KADOKAWA Technology Review
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火星の南極に新たな地下湖、生命体が見つかる可能性も
ESA/DLR/FU Berlin / Bill Dunford
There might be even more underground reservoirs of liquid water on Mars

火星の南極に新たな地下湖、生命体が見つかる可能性も

火星の南極付近で、新たに3つの地下湖が発見された。この地下湖の水は濃度の高い塩水であると予測されるが、過酷な環境に耐えられるように進化した微生物が存在する可能性も考えられる。 by Neel V. Patel2020.09.29

火星の南極に4つの地下湖が存在する可能性がある。9月28日にネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)誌に掲載された新たな研究論文は、これまで考えられていたよりもさらに多くの液体の水が火星に存在することを示唆している。

今回の発見に先立つ2018年、イタリアのある研究グループは欧州宇宙機関(ESA)の火星周回探査機「マーズ・エクスプレス(Mars Express)」のレーダー測定値を使用して、火星の表面下1.5キロメートルに液体の水の湖を発見した。幅が約20キロメートルのこの湖は、南極付近の地表を覆う南極層状堆積物(South Polar Layered Deposits)と呼ばれる厚い氷床の下で見つかった。この湖の検出には、マーズ・エクスプレスに搭載された火星の地下および電離層の探査レーダー「マーシス(MARSIS:Mars Advanced Radar for Subsurface and Ionosphere Sounding)」による測定データが使用された。

今回、同じ研究グループのメンバーは、マーシスから得られた(134組以上のレーダー測定値で構成する)全データセットを新たに分析し、2018年に発見された湖の存在を確認すると同時に、そこから50キロメートル未満の距離にさらに3つの水域が存在する証拠を発見した。この新たな分析では、南極大陸とグリーンランドのレーダー測定値で、氷床の下に水があるか否かを区別する研究から学んだ教訓が生かされている。

新たに発見された水域は、2018年に発見された水域とそれほど変わらないようだ。各水域の幅は推定10〜30キロメートル。すべて地下約1.5キロメートルの深さにあるが、深さはどれもまだ不明だ。

この地下湖の水は飲めないだろう。極寒の火星の気温にもかかわらず液体の状態を維持できている唯一の理由はおそらく、この水が濃度の高い塩水だからだ。塩が含まれていると、水の凝固点は大幅に下がる。カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、その他の塩の成分は火星全体で発見されており、火星の極付近では塩水が形成されやすいことが過去の研究で示唆されている。火星の地下湖が、塩水によって安定した状態をおそらく数十億年にわたって維持してきたと考えることは妥当だ。

水の入手可能性は、将来の火星入植者にとって重要な問題となる。しかし、この地下湖の水は、脱塩できたとしても、入手するには本格的な採掘が必要になる。それに比べると、火星の両極には多くの氷床があり、はるかに簡単に採取できる。

今回発見された地下湖で最も注目されているのはむしろ、地球外生命体が見つかる可能性だ。地球と同様、一部の微生物が氷床下の塩分濃度の高い過酷な環境に耐えられるように進化し、湖を生息地とした可能性がある。

調査をさらに進める一番の方法は、直接この水を研究することだ。イタリアのローマ・トレ大学の物理学者で、同研究論文の共著者であるエレナ・ペティネッリ博士は、この任務に最も適しているのは着陸船(ランダー)または探査車(ローバー)の利用だと述べている。もちろん、最大の問題は湖のある深さまで到達することだ。この問題を回避する方法として、地震活動を測定して湖の水域と形状全体を明らかにし、生命が生息できる可能性が最も高い部分を推測する手がかりを得ることが挙げられる。しかし、地震観測データだけでは火星に生命が存在するかどうかについて決定的な証拠を得るのは無理だろう。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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