KADOKAWA Technology Review
×
来たれ、世界を変える若きイノベーター
「Innovators Under 35」日本初開催!
新型コロナウイルスがなぜ、気候問題を深刻化させるのか?
(Ms Tech/Getty)
Why the coronavirus outbreak is terrible news for climate change

新型コロナウイルスがなぜ、気候問題を深刻化させるのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延は、気候変動問題の対応にも大きな影を落とす可能性がある。ひとたび世界的パンデミックや経済恐慌が起これば、気候変動に取り組むための各国政府の資金や意思は容易く失われてしまうだろう。 by James Temple2020.03.12

世界的な新型コロナウイルスのアウトブレイクにより、今年の温室効果ガス排出量が減少する可能性が高まっているようだ。公衆衛生の懸念が深まることで飛行機が運航停止になり、国際貿易を圧迫するというのがその理由だ。

急速に広まっているウイルスによる死者はすでに数千人に達し、大勢の人々が隔離されている。だからと言って、このウイルスが気候変動の危険を有意義に減らすと考えるのは早計だ。

過去の経済ショックや疫病、戦争により世界規模の炭素汚染が減少した稀な事例と同様に、二酸化炭素の排出量は経済が回復すればすぐに再び増加する可能性が高い。一方で、もしウイルスが本格的な世界的パンデミックおよび経済恐慌を引き起こせば、気候変動に対する取り組みに対する資金や政治的意思は容易く失われてしまうだろう。

事実、私たちは現時点では、重大かつ差し迫った公衆衛生上の危険であるアウトブレイクの阻止に国際的な注意とリソースの大部分を全面的に割くべきだ。

それでもなお、非常に伝染性が強く、拡散し続けるコロナウイルスが、気候変動の課題を複雑にする恐れがあることには注意すべきだ。長期化すれば気候変動自体が深刻な脅威となる。起こり得る脅威についていくつかのシナリオが考えられる。

  • 資本市場が動かなくなると、企業が保留中の太陽光、風力、および電池プロジェクトを進めるのに必要な資金を確保することが非常に難しくなる。まして新しいプロジェクトを提案することなどできなくなる。
  • 世界の原油価格が3月9日に歴史的な急落を記録したのは、ロシアとサウジアラビア間の価格戦争と、コロナウイルスの懸念によるものだ。ガソリンが安価になれば、すでにより高価な電気自動車を消費者に売り込みにくくなる。それがテスラ(Tesla)の株が3月9日に暴落した理由だ。
  • 中国は、電気自動車やグリッドストレージ・プロジェクトに電力を供給する、世界の太陽光パネル、風力タービン、リチウムイオン電池の巨大なシェアを生産している。中国企業はすでに現在、生産と出荷の減少や供給の問題に取り組んでいると表明しており、海外の再生可能エネルギーのプロジェクトの進行を遅らせている。米国では、アウトブレイクが発生した国との貿易の取り締まりをトランプ政権の一部のメンバーが推し進めているが、クリーンエネルギーのサプライチェーンと流通ネットワークをさらに混乱させるだけだろう。
  • 健康と経済的不安の高まりも、気候変動から国民の注意をそらす可能性がある。気候変動は近年、平均的な有権者にとってますます優先度が高くなり、世界中の若者の活動家の運動の高まりを支える動機付けの力となり、真剣な行動を取るよう政治家に圧力をかけている。しかし、経済不況と公衆衛生危機の真っ只中では、人々の関心は当然のことながら、差し迫った健康への懸念と懐具合の問題、つまり、雇用、老後のための貯蓄、そして住居に集中するようになる。気候変動の長期的な危険は後回しにされるだろう。

 

これらを相殺するシナリオもいくつか考えられる。

ユーラシア・グループ(Eurasia Group)のアナリストがアクシオス(Axios)に語ったように、原油価格の継続的な下落は、主要なエネルギー企業にとってクリーンエネルギーへの長期投資をより魅力的にする可能性がある。また、経済危機に対応して刺激策を講じ、クリーンエネルギーと気候問題への対応に資金を投入する国も出てくるかもしれない。

また、新型コロナウイルスにより、人々がフライトやクルーズ船を恐れ続けたり、リモート労働やバーチャル会議を好むようになったりすると、炭素集約型行動の長期的な変化がもたらされる可能性がある。あるいは、深刻な危険に直面したときの迅速な対応は、気候変動問題への対応に必要な社会的変化を起こせることを示している。

しかし、ニューヨーク大学環境学部のゲルノット・ワグナー特任准教授は、新型コロナウイルスのリスクのほとんどは、気候変動の進行を食い止めるのに不利なものになっており、この時期に引き出されるより大きな教訓には非常に注意する必要があるという。

「中国の二酸化炭素排出量が減少しているのは経済が停止し、人々が死亡しているためです。そして、貧しい人々が薬や食物を手に入れられないからです」とワグナーと特任准教授は言う。「これは、気候変動から二酸化炭素排出を減らす方法としてのアナロジーにはなりません」。

確かに、地球温暖化問題の本質は、広範囲にわたる苦しみや死を避けることにある。したがって重要なのは、コロナウイルスのアウトブレイクの長期的な影響を鑑みる際に、短期的な影響を明確に念頭に置くことだ。それはつまり、多くの感染者や死者が出るということである。

それは明らかに悪いことだ。新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクを遅らせ、適切なケアを提供することが、現在の最優先事項でなければならない。

人気の記事ランキング
  1. There might be even more underground reservoirs of liquid water on Mars 火星の南極に新たな地下湖、生命体が見つかる可能性も
  2. Announcement of the public interview 【10/20生配信】宇宙飛行士・山崎直子さん公開取材のご案内
  3. Satellite mega-constellations risk ruining astronomy forever 増え続ける人工衛星群で天体観測が台無し、解決策はあるか?
  4. Astronauts on the ISS are hunting for the source of another mystery air leak ISSで再び原因不明の空気漏れ、乗組員が発生場所を調査中
  5. Room-temperature superconductivity has been achieved for the first time 世界初、15°C「室温超伝導」達成 夢の新技術へ突破口
ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
Innovators Under 35 Japan 2020

MITテクノロジーレビューが主催するグローバル・アワード「Innovators Under 35」が2020年、日本に上陸する。特定の分野や業界だけでなく、世界全体にとって重要かつ独創的なイノベーターを発信していく取り組みを紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. There might be even more underground reservoirs of liquid water on Mars 火星の南極に新たな地下湖、生命体が見つかる可能性も
  2. Announcement of the public interview 【10/20生配信】宇宙飛行士・山崎直子さん公開取材のご案内
  3. Satellite mega-constellations risk ruining astronomy forever 増え続ける人工衛星群で天体観測が台無し、解決策はあるか?
  4. Astronauts on the ISS are hunting for the source of another mystery air leak ISSで再び原因不明の空気漏れ、乗組員が発生場所を調査中
  5. Room-temperature superconductivity has been achieved for the first time 世界初、15°C「室温超伝導」達成 夢の新技術へ突破口
MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.1/Autumn 2020
MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.1/Autumn 2020AI Issue

技術動向から社会実装の先進事例、倫理・ガバナンスまで、
AI戦略の2020年代のあたらしい指針。

詳細を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る