国家安全法で激変する香港のネット環境、ティックトックは撤退へ
中国政府が「香港国家安全維持法(国家安全法)」を7月1日に施行して以来、香港のインターネット環境は大きく様変わりしている。7月7日にはティックトックが、香港からの完全撤退を発表した。 by Charlotte Jee2020.07.09
国際的に物議を醸している「香港国家安全維持法(国家安全法)」を中国が7月1日に施行してからわずか1週間。中国が香港に対して絶大な権力を行使できるようになる同法により、半自治都市の香港市民にとってインターネット環境はすでに大きく様変わりしている。
国家安全法では、中国本土の政府当局の香港での活動が初めて合法化された。北京の中国政府が香港内の法律を無効化できるようになり、定義が曖昧な新しい犯罪の数々を編み出した。例えば、中国政府に対する「憎悪」を扇動することは違法となる。香港警察はインターネットのコンテンツを検閲し、市民をオンラインで追跡可能になる。警察は今や、令状無しでの捜査やWebプラットフォームに対する投稿の削除またはブロックの命令、電子記録の収集、裁判所による監督無しでの容疑者の監視などができる。警察からのこうした指示に従わない企業には最高10万香港ドル(1万2903ドル)の罰金が科され、従業員は最長6か月間の懲役に処せられる可能性がある。
国家安全法の施行により、香港は事実上、中国のグレート・ファイアウォールに組み込まれることになる。グレート・ファイアウォールは中国政府によって厳格に管理・検閲されたインターネットであり、中国以外の国のインターネット・ツールやモバイル・アプリのほとんどをブロックする。外国企業はグレート・ファイアウォールに対応している場合にのみ事業活動が認められる。
7月6日に、フェイスブック、ツイッター、グーグル、マイクロソフト、ズーム(Zoom)、ワッツアップ(WhatsApp)の各社は、香港で収集したデータの提供を求める中国政府の要求に応じないことを表明した。アップルは状況を「精査している」段階としている。7月7日には、ティックトック(TikTok)が香港から完全に撤退すると発表した。香港で現地の法律に従おうとしないテクノロジー企業は、最終的にはブロックされるだろう。
フェイスブックやグーグルなどの企業が香港での事業活動を継続したい場合、中国共産党が定めたルールの範囲内で事業活動をしなければならない。しかし、そうしたルールに従うと、従業員や米国議員から反発を受ける可能性が高い。だが、従わなければ、世界最大のインターネット市場で足掛かりを得る機会を逃すことになる。結局のところ、中国には米国の巨大テック企業の代わりとなる国内企業が多数存在する。つまり、米国テック企業などが香港から撤退しても、中国政府が失うものはほとんど無いのだ。
- 人気の記事ランキング
-
- A skeptic’s guide to humanoid-robot videos すごすぎる人型ロボット動画、騙されないためのチェックポイント
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A new way to build neural networks could make AI more understandable ニューラルネットの解釈性を高める新アプローチ、MITなど提案
- The UK is building an alarm system for climate tipping points 気候変動「臨界点」に備え、 英政府が早期警報システム
- Beyond gene-edited babies: the possible paths for tinkering with human evolution 「進化」の未来—— 遺伝子編集ベビーの 次に来るもの
- シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。