KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
「抗議のインターネット」で
見直されるWebの価値、
単一ページが運動の拠点に
Ms Tech | Pexels
人間とテクノロジー 無料会員限定
The internet of protest is being built on single-page websites

「抗議のインターネット」で
見直されるWebの価値、
単一ページが運動の拠点に

パーソナリティが重視され、インフルエンサーが扇動する従来のソーシャルメディアが変容し始めている。主役となるのは「カード(Carrd)」をはじめとするシンプルなWebサイト作成ツールだ。Z世代を中心とする人々は、社会に対して抗議し、行動を起こすために、単一ページのサイトを続々と立ち上げている。 by Tanya Basu2020.09.07

ジェイコブ・ブレークがウィスコンシン州ケノーシャで背後から警察に撃たれたのは8月23日、日曜日の夕方だった。翌週の25日火曜日までには、ケルという16歳のテキサスの少女がシングルページのWebサイト「ジェイコブ・ブレークに正義を(Justice for Jacob Blake)」を立ち上げ、事件の前後関係、当局への連絡用テンプレート、メンタルヘルスのためのリソース、寄付へのリンクをサイト上で提供した。

サイト作成にあたって、ケルは「カード(Carrd)」に目を向けた。シンプルなツールで、これを使えば誰でもサイトを数分でさっと作れる。メールアドレスを登録するだけで、サイトはカードがホストしてくれる。トピックは自分の好きなものが選べる。「自分はプラットフォームにさほど詳しいわけではありませんし、サイトのことも最初は共有することすらためらっていました」とケルは言う(荒らしを避けたいという本人の希望でケルの姓は伏せる)。ケルが探していたようなプラットフォームを誰にでも提供するのが、カードだ。

この数か月、ツイッターやインスタグラム、ティックトック(TikTok)で、ワンストップ・リソースとしての社会正義関連カードが頻繁に共有されている。その最新の事例となるのが、ケルの作成した「ジェイコブ・ブレークに正義を」だ。こうした使いやすいツールによって、Webサイトというインターネットの基本的な構成要素の改革が始まっている。それを最も待ち望んでいるのが、リソースや情報をすばやく、安全に、かつ創造的に共有したい人たちだ。グーグル・ドキュメントといった有名なツールも含めたこうしたツール群によって、2020年代にふさわしい新しい形の「抗議インターネット」の基礎づくりが始まったのだ。

カードは、Webページ作成プロセスの簡略化を目的に、創業者のAJ(イニシャルのみを使用している)によって2016年に立ち上げられた。抗議ツールを作る意図などまったくなかったとAJは言うが、自分が作ったツールがそうした目的に転用されていることに関して、不満はないようだ。AJは単にWebサイトを手早く簡単に作れる「ありきたりの」手段を望んでいただけだという。「もっと『一般的な使い方』を想定していました」とAJは言う。「こんな風に使われるようになるとは思ってもいませんでした。うれしい驚きとなりました」。

カードは当初、個人や中小企業のホームページとして、自家製の商品や家庭教師といったサービスの宣伝に使用されていた。ところがその後、最近の多くのトレンドと同様に、K-POPファンの間で急速に人気が高まった。ファンがバンドの精巧なデジタルコラージュを作成するのに使い始めたのだ。だがカードはすぐにK-POP集団を超えて広がりを見せ、ハリー・ポッターのファン・フィクション(ファンが書いた二次創作)、ファンタジー、LGBTQコミュニティといったニッチ分野に浸透していった。

そうした中で、ジョージ・フロイド殺害事件が起きた。AJはカードが爆発的に広がった瞬間を今でも覚えている。5月30日、サーバーが過負荷状態だという自動通知を受け取ったが、理由が分からなかった。「何が起こっているのか理解していなかったのです」とAJは振り返る。

女王のご加護を受ける

あとで分かったのだが、クチコミの女王として有名なキム・カーダシアン・ウェストが、「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命は大事だ)」運動用のリソースリストを載せたカードへのリンクを、ツイートで広めていたのだ。これをきっかけとして、カードの使用目的が根本的に変わることになる。カードは社会変革の推進を図るユーザーによって、ツイッターやインスタグラム、ティックトックのプロフィール欄に埋め込まれるようになった。

https://twitter.com/kimkardashian/status/1266792 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
  2. A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
  3. Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
  4. Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る