KADOKAWA Technology Review
×
新型コロナ、免疫が持続しない可能性も=「風邪」にヒント
Ms Tech | Twenty20
生物工学/医療 無料会員限定
What if immunity to covid-19 doesn’t last?

新型コロナ、免疫が持続しない可能性も=「風邪」にヒント

パンデミックの収束に関する多くの議論では、新型コロナウイルス感染症にかかって獲得する免疫がある程度長く持続することを前提としている。しかし、一般的な風邪の症状を引き起こす別のいくつかのコロナウイルスについての研究で、免疫が持続する期間はさほど長くないことが分かった。 by Antonio Regalado2020.05.05

2016年秋から2018年にかけて、マンハッタンにあるコロンビア大学の研究者は、191人の子ども、教師、救急隊員を対象に、鼻腔を拭った綿棒を収集し、くしゃみや喉の痛みがあったらそのことを記録してほしいと依頼した。一般的な呼吸器系ウイルスとそのウイルスが引き起こす症状、回復した人のそれぞれのウイルスに対する免疫の持続期間を把握することが目的だった。

研究対象のウイルスには、HCoV-HKU1、HCoV-NL63、HCoV-OC43、およびHCoV-229Eの4種類のヒトコロナウイルス(HCoV)が含まれていた。この4種類のコロナウイルスは毎年広く流行するが、一般的な風邪の症状を引き起こすだけなので、あまり注目されていない。しかし、同じコロナウイルス科に属する新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」が世界中で都市封鎖を引き起こしている今、軽度な症状を引き起こすコロナウイルスに関する情報はパンデミックの今後の展開を予測するヒントになる。

コロンビア大学の研究者が発表した暫定的な報告書は不安をもたらす内容だ。人は頻繁に同じコロナウイルスに再感染し、同じ年に再感染することさえあり、人によっては複数回再感染することもあることが明らかになった。1年半の調査期間に調査参加者の12人が同じウイルスに対して2回または3回陽性反応を示した。そのうちの1人はわずか4週間後に再び陽性反応を示した。

この結果は、一度感染すれば免疫が生涯持続するとが見込まれる麻疹(はしか)や水痘などの感染症とまったく異なるパターンを示している。

研究対象とした4種類のコロナウイルスでは「免疫の持続期間が極めて短いようです」と語るのは、博士研究員のマルタ・ガランティと共同で研究を実施したジェフリー・シャーマン教授だ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が同じパターンに従うかどうかは不明だが、コロンビア大学が示したこの研究結果は、パンデミックについての議論の多くが誤解を招きかねないことを示唆している。新型コロナウイルス感染症の収束をめぐっては、「感染ピーク越え」を目指す議論や、回復した人への「免疫パスポート」交付について話している人もいれば、感染が一般に考えられているより広範囲に拡大し、多数の死者を許容して感染拡大を抑えるのに十分なレベルの集団免疫を獲得することを望んでいる人もいる。

こうした人々は、免疫が長く持続すると想定している。だが、免疫は一時的なものに過ぎない可能性があるのだ。

メリーランド大学でコロナウイルス科を専門に研究しているマシュー・フリーマン准教授は、「私はこれまで、体内に抗体ができても、毎年冬にコロナウイルスに感染すると伝えてきました。誰も私の話を信じませんが、真実です」と語る。つまり、ほとんどの人の身体ですでにコロナウイルスに対する抗体が作られていたとしても、その人たちは再びコロナウイルスに感染するということだ。「時間の経過に伴いコロナウイルスが変化するからなのか、抗体が感染を予防できないからなのか、理由はまったく分かっていません」と、フリーマン准教授はいう。

決定的要因

現在、世界はパンデミックの最中にある。つまり、人が非常に感染しやすい新しいウイルスが地球上で急増している状態だ。人類はまだ新型コロナウイルス感染症に対して無防備だ。4月26日現在、確認された感染者数は約300万人。すなわち、世界で2500人に1人が感染している(実際の感染者数は間違いなくそれ以上だが、それでも感染者数はおそらく世界人口のごく一部にすぎない)。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局の葛西健事務局長は、ワクチンが利用可能になるまで世界は「新しい日常」に備えるべきだと警告した。

ただし、さらに長期的な視点では、社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンス)や航空便の運行停止などの変化は、人類の運命を定めるもっとも大きな要因にはならないかもしれない。最終的に新型コロナウイルス感染症の死者数を決定するのは、人々が新型コロナウイルスに対する免疫を獲得するかどうか、およびどのくらいの期間免疫を獲得するかどうかだと考える研究者もいる。

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中! ひと月あたり1,000円で読み放題
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る