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Should an Amazon Echo Help Solve a Murder?

アマゾン・エコーが殺人を録音? 当局の開示要求をアマゾンは拒否

捜査当局はアマゾンに対し、容疑者が所有するエコーに記録されたデータの開示を要求した。IoTとプライバシーに関する微妙な疑問が生じてくる。 by Michael Reilly2016.12.28

警察はアマゾンに対し、殺人事件の犯行中スピーカー型の人工知能アシスタント「エコー」に記録された可能性があるデータの提供を求めた。こんな事態の発生は時間の問題だった。IoT時代の記念碑的出来事といえそうな事件だ。

インフォメーションの記事(ペイウォール)によれば、2015年11月21日の夜、ビクター・コリンズさんがカンザス州ベントンヴィルにある職場の友人ジェームズ・アンドリュー・ベイツ容疑者の自宅に訪問して亡くなった。翌朝、浴槽でコリンズさんの遺体が発見され、ベイツ容疑者は第一級殺人罪で起訴された。

ベイツ容疑者は自宅にいくつかのスマート機器を所持しており、その中のひとつがエコーだった。エコーは通常、アイドル状態で指示を待っており、内蔵マイクが「アレクサ」といったキーワードを拾うと録音が始まり、アマゾンのサーバーにデータが送られる。しかし、インフォメーションが指摘しているように、エコーが誤って起動し、人々が知らないうちに音声の断片が記録されていても不思議ではない。

捜査官は明らかに徹底した捜査により、事件の夜に何があったのかを解明するあらゆる手掛かり(ベイツ容疑者のスマート水道メーターも一例だ。水道メーターは事件当夜の午前1時から3時の間に約530リットルの水が使われたことを示している。検察当局は水量から、ベイツ容疑者がコリンズさん殺害後に血液を洗い流したと主張している)を探している。

アマゾン・エコー

この事件はある種の、というよりは、避けて通れない微妙な疑問を想起せずにはいられない。この状況でアマゾンにはどんな責任があるのか? アマゾンは現在、捜査当局の要求を拒否しているが、そんなことは許されるのか? 殺人の可能性がある事件の捜査で、真相を究明しようと努力している捜査官に、データの利用を認めるべきではないのか? たとえデータが、 ベイツ容疑者の自宅にある、容疑者が所有するエコーに、知らぬ間に記録されたとしても?

2016年、同種の問題が顕在化した。米国連邦捜査局(FBI)はアップルに対し、サンバーナーディーノで銃撃事件を起こした犯人の一人、サイード・ファルークが所持していたiPhoneのロックを解除するよう求めたが、同社はかたくなに協力を拒んだ。スタンフォード大学のウッドロウ・ハートゾーグ助教授が 寄稿記事で述べているように、アップルとFBIが直面した司法をめぐる曖昧さは、近いうちにIoTデバイスに広がるのは明白だった。

アマゾン・エコーのようなアシスタント・テクノロジーを想定してみよう。「ハロー・エコー」といった言葉に対し「常に聞き耳を立てている」よう設計されているが、起動されるまで本格的には音声データを分析、保存、 送信しない、という機器だ。法的処置を目的として機器が記録する音声のほとんどを修復することは、製品の機能上不可能だ。 だからといって、司法機関はエコーをワラント・プルーフ(令状があっても踏み込めないこと)のテクノロジーだとみなすべきなのだろうか? IoTの台頭によって「データを処理できない」モノの数は日に日に少なくなっている。政府は過去10年間のデータ保持を命じる法律の制定を要求した。司法当局が捜査に利用できるよう、あらゆるテクノロジーが音声データを保持するように設計されるべきだろうか?

ハートゾーグ助教授は当局がテック企業にユーザーが生成したあらゆるデータの保持を強制できるようにすべきではないと論じた。音声データなど、一部の情報が消去されることを認めることは、必ずしも悪いことではないという。

もちろん、この議論のもう一方には、コリンズさんの殺害事件の捜査当局の主張がある。アマゾンのサーバーにあるデータは、犯罪者を裁判にかける上で有用である可能性が非常に高い。であるなら、捜査官が情報を得られるようにすべきだ。

アップルは死亡したテロリストのiPhoneをめぐるFBIとの対立から膠着状態に陥り、十全な解決策は見いだせなかった。予想通り、このアーカンソー州の事件は、IoT分野にもこの対立をもたらしている。私たちがこのようなテクノロジーを使えば使うほど、この種の問題が生じる場面は多くなり、 企業と立法者が協力して前進に向けた明確な合意がなされない限り、問題は複雑さを増し続けるだろう。

(関連記事:The Information (paywall), “The Feds Are Wrong to Warn of ‘Warrant-Proof’ Phones,” “Amazon Working on Making Alexa Recognize Your Emotions,” “What if Apple is Wrong?”)

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