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「2兆ドル」でも足りない米景気対策、サービス経済化で大打撃
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The official jobless numbers are horrifying. The real situation is even worse.

「2兆ドル」でも足りない米景気対策、サービス経済化で大打撃

新型コロナウイルスの感染拡大によって、経済活動が停止に追い込まれている。米国は過去最大級の2兆ドルの景気刺激策を発表したものの、サービス経済化が進んだ現在、従来型の対策では不十分だ。 by David Rotman2020.04.10

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を遅らせるために多くのサービス経済(レストラン、ホテル、小売店など)が動きを止めたことで、米国は深刻な景気後退へと向かっている。これは「もしも」の話ではない。問われているのは、この破壊的な景気後退がどれほど深刻で、どれだけの期間に及ぶのかということだ。そしておそらく最も重要なのは、誰がその被害を最も大きく被るのかということだ。

3月最終週、米国労働省(Labor Department)は330万人が失業保険を申請したという驚くべき数字を発表した。1週間の失業保険の申請者数の最多記録は1982年の69万5000人だった。330万人という数字は深刻だが、今回の危機の大きさを正確に表しているとはいえない。同様に職を失っている多くのパートタイマーや自営業者、ギグ・ワーカー(インターネットを通じて単発で仕事を請け負う労働者)が含まれていないからだ。

2020年第2四半期(4〜6月)の米国のGDP(国内総生産)が25%減となる推定に基づいて経済学者が試算した数字では、失業者数は夏までに約500万人に達する。セントルイス連邦準備銀行総裁は、夏までに米国の失業率は30%になり、GDPは50%減となると予測している。しかし当然ながら、実際のところは誰にも分からない。1つには、我々は近年これほどまでの危機に直面したことがないからだ。

「世界がどのように変わっていくのかを、知ることはできません」。マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者で、労働経済学の世界的な第一人者であるデビッド・オーター教授は話す。「過去100年をさかのぼっても、このような事態が起こったことはありません」。過去の景気後退や大恐慌における経済的解決策は、需要を刺激して労働者の雇用を取り戻すというのが常だった。だが今回のケースでは意図的に経済活動が止められ、人々は家から出ないように指示されている。「景気後退の深刻さだけの問題ではありません。質的に異なるものです」。

GDPの急激な縮小は大量の失業を伴う景気後退をもたらすが、オーター教授は中小企業のキャッシュフローが止まってしまうことに対しても懸念を抱いている。多くの中小企業は支払いを抱えており、政府の支援がなければ経営は立ち行かなくなるだろう。こうした混乱により、アウトブレイクを抑え込んだ後の経済の再スタートは、より一層困難なものになると考えられる。また、新型コロナウイルスを克服するまでに、どれほどの時間がかかるのかも不透明だ。不透明さは、ビジネスにとって常にマイナス要因となる。

今後の景気後退における最大の恐怖の1つは、このような状況に対して最も弱い立場にある人々、レストランやホテルなどで働く低賃金のサービス業の労働者や、増加を続けているギグ・エコノミーで収入を得ている人々が最も大きな打撃を受けるということだ。この20年で、米国経済においてサービス業の労働者が占める割合は大きくなった。オーター教授によると、事務および製造における熟練労働者や半熟練労働者の雇用が縮小したため、学位を持たない人々がサービス業で働く割合が増えている。元々低賃金で福利厚生も乏しいサービス業界で働く人々が、最も大きな被害を受けることになる。

「経済が良いときでも彼らは弱い立場にあり、経済状況が悪くなればより一層脆弱な存在になってしまいます。そして、今は非常に悪い状況なのです」。

サービス経済を止めることはアウトブレイクを遅らせるためには「非常に適切」であり、間違いなく必要なことだとオーター教授はいう。だがそれは影響を受ける労働者や企業が閉鎖という状況を乗り切れる援助をし、アウトブレイクを抑え込んだ後に経済を再スタートさせるための支援が必要だということを意味している。

3月27日に可決・成立した2兆ドルの景気刺激法には、そのための仕組みが組み込まれている。この景気刺激法により、年収7万5000ドル未満の国民1人あたり1200ドルが支給される。また、ギグ・ワーカーおよび自営業者にも初めて失業保険が適用され、企業の経営破綻を防ぐために数千億ドルが投入される予定だ。

景気刺激法が完璧ではないと語るのは、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学者アリンドラジット・デュベ教授だ。だが、失業保険の増額や適用範囲の拡大は、職を失うことになる数百万人の労働者に対して有効な支援になるという。そういった意味では、このプランは「現状の大幅な改善」だと話す。

経済が止まることにより、他の地域よりも大きな打撃を受ける地域が出てくるのは確かだ。米シンクタンクのブルッキングス研究所は、ホテルや観光客に依存しているラスベガスやオーランドといった都市は深刻な影響を受けると予測。一方で好況に湧くハイテク都市のカリフォルニア州サンノゼや、ユタ州プロボなどは比較的影響が少ないと見る。同研究所による報告書を共同執筆したマーク・ムーロ上級研究員によると、最も深刻な影響を受けるのは「巨大なレジャー・ホスピタリティ産業に依存している地域」だが、サービス経済が大きな割合を占める地域も広い範囲で大きな打撃を受けることになる。

ブルッキングス研究所は、これら影響の大きい地域に対する地方救済策を最優先すべきだと主張している。これらの地域の多くは、2008年の金融危機からまだ回復していないという。いま支援しなければ「より深刻な永久的被害が出ます。州政府と地方自治体が痛みを感じることになるでしょう」。

ムーロ上級研究員は、今回の景気刺激法による支援は「規模や柔軟性、地域の絞り込みが不十分」と話す。州や地方自治体が必要としているのは、個人に対する現金支給に相当する、制限のない資金だという。連邦政府は前回の景気後退から回復できていない地域をはじめ、特に大きな問題を抱えている地域に対して、より重点的な支援をする必要があるとしている。

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デビッド ロットマン [David Rotman]米国版 編集主幹
MIT Technology Review編集者として、多くの時間を費やしてストーリーのタイプや読者に最高の価値があるジャーナリズムについて考えています。好奇心旺盛で博識な読者は、エマージング・テクノロジーについて何を知るべきか? 著者として、私が最近特に関心があるのは、化学、材料科学、エネルギー、製造業と経済の交わりです。
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