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新型ウイルスのデマ・検閲、
ネット駆使して闘う中国市民
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Meet the Chinese crowdsourcers fighting coronavirus censorship

新型ウイルスのデマ・検閲、
ネット駆使して闘う中国市民

中国当局による情報検閲の一方でデマが蔓延し、新型コロナウィルスの感染をめぐって正しい状況を把握するのが困難になっている。自らの手で事実を得ようと取り組む中国と香港の市民たちがいる。 by Angela Chen2020.02.06

1月27日、中国のソーシャルネットワーク「ウェイボー(Weibo)」にリンダ(仮名)がログインすると、人民日報に好奇心をそそる投稿を見つけた。国中でパニックを引き起こしている新型コロナウイルスに対応するため、湖北省がベッドを10万床追加したというのだ。その数は、まだ数千人しか感染していないという公式報告に見合っておらず、人々はすぐに懸念の反応を示した。すると人民日報のアカウントは、その投稿と関連ハッシュタグをすぐに削除してしまった。

リンダは投稿のスクリーンショットを撮って保存していた。現在リンダは中国北部に住んでいるが、 湖北省の首都でウイルスの震源地である武漢出身だ。リンダは春節(旧正月)の休暇のために武漢にいたが、1月22日に当地を去って帰宅した。1月に入ってからリンダは、家族と共有するためにウイルスに関する情報を収集し始めていたが、当時の当局の対応は「とてものんびり」していたという。

しかし、世界中で関心が高まった後、リンダは社会奉仕活動として、情報の収集と翻訳、アーカイブに時間を費やすことにした。中国政府は、国民を検閲することで有名だ。 すでに、ウイルスへの対応について政府を批判する多くの投稿と、ウイルスに感染した人々の話を削除している。「こうしたアカウントが消えるであろうこと、そして、人々の経験が報道されないであろうことを恐れていました」とリンダは言う。「私は、助けを求めた人々や感染した人々、主に患者と医療従事者の気持ちを残したいだけなのです」。もっとも、アーカイブ内のすべての情報が正確であるとは限らず、リンダもそのリスクを認識しているが、政府筋からの発表がすべてが正確であるわけでもない。

リンダは1日あたり数時間を費やして、ウェイボー、ウィチャット(WeChat)、ドウバン(Douban)などのソーシャルメディア・ネットワークから、公式発表とウイルスに関する個人アカウントの両方を体系的に収集している。その後、英語に翻訳したり、字幕を付けたりして、イメージャー(Imgur)、レディット(Reddit)、ツイッター、ユーチューブに投稿する。リンダは自身を「まったく無資格のソーシャルメディア専門家」と自称するが、彼女の翻訳のいくつかは10万回以上閲覧されている。

最初の症例が12月末に武漢で報告されて以来、新型コロナウイルスは1万2000人近くに感染し、200人以上が死亡し、20カ国以上に広がっている。前例のない動きで、1100万人の都市である武漢とその周辺の都市に住む人々が隔離された。全体で5000万人以上がこの隔離の影響を受けている。

急速に変化する状況において情報を検証することは常に苦労を伴うものだが、報道の自由がなく、当局の発表を市民が疑っている国では特に大変になる。「市民が政府を信頼していないのには明確な理由があります」。米国の人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」の中国研究 …

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