KADOKAWA Technology Review
×
人間とテクノロジー Insider Online限定
How to turn the complex mathematics of vector calculus into simple pictures

ファインマン図に匹敵? ベクトル解析の新たな図式表記を提唱

若き日のリチャード・P・ファインマンが提唱した図式表記法「ファインマンダイアグラム」は、素粒子物理学に大変革をもたらした。同じような変革をベクトル解析にもたらす可能性のある図式表記法を、ソウル大学の研究者らが提唱している。 by Emerging Technology from the arXiv2019.12.03

1949年、物理学専門誌『フィジカル・レビュー(Physical Review)』でコーネル大学のリチャード・P・ファインマンという若い物理学者が「量子電磁力学への時空的アプローチ(Space-Time Approach to Quantum Electrodynamics)」というタイトルの論文を発表した。そこでは、行列を使用して電気力学の問題を解決する新しい方法が説明されていた。しかし、同論文は現在、はるかに影響力の大きい発明である「ファインマンダイアグラム」が初めて記された出版物として知られている。

素粒子間の相互作用を説明する計算を図式表記したファインマンダイアグラムは、物理学に大きな影響を与えてきた。数学的には、各相互作用は無限級数であるため、素粒子間の単純な相互作用でさえ数式で書き表そうとすると途方もなく複雑になる。

ファインマンの天才的なところは、この無限級数をシンプルな線を使って図式表記したことだ。この結果、科学者は素粒子物理学を新しくエキサイティングな方法で考えることができるようになった。

ファインマンと他の人々はすぐに、この図式記号を使用してアイデアを拡張し始めた。実際、1980年代にファインマンと共に研究活動をしていた米国人物理学者のフランク・ウィルチェックは、「2004年にノーベル賞を受賞することになった計算は、ファインマンダイアグラムがなければ文字通り考えつかなかったでしょう」と記したことがある。

もちろん、複雑な計算を使用する物理学の分野はその他にも数多くある。したがって、ファインマンがしたように、図式表記によるイノベーションでそのような複雑な計算を単純化できれば、新たな時代のイノベーションを促進できるのではないかという興味深いアイデアが生まれる。

そこで注目したいのが、ベクトル解析で同様のイノベーションを思いついた韓国ソウル大学校のキム・ジョンヒ博士らの研究チームだ。科学分野で最も広く使われる強力な数学的ツールの1つであるベクトル解析を、図式記号で表現した。同研究チームは「ファインマンダイアグラムが場の量子論に影響を与えたように、図式表記により、ベクトル解析の学習と実践の障壁を下げられると考えています」と述べる。

まず、背景となる知識を少し説明しておこう …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
  2. IU35 Japan Summit 2024: Nobuyuki Yoshioka 「量子コンピューターの用途解明、新たな応用へ」吉岡信行
  3. OpenAI releases its new o3-mini reasoning model for free オープンAI、推論モデル「o3-mini」を無料提供
  4. Inside the race to archive the US government’s websites 米政府系サイトが続々閉鎖、 科学者らが緊急保存作戦
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る