能年齢の女性の10%、およそ2億人が子宮内膜症に罹患しているという推計もある。
ネクストジェン・ジェーンは創設当初から子宮内膜症の診断を目指していたわけではない。当初は生殖能力に焦点を置いていた。不妊治療は、ベンチャー投資家がもっとも投資に積極的な分野だからだとタリヤルは説明する。ネクストジェン・ジェーンは数百社存在する、いわゆるフェムテック(女性の健康改善を目的としたテクノロジーを開発する)スタートアップ企業の1つだ。市場調査企業のフロスト&サリバン(Frost & Sullivan)は、フェムテック市場が2025年までに500億ドル規模に成長すると予測している。フロスト&サリバンによると「女性のヘルスケアは、今後も主に生殖問題に限定される」という。タリヤルは、この点が一番の障害となっているという。「投資家に向けて、女性の病気を診断したい、と言えたらいいのですが」とタリヤルは語った。だが、投資家から「どうやって儲けるのですか?」と質問されるだろう。
ネクストジェン・ジェーンの事例は、女性の健康が出産能力という視点から評価されることが多いということ、そして、その深く根付いたバイアスが医学分野のイノベーションをどれだけ遅らせているかを物語っている。
つき放されて不満
タリ …
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