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How memes got weaponized: A short history

武器化する「ミーム」
対抗策はあるか?

ミームはジョークとして考えられているが、一部では深刻な脅威と受け止められ始めている。攻撃者の武器として使われる政治的ミームに対抗策はあるか。 by Joan Donovan2019.12.05

2016年10月のことだ。私の友人は、自分の結婚式の写真が右翼系の掲示板に投稿されていることを知らされた。写真は、女性の徴兵を支持するヒラリー・クリントンのキャンペーン広告の画像に加工されていた。最初に画像を見付けた共通の友人は、「レディット(Reddit)でこの画像を見付けたんだけど、自分で作ったの?」とのメッセージを本人に送った。

写真の友人はそのメッセージで、初めてその事実を知ったのだ。明らかに彼のオンライン・ウェディング・アルバムから取得された写真だが、彼は画像の使用に同意していなかった。だが、彼は画像の使用をやめさせることはできないだろうと思った。

友人は、写真を不正使用したネット荒らしを追求することをあきらめ、このことを無視して忘れることにした。多くの友人は笑い話にしていたが、私は大問題だと思った。メディア操作とデマの研究者として、私は友人が「ミーム戦争」で砲弾の餌食になったことをすぐに理解した。ミーム戦争は、政治目的のためにソーシャル・メディアでスローガン、画像、および映像を使用し、デマと半面の真理(一部は真実だが、重要な情報に意図的に触れず誤解を誘う)が利用されることが多い 。

ミームは現在、ネット上のおもしろ画像と考えられる傾向がある。「ミーム」という言葉は、1976年にリチャード・ドーキンス博士が著した『The Selfish Gene(利己的な遺伝子)』で考案した造語だ。ドーキンス博士は同書で、世代を介した文化の伝わり方を説明した。ドーキンス博士の定義では、ミームとはアイデアの拡散によって広がる「文化の単位」である。ミームはオンライン上で特に顕著だ。なぜなら、インターネットがコミュニケーションの成果物としてミームを具現化し、サブカルチャーを通じてミームの流通を加速するからだ。

重要な点は、ミームは共有されると、作成時のコンテキストが失われると共に、作者不詳になることだ。作者の評判や意図から解放され、ミームは文化の共有財産となる。そして、ミームは独り歩きを始める。良識から逸脱したアイデアや、憎悪に満ちたアイデアに対して誰も責任を取る必要はない。

多くの人はミームが現在の出来事を当てこする面白いコメントだと受け止め、無害なエンターテイメントだと考えているが、現況はそれをはるかに超えている。ミーム戦争は私たちの政治の一貫した特徴であり、インターネット荒らしや家の地下室で退屈している子どもだけでなく、世界中の政府、政治家候補者、活動家によって利用されている。ロシアは2016年の米国の大統領選挙に影響を及ぼすため、ミームやその他のソーシャルメディアでこの計略を使った。ロシアの荒らし企業であるインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)を通じて、さまざまなオンライン・プラットフォーム上でトランプ支持と反クリントンのコンテンツを撒き散らした。香港と中国、ガザ地区とイスラエル、インドとパキスタンなどの紛争地域では、当事者双方がミームとプロパガンダの拡散を使って、現地と国際的な感情に揺さぶりをかけている。

たとえば、ジョン・マケインは2007年の大統領選挙運動中に、冗談でビーチ・ボーイズの人気曲『バーバラ・アン』の一節「バ、バ、バ、バ、バーバラ・アン」の部分を「ボム、ボム、ボム、ボム、ボム・イラン(爆弾、爆弾、爆弾、爆弾、イランに爆弾投下)」と歌い始めた。対イラン強硬派のマケインは、ユーモアと親しみやすさという月並みの戦術を使って、起こる可能性がある戦争について訴えた。冗談として容易に受け流せるが、米国の軍事力の恐ろしさを思い起こさせる替え歌だった。しかし、これ …

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