ニューヨーク州オチゴ郡でIT部門を統括するブライアン・ポコルニー部長は以前から、コールセンター用の人工知能(AI)システムについて耳にしていた。だが、AIシステムの費用を郡の予算で賄うことは難しいだろうと思い込んでいた。その後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが起こり、州知事はすべての州職員を50%削減するよう命じ、オチゴ郡もコールセンターの職員の多くを解雇せざるを得なくなった。その一方で、多くの市民が信頼性の高い新型コロナウイルス関連の助言や医療情報を求めるようになり、郡に掛かってくる電話の件数は急増していた。
そこで、ポコルニー部長は、最初に提案が届いたAIチャットボット・ソリューション「ワトソン・アシスタント・フォー・シチズンズ(Watson Assistant for Citizens)」を採用した。IBMが、政府機関や医療機関、研究機関に90日間の無料トライアルを提供し始めたシステムだった。契約から数日以内に、ワトソンのチームの支援でチャットボットを配備し、感染症の症状の見分け方や検査の受け方など、よくある問い合わせに対応し始めた。問い合わせの高度化に応じてチャットボットの対応を更新し、拡張することも容易だった。
新型コロナウイルス感染症の危機が長引く中、人手不足の政府機関や食料雑貨店、金融サービスなどが、新たに増えた電話問い合わせに対処するため、同様のシステムの構築を急いでいる。IBMでは、今年2月から4月にかけてワトソン・アシスタントへのトラフィックが40%上昇。4月には、グーグルも「コンタクト・センターAI(Contact Center A)」の特別版である「ラピッド・レスポンス・バーチャル・エージェント(Rapid Response Virtual Agent)」をリリースし、顧客の要求に応じてサービス料金を引き下げている。
コールセンターは以前から自動化がもっとも進んでいる分野だったが、今回のパンデミックでその流れが加速している。切迫している組織は、新たなツールを試すのにより積極的だ。この機会に乗じようと、AI企業は導入しやすくして売り込みを強めている。ここ数年の自然言語処理の進化によって、以前は魅力のなかった自動コールシステムが劇的に改善。最新世代のチャットボットや音声ベースのエージェントは構築が簡単で、すばやく展開でき、ユーザー …
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