KADOKAWA Technology Review
×
月面で採集した資源を売ってくれる企業をNASAが募集中
NASA
NASA will pay for moon rocks excavated by private companies

月面で採集した資源を売ってくれる企業をNASAが募集中

米国航空宇宙局(NASA)が、月面で岩石や塵、氷などのサンプルを収集してNASAに販売してくれる企業を募集している。サンプルは最高2万5000ドルでNASAが買い取るという。 by Neel V. Patel2020.09.16

米国航空宇宙局(NASA)は、月からサンプルを採集してNASAに販売する事業に興味のある民間企業からの提案を募集している

今回の新たな取り組みでは、NASAが選定した企業少なくとも1社が月へ探査機を打ち上げ、月の表土50~500グラムを採集する。企業は、採取したサンプルを適切な容器に保管して地球に持ち帰れることを証明する画像とデータをNASAに送信できれば、1万5000~2万5000ドルの報酬を得られる。

報酬は、契約先として選定された時点で10%、探査機打ち上げ後にさらに10%、そしてNASAへのサンプル引き渡し時に残りの80%が支払われる。サンプルの回収方法についてはまだ検討中とされているが、 NASAは月面での採集後「その場」での受け取りを想定している。つまり、参加企業はどうやって月に行くかだけを考えればいい。サンプルは、引き渡しの時点で所有権がNASAへ移転される。

サンプルを採集する場所は月のどの地点でもよく、岩石や塵、氷など、どんな物質含んでいてもいい。NASAは2024年までに収集を実現したい考えだ。

月の物質は、科学者からの需要が非常に高い。現在NASAが所有している月面資料は、ほぼすべてがアポロ計画時代に採取されたものだ。月の物質を何百キロも採集したアポロ計画と比べれば、今回の取り組みで持ち帰るサンプルの量はほんのわずかでしかない。しかしこの試みは、NASAが採集を目的とする機材の製造と打ち上げにリソースを割くのではなく、民間セクターからサンプルを買い取るという、月面サンプル供給の新たなパイプラインを築く最初の一歩となるかもしれない。

NASAのジム・ブライデンスタイン長官はブログ記事で、この新たな目標は、民間セクターによる宇宙探査への参画推進を掲げるアルテミス計画の大きな目標の一部だと述べた。2024年中に計画されている有人月面着陸に向け、NASAはすでに商業月面物資輸送サービス(CLPS:Commercial Lunar Payload Services)プログラムのもとでいくつかの打ち上げ事業者と協力し、20個近い科学および技術関連機材を月へ輸送しようとしている。2024年の有人着陸自体も、人を月面に運ぶ月面着陸機をはじめ、民間企業が製造するハードウェアが使用されることとなっている。

最高2万5000ドルという金額ではミッションの経費を埋め合わせることは到底できず、金銭的利益を目的に参加する企業はまずないだろう。参加を動機づけるのは金儲けではなく、 水氷などの資源の採取を含む新技術が試せるという利点だ。9月10日の発表で概要が示されたミッションは月面からのサンプル採集と保管のみだが、それでも民間企業が成し遂げた前例はない。

米国には、月での採掘産業を確立し、掘り出した資源をさまざまな業者が売買できる市場を開発したいという大きな野望がある。ブライデンスタイン長官はブログ記事の中で、2020年4月にトランプ大統領が発令した宇宙資源の回収と利用を奨励する大統領令に言及し、将来の月面での資源回収計画を示唆している。この大統領令は、地球外の天体から採取した資源の所有と販売を米国企業に認めるという、政府の立場を表明する2015年の法律を補足する形で発せられた。米国の政策方針が1967年の国連宇宙条約に抵触するか否かについては、現在も議論が続いている。

人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
  3. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  2. Job titles of the future: AI prompt engineer 未来の職種:LLMを操る「プロンプト・エンジニア」は生き残るか
  3. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る