遺伝子編集動物のアイコン
「角のない牛」で新事実
細菌のDNAが混入していた
米スタートアップが遺伝子編集で作り出した「角のない」牛の遺伝子に、細菌のDNAが混入していることが、米国食品医薬品局(FDA)の調査で判明した。発見されたDNAが牛やそれを食べる人間に影響を及ぼす可能性は低いとしているが、同社の目論む遺伝子編集による牧畜業革命は停滞を余儀なくされている。 by Antonio Regalado2019.09.10
数年前、米国のスタートアップ企業が、乳牛のゲノムにDNAの塩基を数個追加するだけで、厄介な角が生えない牛を作り出す方法を確立したと発表した。「角のない牛」は遺伝子編集革命の広告塔となる動物であり、MITテクノロジーレビューを含むさまざまな記事で取り上げられた。
この「角のない牛」を生み出した米ミネソタ州セントポールの遺伝子編集会社、リコンビネティクス(Recombinetics)にとって、角のない牛は従来よりスピーディーで優れた「分子農業」の新時代を伝える象徴だった。2017年に当時の最高経営責任者(CEO)のタミー・リー・スタノックは、「農場での繁殖で同じ結果を達成できます」と力説し、「これは精密繁殖(precision breeding)です」と説明した。
しかし、そうではなかった。
米国食品医薬品局(FDA)の科学者たちは、「ブリ(Buri)」と名付けられた遺伝子編集された雄牛のゲノム配列を詳しく調べてみた。すると、ブリのゲノムの中にはバクテリアのDNAの一連のつながりが存在し、抗生物質耐性を付与する遺伝子が含まれていることが分かった。
FDAによると、この異なる種のDNAの「意図しない」追加は遺伝子編集過程で発生したという。それを見逃していたリコンビネティクスは、同社の遺伝子編集牛を100%ウシ亜科だと言明し、規制の必要はまったくないとFDAを激しく非難していた。
「予想外のものだったので、見つけられませんでした」と、遺伝子編集による角のない牛を所有するリコンビネティクスの子会社、アクセリジェン(Acceligen)のタッド・ソンステガードCEOは弁明し、より完全な検査を「すべきだった」と振り返る。
この重大ミスは、暑さに強い畜牛や性成熟期に達することのない豚など、遺伝子編集動物のプロトタイプ作成のパイオニア的存在だったリコンビネティクスを失速させるものだ。また、動物繁殖で遺伝子編集の使用を広めようという取り組みを阻むものでもある。リコンビネティクスはこれまでずっと、FDAによる監視に強く異議を唱えてきた。FDAは遺伝子編集された動物を、広範な試験と承認を必要とする新薬として分類している。リコンビネティクスは、FDAは畜産業革命を阻止していると訴え、FDAに監視をやめさせるようにトランプ政権にロビー活動さえしていた。
しかし、遺伝子編集はまだ、推進者が言うほど予測可能でも信頼できるものでもない。それどころか、DNAのピンポイント改変を意図した遺伝子編集操作では、誰も気付かないうちに大きな想定外の変更をもたらす可能性がある。7月に発表された論文でFDAのアレクシス・ノリスとヘザー・ロンバルディが率いる科学者チームは、「ゲノム編集テクノロジーが進化するにつれて、そこで生み出される意図せぬ変更についての理解も深まる」と意見を述べた。同調査チームは、遺伝子編集の誤りは「報告不足」であり、科学者にとって「盲点」だと考えている。
偶発的な遺伝子操作のリスクがあるのは、家畜に限ったことではない。希少疾患を治すためにゲノム編集治療の試験が実施されているが、患者に予定外の遺伝子突然変異が起こる …
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