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ヴァージンが民間初の火星無人ミッション、空中発射で2022年にも
Ms. Tech; Original images: Virgin media/Nasa
Virgin Orbit says it wants to send tiny spacecraft to Mars in 2022

ヴァージンが民間初の火星無人ミッション、空中発射で2022年にも

米国の人工衛星企業であるバージン・オービット(Virgin Orbit)は、火星に向かう3つのミッションを発表した。計画通りに事が運べば、バージン・オービットは火星に向かう初の営利企業となる。 by Neel V. Patel2019.10.16

宇宙旅行を手掛けるヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)のスピンオフ企業で、人工衛星の打ち上げを目的とするヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は10月9日、火星に向かう3つのミッションを発表した。ポーランドの人工衛星開発企業であるサットレボリューション(SatRevolution)やポーランドの複数の大学グループと提携し、3つの小型無人宇宙船を火星に送り、科学調査を実施する。これらのミッションはヴァージン・オービットの主力ロケットであるランチャーワン(LauncherOne)による打ち上げを予定しており、早ければ2022年にも開始する。

もし計画通りに事が運べば、ヴァージン・オービットは火星に向かう初の営利企業となる。さらに、ランチャーワンによる空中発射に重点を置く同社にとっては、深宇宙飛行分野への想定外の参入にもなる。通常、空中発射方式は地球低軌道を超えて宇宙船を飛行させるのには向かないとされている。

ヴァージン・オービットがランチャーワンを実際に飛行させたことはまだないが(今年の終わりごろを予定)、「コズミック・ガール」と呼ばれるボーイング747がこのロケットを高高度まで運び、切り離す計画である。ランチャーワンは空中でエンジンを点火し、宇宙空間に突入する。空中発射方式は、従来のロケット発射方式よりも少ない燃料で済み、シールドも軽量になり、打ち上げ場所や天候に制限がなく、実質的にどこでも打ち上げられる。しかし、大型のロケットや大きな荷物を積んだ航空機は離陸に苦労する。

ジョージア工科大学の航空宇宙エンジニアであるグレン・ライトセイ 教授は、こうした空中発射式のロケットで深宇宙へ行くのは「実に斬新な発想です」と語る。

ライトセイ教授は、こうした打ち上げが現在、可能になった主な理由の1つとして、人工衛星の小型化が進んだことがあげられるという。一世代前と同じデータや画像を、数分の一の大きさの機器で収集できるようになった。サットレボリューションの宇宙船は50キログラム未満だが、火星とその衛星フォボスの撮影や、火星の大気調査、さらに地下水の痕跡を探すための土壌調査の任務を負っている。

ヴァージン・オービットの特別プロジェクトの統括責任者であるウィル・ポメランツ副社長は、米国航空宇宙局(NASA)の有人月面着陸「アルテミス(Artemis)計画」に触発された同社の顧客の多くから、小型の人工衛星を月に送るのにランチャーワンが使えないのかと聞かれたという。そこで同社は、ロケットが地球周回軌道を出て、小さな積載物を深宇宙に送るのに必要な追加の推進力を得られるように、2段式ロケットにブースターを追加できるかどうか検討を始めた。

ポメランツ副社長は、「実に面白い申し出だと思いました。そうしたアイデアは、素晴らしい顧客層から与えられるものです」と話す。同副社長は3つ目のブースターをどう作るのか、詳細は明かさなかったが、固体燃料ロケットや液体推進システムなどの選択肢を考えているようだ。ライトセイ教授は、電気推進システムの追加もよい考えかもしれないという(しかしながら、推力が弱くなれば火星への旅は長くなり、搭載した電子機器が危険量の放射線にさらされる可能性は高くなる)。

ライトセイ教授は、「完璧な解決策はありませんが、さまざまな方法があります。問題を解決することは可能です」と言う。

ヴァージン・オービットは、ロケットを軌道に乗せるのが可能であることをこれから証明する必要があるが、金星や月、近くの小惑星などに向けたミッションの計画をすでに検討している。ポメランツ副社長は、ポーランドのように「長い間宇宙に関心を持っているにもかかわらず、まだ参入していない」コミュニティに深宇宙への扉が開かれることには特別な興奮を覚えるという。

もっとも、宇宙産業が空中発射式に大きく転換するというわけではない。ライトセイ教授によると、現在は最大の積載能力を持つ最大の飛行機でも、キューブサットのような小さな荷物を積んで移動するのがせいぜいだ。ただ、将来的にはおそらく、空中発射式で、小規模な補給ミッションをしたり、小さな荷物を有人の前哨基地や宇宙ステーションに届けたりできるだろうという。

「商用宇宙産業が成長する中で、積載物を宇宙に送るためのより多くの選択肢が生まれており、さまざまな挑戦をしています。こうしたことは、業界にとってよいことです。宇宙旅行がより手ごろになるために必要な過程です」(ライトセイ教授)。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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