KADOKAWA Technology Review
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微生物を使って岩石からレアアースを抽出、ISSの実験で成功
ASU/Peter Rubin
Microbes could be used to extract metals and minerals from space rocks

微生物を使って岩石からレアアースを抽出、ISSの実験で成功

国際宇宙ステーションでの実験により、ある種のバクテリアは、微小重力環境でも岩石からレアアースを抽出できることが分かった。将来、宇宙での採鉱において有用資源を抽出するための効率の良い方法となる可能性がある。 by Neel V. Patel2020.11.13

バクテリアを用いた岩石からのレアアース(希土類元素)抽出が微小重力環境でも成功することが国際宇宙ステーション(ISS)での研究で明らかになった。「ネイチャー・ コミュニケーションズ(Nature Communications)」誌に11月10日付けで掲載された新たな論文では、地球以外の場所で将来、微生物を用いて貴金属や鉱物を採鉱できる可能性のある新たな方法が提示されている。

ある種の単細胞生物は、地球上で長年かけて進化することで、特殊な化学反応によって栄養や必須化合物を岩石から取り込めるようになった。世界中で人間が利用する銅と金の約20パーセントの採鉱に、このようなバクテリアの性質を生かしたプロセスが用いられている。研究者らは、これらのプロセスが微小重力環境でもうまく働くかどうかを知りたいと考えた。

「バイオロック(BioRock)」は宇宙ステーションで実施する36の一連の実験である。研究者らの国際チームはバイオロック(BioRock)のために「バイオマイニング・リアクター(biomining reactors)」と呼ぶ装置を作成した。バイオマイニング・リアクターは、バクテリア水溶液に浸した玄武岩(地球の表面や地表近くでよく見られる火成岩で、月と火星にも多く存在する)の小片を入れたマッチ箱サイズの小さい容器である。

バイオロックでは、微小重力のほか、火星の重力と地球の重力を模した重力シミュレーター内にそれぞれバイオマイニング・リアクターを置き、約3週間にわたってバクテリアが活動している間のレアアース放出量を計測した。その結果、実験で使った3種のバクテリアのうち1種(スフィンゴモナス・デシカビリス、Sphingomonas desiccabilis)は、低重力下でも地球上と同等の効率でネオジム、セリウム、ランタンなどを抽出できることが分かった。

宇宙で資源を採取するとしても、微生物が通常の採鉱技術に取って代わることはないだろうが、採鉱速度を上げることは間違いないだろう。バイオロックの研究チームによると、微生物は、酸素のような有用な元素から金属粉と有用鉱物を引き離すことにより、地球外の天体上で採鉱速度を400パーセント程度も加速させる可能性があるという。微小重力に耐えられそうだという事実は、宇宙での生活を持続させる上で微生物が資源採取の安価な手段になり、長旅と遠く離れた世界への移住を可能にするかもしれないことを示している。

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ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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