KADOKAWA Technology Review
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Can the new platform expand its satellite data market?

国産衛星プラットフォームが「データの流通」で目指す新市場の創造

日本国内の政府や企業が保有する人工衛星データを集約し、より手軽にビジネスに利用できるようにしたプラットフォーム「テルース(Tellus)」が進化した。目玉は、データやアプリを取引できる「マーケット」だ。 by Koichi Motoda2020.07.20

「宇宙を民主化する」とのビジョンを掲げ、人工衛星データを利用した新たなビジネスの創出を目指すプラットフォーム「テルース(Tellus)」が2020年2月にバージョンアップした。新版ではユーザー・インターフェイスを刷新したほか、衛星データやアルゴリズム、アプリを売買できる「テルース・マーケット」を開設するなど、衛星データを活用しやすい環境へと進化している。開発・運営を担うさくらインターネットは、オンライン・イベント「テルース・スペース・クロスデータ・フェス」を7月14日から9月1日まで50日間連続で開催し、新版の魅力をアピールする。

「マーケット」でデータの取引が可能に

テルースの新版でさくらインターネットが目指したのが、データの提供側と利用側の双方との出会い場の提供だ。従来のテルースでは、プラットフォーム側が用意したデータ(人工衛星のデータや地上の各種センサーのデータなど)をユーザーが組み合わせて利用できた。だが、企業の中にはデータの利用だけでなく、自社が保有するデータを販売したいとのニーズもある。新版では、そうした企業とユーザー企業との間に入り、有償または無償で安全に取引できるサービス「テルース・マーケット」が追加された。テルース・マーケットではデータに加えて、データを活用するためのアルゴリズムやアプリケーションの取引が可能だ。

具体的には、ドコモ・インサイトマーケティングのモバイル空間統計や、島津ビジネスシステムズの降水予測などが現時点で「マーケット」に並んでいる。

新版では、「テルースOS」のユーザー・インターフェイス(UI)も刷新された。テルースOSは、ブラウザー上で衛星データを閲覧したり検索したりできるツールで、グーグルマップのような簡単な操作で手軽に利用できる。まず、テルースOSで利用可能な衛星データを「物色」し、自らが開発するアプリケーションや分析ツールからAPIを呼び出して利用する流れだ。新しいUIでは、興味のある場所や時刻を基準にしてデータが検索できるようになったほか、マーケットで購入したアドインを使って、テルースOS上でも簡単なデータ分析ができるようになった。

刷新されたテルースの画面

参入企業が語ったマーケットの可能性

テルース・スペース・クロスデータ・フェスの初日となる7月14日には、「Tellus Ver2.0の概要とこれからのTellus」が開かれ、マーケットに出店する企業や出店を予定する企業がプレゼンテーションを実施した。

島津ビジネスシステムズ 新事業部 気象・防災グループ の奥山哲史部長は「雷観測情報データAPI/雷観測情報アドイン」「降水観測情報データAPI/降水予測情報データAPI」「天気図データAPI」(今後提供予定)の概要を紹介した。奥山部長は、「衛星以外のデータも組み合わせて利用できるので、大企業でもスタートアップでも、新たなビジネスが作り出せるチャンスがあると期待しています」と述べた。

島津ビジネスシステムズがTellusマーケットで提供する予定の「天気図データAPI」
島津ビジネスシステムズがテルース・マーケットで提供する予定の「天気図データAPI」

ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部の鈴木俊博部長は、NTTドコモの携帯電話の位置情報をもとに人の流れを推計する「モバイル空間統計」について紹介した。「テルース・マーケットを利用することで、モバイル空間統計のデータを単体で活用するだけでは難しい、新たな活用シーンやソリューションが生まれることに期待しています」と述べた。

ソフトウェアのデバッグ・テストサービスを提供するデジタルハーツの子会社で、障害者の社会進出促進を目的とするデジタルハーツプラス の畑田康二郎・代表取締役は、衛星画像データを解析する機械学習のための教師データを、マーケットに出品する新たなビジネスモデルの可能性を紹介した。自閉症などの発達障害者を積極的に採用し、「さまざまな社会課題の解決につながるとともに宇宙産業全体が最適化され、宇宙ビジネスの裾野が広がっていくでしょう」と述べた。

経済産業省 製造産業局 宇宙産業室の丸岡新吾氏は、宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションを実現するキーワードを、「他分野との連携」と強調。「現時点では分野横断的な連携はまだ難易度が高いと感じていますが、これからテルース・マーケットがいい役割をしてくれると期待しています」と述べた。慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授も、テルースが他のプラットフォームとの連携を想定して設計されている点に触れ、「世界中のデータと連係しながら衛星データを使ったアプリが使えるようになれば、グーグルを超えるようなプラットフォームになる可能性もあると思う」と発言した。

50日続くオンライン・イベントで魅力を発信

同イベントでは、各界の有識者を迎えたプログラムを連日用意するほか、参加者によるディスカッションを含むコミュニティ・コンテンツも予定している。また、同社のオウンドメディア「宙畑」が制作した衛星データ活用に関する入門コンテンツも7週にわたって配信するという。

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元田光一 [Koichi Motoda]日本版 ライター
サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。
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