KADOKAWA Technology Review
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ネット授業に取り残された子どもたち パンデミックで広がる教育格差
Cathryn Virginia
The children being left behind by America’s online schooling

ネット授業に取り残された子どもたち パンデミックで広がる教育格差

新型コロナ感染症で多くの学校が閉鎖になり、子どもたちはズーム(ZOOM)などを使ったオンライン授業へ移行している。こうした中で、米国では経済的な理由でインターネットを利用できない子どもたちが学習に後れを取り、教育格差が拡大することが懸念されている。 by Tanya Basu2020.05.19

米国に暮らす大半の子どもたちと同じように、フアナはこの2か月間、学校に通えていない。母のディルマは 小学2年生になる前に退学し、英語が話せない。最近まで、カリフォルニア州オークランドに住むフアナの家族が持っていたのは、グアテマラの実家に電話を掛けるのに使うとてもシンプルな携帯電話だけだった。

教師や友達とつながるためのコンピューターを持っていないフアナは、徐々に後れを取り始めた。米国の子どもたちが「ズーム(ZOOM)」を使って充実した授業を受ける一方、彼女が隔離生活の最初のひと月にできたのは、アルファベットの練習と、スペイン語で数を数える練習だけだった。 学校からフアナのもとに「クロームブック(Chromebook:グーグルのChrome OS を搭載したコンピューター)」が届いたのは、つい2、3週間前のことで、カリフォルニア州が封鎖を始めた3月16日からかなりの時間がたっていた。そのうえフアナには、インターネットへアクセス手段がなかった。家には無線接続の設備はなく、ディルマは自分の携帯電話でインターネットに接続したことがなかった。

一家がインターネットを使えるように取り計らったのは、フアナの担任教師であるサラ・シェピチだった。3月中旬から、シェピチは生徒の父母や地元のインターネット業者、学校当局、教員組合と電話で何時間も話し合い、生徒とその家族にクロームブックとWi-Fiを提供しようと試みてきた。運が良ければ、ワッツアップ(WhatsApp)やフェイスタイム( FaceTime)を通じて生徒とやり取りができる。だが、新型コロナ感染症の危機が発生した直後の1カ月間、クロームブックとインターネット接続をきちんとセットアップできた家庭はほとんどなかった。

新型コロナウイルスの危機によって、長年の課題とされてきた米国における情報格差が顕著になり、テクノロジーの利用を巡る不平等が浮き彫りになっている。学校閉鎖が指示されたとき、資金難を抱える学区は突如、自宅学習への対応という困難に直面することになった。閉鎖期間が1週間、また1週間と過ぎていくなか、大勢の貧しい生徒の学習の遅れはますます大きくなっている。

シェピチの生徒と家族にとってこの問題がより深刻なのは、彼らがグアテマラの中でも、スペイン語との共通点が乏しいマム語というマヤ系言語を話す地方の出身だからだ。多くの家族は移民登録がないことに加えて、自宅のインターネット契約に必要なコミュニケーションや事務手続きの能力を欠いている。

「休校前の最終日は大混乱でした」。シェピチはいう。「朝の9時に、当分の間休校になるという知らせが校長宛に届きました。教員たちは今後2~4週間に子どもたちが取り組むべき課題をグーグル・フォームに書き込んでいきました」。だが、シェピチの生徒多くは、グーグル・フォームにほとんどアクセスできない。「学校当局はもっと情報を集めようとしていました。クロームブックを生徒の家に送っている学校もいくつかありましたが、私は4枚組のシートを就学前クラスのWebサイトに上げる作業をしながら、 帰宅する生徒に本を渡していました」。

シェピチの勤務する学区は、シリコンバレーから目と鼻の先だ。 シリコンバレーでは、テック企業が無償でテクノロジーを提供すると早々に宣言していた。 特にグーグルは、 クロームブック4000台とカリフォルニア州全域で10万か所の Wi-Fiスポットを寄贈すると発表した。ギャビン・ニューサム州知事は同社を称賛し、「グーグルのような企業がもっと必要です」と訴えた。

だが、4000台のクロームブックも焼け石に水でしかない。エドソース(EdSource)の最近の報告では、デバイスまたはインターネットへのアクセス手段を持たない生徒の数は、カリフォルニア州内で1200万人に上るとされている。

一方、カリフォルニア州から東海岸に向けて国を半ば横切ったところに位置するデトロイト公立学校コミュニティ学区(DPSCD)では、まったく異なるシナリオが展開されている。DPSCDもまた、貧困と大方の予想を下回るテスト得点、資金難を抱えた学区だ。

デトロイト公立学校(DPS)財団の理事長兼CEO(最高経営責任者)を務める パメラ・ムーアは、「大きさや人口統計が似通った他の都市と比較してみると、家庭におけるテクノロジーやデバイスへのアクセスの面でデトロイトは最下層に属します」と語る。インターネットに接続されたデバイスを持っている生徒はたったの10~15%だった。「ここでは情報格差が深刻な問題なのです」とムーア理事長はいう。

しかし、オークランドの多くの生徒とは違い、デトロイトの生徒たちには無料のタブレットとインターネットアクセスが提供されている。理由の1つは、優れた計画性だ。ムーア理事長によれば、当局は2月から計画を練り始めたという。学区長は、ムーア理事長のほか、地元電力会社のDTEエナジー、 クイッケン・ローンズ(Quicken Loans) (両社ともデトロイトに本社を置いている)、スキルマン財団( Skillman Foundation)などと協力して、2330万ドルの資金を調達している。

これだけの資金を投入すれば、設定済みのウィンドウズ・タブレットと6か月間無料のインターネットアクセス、そして本人と家族向けのテクニカルサポートを、7月までにすべての生徒に提供するのには十分だ。それ以降は、各家庭がひと月9ドル99セントを支払うが、経済的に困難な家庭は支援制度に申し込める。 デトロイト公立学校財団はまた、自動電話応答システムを導入して生徒の学習進度に遅れがないか確認し、特別な支援を必要とする生徒たちに対しては、学習についていけるよう教員がフォローアップする。

この状況を、オークランドでフアナがおかれている状況と比べてほしい。ディルマは、フアナの父親は以前は週7日働いていたが、いまでは勤務日が週2、3日にまで減っているという。ディルマ自身も職に就いていない。余分な支出に回せる収入はほとんどないにも関わらず、インターネット料金として月30ドルが請求される。自身とフアナの父親は娘の教育を重視しており、他のことを犠牲にしてでも料金を払い続けるつもりだという。

オークランドの別の学校で就学前児童を受け持つ教師のティム・ダグラスは、ユーチューブ・チャンネルを開設し、ズームでの授業も開いたが、参加する生徒は一部に過ぎなかったという。家にコンピューターがあっても兄弟間で共用されていることがほとんどで、互いの授業時間が重なっていたり、インターネット環境が粗末でズームやユーチューブを使おうとすると頻繁にクラッシュしたりする。こうした事情から、ダグラスは結局、子どもたちと電話で長く話す機会をなるべく作ることに落ち着いた。「だいたい1時間半くらい保護者と話をします。どんな料理を作ってますかとか、精神状態を保つのに何が役立っていますかとか、そんなことを聞いています」とダグラスはいう。「子どもたちと30分ほど話すときもあります。庭や自宅の様子を見せたり、その程度のことしかできません」。

インターネット・データの分析企業であるブロードバンド・ナウ(Broadband Now)が2月に発表した報告によれば、ブロードバンド・インターネットの利用環境を持たない米国人の数はおよそ4200万人に上る。ピュー研究所(Pew Research Center)による2019年の報告では、米国人の10人に1人がスマートフォン以外にインターネットにアクセスできる機器を持っていないことが明らかになった。インターネットアクセスが社会的不平等に及ぼす影響を研究しているハーバード大学のデイビッド・デミング公共政策学教授は、アクセスを巡る格差により、生徒だけでなくその家族も深刻な副次的影響を受けかねないと言う。

デミング教授はハリケーン「カトリーナ」および「リタ」による断続的休校の影響に関する研究と、アルゼンチンの教員ストライキに関する研究とを挙げ、現在の混乱が貧しい生徒たちに「永続的影響」を及ぼすことを懸念している。「私たちは、長期的に持続し、解消することのない教育格差の拡大に直面することになるでしょう」。デミング教授はこう予想する。

テクノロジーを利用する手段をすでに持っている家庭は、現在の休校を乗り切るための装備が整っていることになる。暮らし向きが良ければ、子どもをバーチャル・キャンプに参加させたり、学校が休みの間もスキルを磨き続けるためのアプリや教育ゲームをダウンロードしたりできるだろう。だがもし貧しければ、そういったことは不可能だ。「収入があれば、予期しない打撃を緩和できるのです」(デミング教授)。

この緩衝効果は、スタンフォード大学の経済学者であるシーン・リアドン教授による2013年の研究で示された。同研究では、貧しい子どもと裕福な子どもの学力差は、学期中は縮小し、夏の間に拡大することが明らかになった。夏の課外学習に参加できる生徒たちは、次の学年に臨む準備を整えた状態で秋学期を迎えるのに対し、貧しい生徒たちは最初の数週間で夏休みの間に忘れてしまった内容を復習しなければならないことが多いからだ。

学区がより優れた計画を練ることのほかに、このギャップを埋める1つの方法は、家庭の収入レベルに関係なく、全生徒にインターネット・アクセスを確保することだ。デミング教授は、現在のような非常時に貧しい生徒たちが落ちこぼれないためには、Wi-Fiを使えることが不可欠だと語り、高速ブロードバンド通信はすべての人が利用可能であるべきだと考えている。「ブロードバンドは一つの公共事業としてとらえなければならないほど、現代の生活に欠くことのできない要素となっているのです」(デミング教授)。

一方、学期が夏へと差し掛かる中で、教師のシェピチはフアナと出会ったころを思い返している。学習意欲に溢れていたが、 鉛筆をきちんと持つこともままならなかった女の子だった。新型コロナ感染症の危機が訪れるまで、フアナは一歩一歩学習を進めていたが、学校閉鎖で成果が水の泡になってしまったのではないかとシェピチは危惧している。「英語を習うのも、読み書きができるようになるのも、フアナの家族の中で彼女が初めてだったんです」とシェピチはいう。「フアナを心配しています。この先どうなるのでしょうか」。

*未成年のプライバシーと個人情報を守るため、本文中の氏名は仮名にしてあります。

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人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。
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