KADOKAWA Technology Review
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3Dプリントで打ち上げ革命
ロケット・ラボCEOに聞く
Brady Kenniston
Rocket Lab: The small firm that launched the 3D-printed space revolution

3Dプリントで打ち上げ革命
ロケット・ラボCEOに聞く

数多ある宇宙ベンチャーの中でも、小型人工衛星の打ち上げを手がけるロケット・ラボはユニークな存在だ。3Dプリントを活用したロケットの製造を手がけるピーター・ベックCEOに話を聞いた。 by Erin Winick2019.06.24

3Dプリントは、いつの間にかロケット産業に浸透している。2014年にはスペースX(SpaceX)が主酸化剤弁の本体部分を初めて3Dプリントで製作。ブルー・オリジン(Blue Origin)も3Dプリントで製作した部品を強力なBE-4エンジンに組み込んでいる。

だが、3Dプリンターで製作された部品を使った飛行経験がもっとも豊富な組織といえば、ニュージーランドと米国を拠点とするロケット・ラボ(Rocket Lab)だろう。2006年にエンジニアのピーター・ベックが立ち上げたロケット・ラボは、「エレクトロン・ロケット(Electron rocket)」によって、いまや小型人工衛星の打ち上げをリードする存在となっている。ロケット・ラボは現在までに6機のロケット打ち上げに成功しており、各ロケットには主に金属を用いた3Dプリントで製作したラザフォード・エンジン(Rutherford engines)が9基と、その他数多くの要素が搭載されている。

従来の除去加工法では、素材の塊を削って製品を作り出す。「積層製造」とも呼ばれる3Dプリントでは、レイヤー(層)を積み上げて形状を作っていく。これによって、他の方法では実現不可能な複雑な内部構造を持つ軽量な物体の製作が可能になる。

ロケット・ラボのCEO(最高経営責任者)兼CTO(最高技術責任者)のベックに、ロケット・ラボが3Dプリントに大規模な投資をする選択をした理由、3Dプリントが現在のロケット産業でどのように利用されているのかについて話を聞いた。

Rocket Lab

——エンジン製作に3Dプリントを使い始めて以来、ロケット産業における3Dプリントの進化をどのように見てきましたか?

私たちが金属の3Dプリントを始めた頃、他に同じことをやっている企業はほとんどありませんでした。私たちが4年前にナショナル・スペース・シンポジウム(National Space Symposium)でラザフォード・エンジンを初めて発表したとき、誰もが「こんなものは言語道断だ」と言っていたのを覚えています。いまでは、少なくともエンジンの一部に3Dプリントを使用していなければ、完全に時代遅れだと見られてしまいます。

私たちは50基以上のラザフォード・エンジンを宇宙に送り出してきました。3Dプリントで製作されたエンジンとしては、過去に例を見ない数字です。1基だけうまく作るならまだ良いのですが、50回も成功させるとなると、まったく異なるレベルでのプロセスの理解と品質管理が求められます。

——既製の3Dプリンターは使えるのでしょうか? それとも独自のプリンターを作る必要があったのでしょうか?

最初は3Dプリンターを購入して、改造しました。必要に応じて改良して使ったのです。いまでも、私たちがプリントした幾何学的形状を3Dプリントの専門店に持って行ったら作れないと言われてしまうでしょう。多くのコンポーネントは、今でも一般の3Dプリンターで作成できるか限界を超えています。

——積層製造によって、ロケット設計の根本的な変更はありましたか?

もちろんです。私の知る限り、ラザフォード・ロケット・エンジンは、スペースXのマーリン1D(Merlin 1D)エンジンの性能をわずかに上回り、液体酸素・ケロシンエンジンとして米国で最高の性能を誇っています。その理由の1つは3Dプリントにあります。私たちはインジェクター(燃料噴射装置)をすべて3Dプリントで製作しています。その内部形状を3Dプリントで製作することで、他の製造方法ではできない優れた混合と性能を実現しています。真に効率の良い小型エンジンを作るのは本当に難しいことです。

——3Dプリントは、特にロケット業界になんらかの利益をもたらしていると思いますか?

それは間違いありません。他の業界と同じですね。非常に複雑なコンポーネントがある場合、それらを統合してより効率や費用対効果が高い、または高性能なサブシステムや高度なコンポーネントを作れます。

その点では、3Dプリントが間違った使われ方をするのを目にしてきました。3Dプリントでブラケット(取り付け具)を作るのは時間の無駄です。ブラケットを3Dプリントで作っても意味がありません。3Dプリントというテクノロジーで重要なのは、3Dプリントを使うことに興奮するだけでなく、有無を言わさずすべてを3Dプリントで作ることです。宇宙船には多くの複雑なコンポーネントが使われており、3Dプリントでは複雑なコンポーネントを統合することが可能です。

トラス構造全体を3Dプリントするなら、内部には推進剤タンクと、1つのコンポーネントではなく50のコンポーネントを留めるブラケットがあります。これはとても有効な3Dプリントの利用法です。

——3Dプリントで製作したエンジンで顧客を惹き付けるのは難しかったですか?

そうでもなかったですね。本当の試練の1つは、米国航空宇宙局(NASA)のミッションでした。NASAは打ち上げ機のあらゆるシステムの詳細を徹底的に精査します。当然、ラザフォード・エンジンにも多くの時間を費やし、3Dプリントで製作されたコンポーネントやテクノロジーについて徹底的に評価しました。ですが、すべて合格でした。

——小型人工衛星の打ち上げと3Dプリント関して、先行者利益はあると思いますか?

もちろんです。現在、数多くの小型打ち上げ機が開発されています。ですがおかしなことに、誰もが同じような顧客を相手にしています。そのため、小型打ち上げ機市場では厳しい整理・統合が起きると予測しています。現在は間違いなくバブル期です。小型打ち上げ機業界は、今後12~18カ月で本当に厳しい状況を迎えるでしょう。

——ロケット・ラボに影響があると思いますか?

実際に飛ばしているのは私たちだけですので、ロケット・ラボはとても独特の立場にあります。他のペーパー・ロケット企業(まだロケットを打ち上げていない企業)が大量に消え去っているのを目の当たりにしています。打ち上げのために買収した企業が実際に打ち上げをするまで何年もかかるということを、人々が理解し始めているからです。最初の打ち上げまでの道のりは厳しいものですが、その後の生産に入るまでの道のりも同様に厳しいものなのです。

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エリン・ウィニック [Erin Winick]米国版 准編集者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。機械工学のバックグラウンドがあり、宇宙探査を実現するテクノロジー、特に宇宙基盤の製造技術に関心があります。宇宙への新しい入り口となる米国版ニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」も発行しています。以前はMITテクノロジーレビューで「仕事の未来(The Future of Work)」を担当する准編集者でした。それ以前はフリーランスのサイエンス・ライターとして働き、3Dプリント企業であるSci Chicを起業しました。英エコノミスト誌でのインターン経験もあります。
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