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学校に通わせても大丈夫?新型コロナ、子どもに関する3つの疑問
Maxwell Holyoke-Hirsch
Is it safe to send kids back to school?

学校に通わせても大丈夫?新型コロナ、子どもに関する3つの疑問

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう米国や英国では、学校再開は秋以降になりそうだ。しかし、パンデミックがいったん収まりを見せたとしても、他人と密接に接触する可能性の高い学校に子どもを通わせることに不安を感じる保護者は多いだろう。 by Charlotte Jee2020.07.02

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)には誰もが混乱・当惑させられている。特に子どもたちはそうだ。英国や米国のほとんどの州で、学校は3月に閉鎖された。その多くは秋まで門を閉ざしておくだろう。つまり、6カ月間は学校生活という日常がないということであり、オンライン授業に参加できない多くの子どもたちにとっては、いかなる正式な教育も実施されない大幅な中断であることは言うまでもない。

これは地球規模の問題だ。国連によると、学校は191カ国で閉鎖され、15億人以上の生徒と6300万人の教師に影響を与えている。だが、現在多くの国で慎重に学校が再開されている。ドイツ、デンマーク、ベトナム、ニュージーランド、中国では、子どもたちの大部分が教室に戻っている。これらの国すべてには2つの共通点がある。感染率が低いこと、感染症の発生を追跡するかなり安定した能力があるということだ。

症例数が比較的多く、追跡システムがまだ初期段階である英国や米国はどうだろうか? 子どもたちが復学しても大丈夫だとどう判断するのだろうか。確固たる保証はどこにもない。だが、保護者がリスクのレベルを判断するうえで、答えを知っておくべき3つの質問がある。新型コロナウイルス感染症に子どもたちはどれほど感染しやすいのか? 新型コロナウイルス感染症は子どもたちにどれほど悪影響を及ぼすのか? そして、子どもたちは新型コロナウイルス感染症を他人にうつすのか? の3つだ。

子どもは大人よりも新型コロナウイルス感染症の感染率が低いことが分かっている。正確には感染率は約半分だ。これはロンドン大学衛生熱帯医学大学院 (London School of Hygiene & Tropical Medicine:LSHTM)が中国、イタリア、日本、シンガポール、カナダ、韓国のデータを使用して実施した最近の研究によるもので、ネイチャー・ メディシン(Nature Medicine)誌で発表された。米国疾病予防管理センター(CDC)が実施した新型コロナウイルス感染症の患者14万9760人を対象とした調査では、17歳以下の子どもたち(米国人口の22%を構成する)の割合は、全米で確認された感染者の2%に満たないことが判明している。

これらの調査結果は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)の研究者らが実施した18の調査のメタ分析で裏付けられた。それによると18歳未満の子どもは、感染者から新型コロナウイルスをうつされる確率が大人よりも56%低いと判明した。その一方で、子どもたちは大人よりも、特に学校で、他人と密接に(濃厚に)接触する可能性が高く、もともとウイルスに感染する可能性が低いことから得られる予防効果が軽減されてしまう可能性もある。たとえそうであっても、上述の数値は頼もしく見える。

このような調査結果は出ているが、もし子どもが感染してしまった場合、どれほど悪い影響があるのだろうか。

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の調査は、子どもが新型コロナウイルスに感染した場合、通常、その症状は非常に穏やかだと示している。70歳以上の成人の69%と比較して、10〜19歳の子どもたちは5人に1人(20%)だけが臨床症状を呈した。子どもが新型コロナウイルス感染症で死亡する確率は極めて低い。ケンブリッジ大学の統計学者であるデイビット・スピーゲルハルター(David Spiegelhalter)教授が分析した公式データによると、イングランドとウェールズにおける9週間にわたるパンデミックのピーク時に、14歳以下の子どもの死者数は、その年齢層の人口約1100万人のうち、たった5人だった。学術誌パブリックヘルス(Public Health)のプレプリント(査読前論文)によると、5月19日までに、7か国の1億3700万人を超える19歳以下の子どものうち、44人が新型コロナウイルス感染症により死亡したことが分かった。これは300万人に1人未満の割合だ。新型コロナウイルス感染症に関連して、川崎病に似た、好ましくない炎症性症候群が子どもの間で新たに発生しているものの、極めて稀だ。「世界中で報告された症例は500例に満たないと思います」と言うのは、テネシー州ナッシュビルにあるバンダービルト感染・免疫・炎症研究所(Vanderbilt Institute for Infection, Immunology, and Inflammation)のティナ・ハータート教授だ。つまり、保護者は子どもたちが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したらどうなるかについて、過度に心配する必要はないということのようだ。

最後の極めて重要な疑問は、子どもは新型コロナウイルスに感染すると、どの程度拡散させてしまうかだ。コロンビア大学の感染症専門家ジェフリー・シャーマン博士は「論文審査のある学術専門誌を見ると、さまざまな意見があります。簡単に言ってしまうと、分かりません」と話す。新型コロナウイルスに感染したフランス・アルプスの9歳の少年は、学校内での濃厚接触を含め、170人以上と接触したにもかかわらず、ウイルスを誰にも感染させなかった。ただし、1つの研究に捕らわれるべきではない。他方では、ベルリンの研究者らが3712人の新型コロナウイルス感染者を検査し、そのうち127人が20歳未満であり、子どもも大人と同じウイルスを運ぶ可能性があると結論づけた。それは感染力と相関関係があるようだ。

最も恐れることの1つは、子どもが学校で新型コロナウイルスを拾って持ち帰り、高齢者に感染させてしまうことだ。「子どもたちへのリスクは低く、私や妻はまだいいのですが、子どもたちが学校に戻って、それから私の両親に会うのは心配ですね」とキルスティン・ミンシャルは言う。ミンシャルは9歳と11歳の2人の男の子の父親で、英国のケントにある海辺の街に住んでいる。

子どもが新型コロナウイルスを家庭に持ち込む可能性はある。中国の調査では、10歳未満の子どもが家庭内の「発端者」だったケースが3件確認された。だがそれも稀なようだ。

問題の核心はデータだ。もっと正確に言えば、データの欠如だ。子どもは新型コロナウイルス感染症にかかる可能性が低く、感染した場合でもその症状は軽いため、医者にかかったり検査を受けたりする可能性が低くなるからだ。つまり、この疑問に答えるための質の高い、信頼できるデータが手に入りにくい。

先月開始された、米国立衛生研究所(NIH)が資金提供する米国の大規模な調査が役に立つはずだ。2週間に1度、10の都市で約2000の家族の鼻腔から綿棒で採取した分泌物を検査する。調査を指揮するハータート教授は、目的は新型コロナウイルスの伝染において子どもたちがどんな役割を果たすかを解明することだと言う。研究への参加登録はちょうど終わったところで、最初の結果が数週間以内に出るだろうと同教授は考えている。

血液サンプル中の新型コロナウイルス感染症に対する抗体の存在を検査する血清学的調査を人口集団にわたって実施することも、データの抜けを埋める助けになるだろう。学校が再開した地域と再開していない地域を比較する調査も非常に役に立つ可能性がある。もし子どもたちが感染症にかかりにくいということが事実であるという結論になれば、学校を閉鎖することは、社会全体の感染を減らすための重要な手段ではないことを意味すると、この調査の関係者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の感染症モデル作成者のロザリンド・エゴ博士は述べる。しかし、パンデミックの発生時に実施された他のすべての対策から「学校閉鎖」だけを切り離すのは注意が必要だとエゴ博士は警告する。

「学校が閉鎖されたときに病気の伝染がどうなったかを解明することは非常に困難です。学校閉鎖は、全体的なロックダウン、社会的距離政策、衛生状態の改善といった他の対策と同時に始まったからです」(エゴ博士)。

だが、こうした調査はどれも、ある主要グループに目を向けていない。それは、学校を学校として機能させているグループ、すなわち教師である。

「高齢の教師もいるので、簡単な答えはありません。彼らは非常にハイリスクです」。ハータート教授は言う。世界中で再開された学校の多くは、グループ間で接触する機会を最小限に抑えるための距離対策やスケジューリング対策を導入している。

「私はスーパーマーケットに行くよりも、教えることの方が怖くないですね」。ロンドンのアレクサンドラ・パーク・スクール(Alexandra Park School)のマーリン・スリンゲンバーグ生物学部長は言う。ロンドンにはほんの一部の生徒向けに再開している学校がいくつかある。それは学校が安全性を優先しているからだとスリンゲンバーグ部長は話す。例えば、生徒は授業の合間に手を消毒しなければならず、教師はクラス最前列の生徒から少なくとも2メートル離れる必要があり、トイレは「1人ずつ」という厳格な方針があるからだ。

とはいえ、大多数の生徒はまだ学校に戻っていない。スリンゲンバーグ部長は、9月に学校が完全に再開されたとき、安全対策を維持できなくなるのではないかと危惧している。「1週間おきの登校であれば可能です。1600人も生徒がいると難しいでしょう。授業の切替時には特にです」(スリンゲンバーグ部長)。

結局のところ、学校にとって極めて重要なことは、柔軟に対応できる能力があるかどうかだろう。感染症の発生の可能性を注意深く監視し、必要ならすばやく休校にすることだ。

もっともなことだが、学校に対しては、子どもの安全を守るように保護者からの多大なプレッシャーがあり、保護者の多くは子どもたちを復学させることにまだ抵抗があるとスリンゲンバーグ部長は言う。だが、保護者たちのほとんどが、それが微妙なバランスであることは認めている。「とにかく重要なのは、新型コロナのリスクを、子どもたちが適切な教育を受けること、子どもたちのメンタルヘルスに気を配ることと比べて検討することです」。2人の男の子の父親であるミンシャルはこう話している。

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シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。
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