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クリスパー開発者らが挑む
「全員検査」を実現する技術
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How to test everyone for the coronavirus

クリスパー開発者らが挑む
「全員検査」を実現する技術

遺伝子編集ツール「CRISPR(クリスパー)」の共同開発者や、次世代DNAシーケンサーの開発者が、新型コロナウイルスの検査を大規模に実施する技術の開発に取り組んでいる。検査を携帯電話のような「ありきたり」なものにするのが目標だ。 by Antonio Regalado2020.05.14

「私にとっては初めての世界規模のパンデミックです。皆さんにとってはどうでしょうか?」。ジョナサン・ロスバーグ博士は知りたがった。

精力的なバイオテック起業家であるロスバーグ博士は、MITテクノロジーレビューが初めて電話で連絡を取った3月中旬から、自身のスーパーヨット「ジーンマシン号」で隔離生活を送っている。高速DNAシーケンサー、さらに最近では革命的な廉価版の超音波機器を発明したロスバーグ博士は、パンデミック(世界的な流行)が襲来したとき、カリブ海を航行していた。

「私の休暇中に世界が突然大変なことになりました」。ロスバーグ博士はいう。ロスバーグ博士があるプランを思いつくのに時間はかからなかった。船内の小さな実験室を通りかかったとき、やるべきことを決心した。「私は、すべての検査を家庭でできる方法を編み出してはどうかと言いました」。ロスバーグ博士は回想する。それ以来、自身が所有する企業の1つであるホモデウス(HomoDeus)の約60名からなるチームに指示を出し、新型コロナウイルスの家庭用遺伝子検査の開発を進めている。

新型コロナウイルスの検査方法としてもっとも正確な部類である遺伝子検査は、いまのところ、研究機関や特別な病院でのみ実施されている。ロスバーグ博士は、シンプルかつ正確で安価な検査の開発を試みている1人だ。

ロスバーグ博士は、世界を封鎖(ロックダウン)から解放したいならば、検査が携帯電話と同じぐらい「ありきたり」なものになる必要があると考えている。「私たちは、誰もがいますぐまたは将来にわたって、いつでもどこでも診断できるようにします」。ロスバーグ博士はツイッターでこう述べた。ロスバーグ博士のツイッターにはボートで撮った写真が掲載され、最新の進捗情報が提供されている。

誰が実現するのか?

米国は新型コロナウイルス検査の展開で大きくしくじった。検査数が限られている現在、あらゆる人が常に検査を受けることができる可能性は、賢い起業家グループや一流の学術機関のアイデアといった、民間の取り組みにかかっているようだ。

地球上の人口の約半数が、新型コロナウイルスの拡散を食い止めるための自宅待機命令下にある。社会的な隔離を終わらせて経済活動を再開させるという次のステップは、ウイルスの監視と追跡にかかっている。そのためには、駐車場やドライブスルー形式、あるいは家庭で実施できる大規模な検査が必要となる可能性があり、検査の実施によって人は自分が感染しているかをすぐに知ることができる。

ハーバード・ビジネス・レビューなどで発表された「新しい日常」へ復帰するための提言では、感染を軽減できるかどうかにかかっていると述べられている。重要な要素には、医療機関の崩壊を回避し、全従業員向けのマスクを準備することに加え、感染者または感染経験者を特定するための「十分な検査能力が利用できること」が含まれている。

正確には、一体どれくらいの検査が必要なのだろうか? COVID追跡プロジェクトによると、現在米国では、民間の試験所や保健局が1日あたり約14万人分の検査を実施しており、さらにこの業務を拡大することは可能だという。しかし、職場復帰のためには、これよりもはるかに多くの検査を実施する必要がある。規模の大きさについての共通見解は存在しないが、1日あたり数百万人分の検査を実施する必要があるとの予測もある。

経済活動の再開に向け、ホワイトハウスは「米国再開評議会(Council to Reopen America)」という新型コロナウイルス関連の新たなタスクフォースを結成したものの、職場復帰のための検査に関する計画の詳細は明らかにされていない。4月11日、トランプ政権で検査を統括するブレット・ジロワールは、5月には検査数が経済活動の再開を裏付けるのに必要な水準まで増加するものの、全員を検査することは「物理的に不可能」で、そのための戦略もないと語った。

広範かつ頻繁に繰り返し実施できる検査に関する問題解決は、民間部門に委ねられているようだ。ハーバード・ビジネス・レビューで「職場復帰プラン」の記事を執筆した、同ビジネススクールのアミターブ・チャンドラ教授は、「すべての雇用主と保険会社が検査を望んでいますが、誰もがみな、誰か他の人が実施してくれるだろうと考えています」という。

たとえ大規模な検査が高くついたとしても、実際にはこの危機から脱出する安価な方法の1つである可能性がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソン教授は、仮に1回の検査が3ドルだとすると、90億ドルで米国民全員を半年かけて10回ずつ検査することができるという。「それは最近実施した救済措置にかけた費用の0.3%です」とブリニョルフソン教授はツイートした。

大規模な検査の実施

全国民の検査を実施するための連邦政府あるいは州政府の明確なプランは存在しないが、複数の研究機関によると、検査の実施を可能にするテクノロジーは …

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