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小惑星資源採掘バブル崩壊は
何を残したのか?
CHRISSIE ABBOT
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How the asteroid-mining bubble burst

小惑星資源採掘バブル崩壊は
何を残したのか?

7年前、小惑星資源採掘ブームの火付け役となった2つのスタートアップ企業はいまや存在しない。宇宙産業における「ゴールドラッシュ」ともてはやされたバブルの崩壊は、何を残したのだろうか。 by Atossa Araxia Abrahamian2019.10.18

最大限の賛辞を送るとすれば、クリス・レウィッキとピーター・ディアマンディスは、人類の文明の道筋を変えたかもしれない。2人は、小惑星で鉱物や金属、水などの貴重物質を採掘するというささやかな夢を抱き、2012年にスタートアップ企業「プラネタリー・リソーシズ(PR:Planetary Resources)」を創業した。創業メンバーの履歴書と人脈を見れば、一見実現不可能と思えるような考えにも納得がいく。レウィッキ社長は、米国航空宇宙局(NASA)の主要なミッションである2台の火星探査車「スピリット(Spirit)」と「オポチュニティ(Opportunity)」に取り組んだ経歴があり、ディアマンディス共同会長は宇宙旅行の熱狂的支援者として有名だ。もう1人のパートナーであるエリック・アンダーソン共同会長とともに、PRは2016年までに5000万ドルを調達した。そのうちの2100万ドルは、グーグルのエリック・シュミット元CEO(最高経営責任者)や映画監督ジェームス・キャメロンなど有名投資家からだ。

やがて、ディープ・スペース・インダストリーズ(DSI:Deep Space Industries)という競合が現れた。DSIの調達額はPRよりもはるかに少ない350万ドル。それに政府とのいくらかの契約だけだった。だが、DSIには、著名な支持者もいれば、非現実的な目標もあり、そのうえ熱狂的なリック・タムリンソン会長がいた。タムリンソン会長は、DSIのビジョンをさまざまな会議で声高に訴えていた。「無謀な考え、それが文化を前進させるのです」。タムリンソン会長は、2017年にニューヨークで開催されたイベントで語った。「信念があれば、不可能なことは何もありません」。

まるでSFの世界が現実になるようで、誰もが期待していた。

「宇宙採掘が実現」という見出しがおどった。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、地球上すべての重工業が宇宙に移管される未来について語り始めた。NASAは小惑星資源採掘研究に資金を提供し、コロラド大学は小惑星資源採掘に関する学位プログラムを提供した。テッド・クルーズ上院議員は、地球で最初の1兆ドル長者は宇宙ビジネスで生まれるだろうと予測した。

「私たちが夢見てきたあらゆることについて、人々は沸き立ち、具体的な感触もありました」と、宇宙関連企業に投資するベンチャー・キャピタル(VC)ファンド「スペース・エンジェル(Space Angels)」のチャド・アンダーソンCEO(PRのエリック・アンダーソン共同会長とは無関係)は話す。

金儲けの機会に肝要なのもまた、急成長する宇宙の商業利用に関するロビー活動だ。ロビー活動のおかげで、宇宙法(SPACE Act)が2015年に議会を通過した。議論の余地のあるこの法案には、「発見者所有者」ルールを適用している。つまり、この法律により、米国の民間企業は地球以外の天体の資源を無条件で利用する権利を持つと定められたのだ(この法案が成立する前は、いずれの国にも属さない宇宙の財産権と鉱業権は、誰にも与えられていなかった)。

これで、アンダーソン共同会長が2020年代半ばまでに到達できると予測した目標に向かって取り組めるようになった。地球周辺の小惑星から氷を取り出し、他のミッションのロケット用推進剤として販売するのだ。PRは水を水素と酸素に分解して可燃燃料に、DSIは加熱した蒸気を噴出して推力を得る計画だった。

「PRも、DSIも、初期の製品の1つが推進剤そのもの、つまり水だと信じていました」と、DSIのグラント・ボーニン元最高技術責任者(CTO)は話す。「DSIが開発していたのは、水で駆動する推進装置です。そして、この推進装置を購入する顧客が、未来の資源の供給を受けられるエコシステムを作り上げるのです」(ボーニンCTO)。

2017年の春まで、PRはワシントン州レドモンドに、NASAのがらくたと古いピンボール・マシンで飾られた研究所を持っていた。エンジニアたちは、探査機打ち上げの計画を立てながら、厚いガラスの壁の後ろで小さな立方体型の人工衛星を調整していた。ルクセンブルク政府はPRの欧州事務所開設のために数百万ドルの助成金を出した。日本やスコットランド、アラブ首長国連邦は、独自の小惑星資源採掘法や小惑星資源採掘への投資を発表した。

小惑星が官僚主義を壊していった。宇宙がシリコンバレーになるための準備は整っていた。

すると、事態は悪化し始めた。2018年夏、PRは当てにしていた資金を調達できなかった。PRの経営企画担当だったピーター・マルケスは、すぐに逃げ出した。「私たち全員が収益の見通しに不満を持っており、ビジネスモデルは思惑通りに動いていませんでした」と、マルケスはいう。彼は現在、ワシントンDCにある宇宙関連のコンサルティング会社アンダート・グローバル(Andart …

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