KADOKAWA Technology Review
×
【4/24開催】生成AIで自動運転はどう変わるか?イベント参加受付中
ツイッターがトランプ大統領のアカウントを一時凍結、FBも
AP Photo/Julio Cortez
Twitter locked Trump’s account. Insiders say it needs to go further.

ツイッターがトランプ大統領のアカウントを一時凍結、FBも

ツイッターは1月6日、トランプ大統領のアカウントを一時凍結した。専門家は、トランプ大統領のツイートがいずれ今回の暴動のような結果を招くことは以前から分かっていたはずだと述べており、同社の対応が遅きに失した感は否めない。 by Eileen Guo2021.01.08

1月5日、右派の過激派暴徒たちが米国連邦議会を占拠する中、米国のドナルド・トランプ大統領は忠実な支持者たちに向けた短い動画メッセージをソーシャルメディアに投稿した。トランプ大統領は、「我々の選挙は盗まれた」と、数カ月前から述べてきた嘘を繰り返し、「家に帰ろう。我々は君たちを愛している。君たちは本当に特別だ。君たちの気持ちは分かるが、家に帰ろう。安心して家に帰るんだ」と語った。

ツイッターは当初、この動画に対して制限を掛けていただけだったが、その後、暴徒たちを「あまりにも長い間、ひどく不公平な扱いを受けてきた偉大な愛国者たち」だとして彼らの行動を正当化するようなトランプ大統領のメッセージを含め、ツイートを完全に削除した。ツイッターはさらに1月6日、トランプ大統領のアカウントを最低でも12時間凍結すると発表した

動画を削除するというツイッターの決断は、フェイスブックおよびユーチューブ(YouTube)の対応と合致する形となった。同日、フェイスブックとユーチューブはプラットフォームの規約に違反しているとして、一足早くトランプ大統領の動画を削除していた。ツイッターの決定が発表される少し前には、「彼のアカウントを削除しろ(Delete his account)」がツイッターでトレンド入りしていた。

フェイスブックのインテグリティ担当ガイ・ローゼン副社長は、同社の決定は「緊急事態」という文脈に照らして実施されたものであり、「私たちは適切な緊急対応を取っています。俯瞰的な見地から、現在起こっている暴力のリスクを減らすよりも悪化させると判断し、あの動画を削除しました」とツイートした。その後、ローゼン副社長は公式声明として、フェイスブックは「米国議会への突入を称賛および支持」するあらゆるコンテンツを積極的に削除しており、緊急対応を強化することで、同社のコミュニティポリシーに違反している可能性のある投稿の作成および拡散を止めていると説明した。

ツイッターによる発表の数時間後には、フェイスブックインスタグラムが各プラットフォームにおけるトランプ大統領の投稿を24時間にわたって封じるという対応に出た。

「もうたくさんだ、ということは明白」

今回危険だと判断された3件のツイートをツイッターが公式に削除するまで、同社はトランプ大統領に対してはツイートの投稿を制限するという方針をとってきた。今回の削除措置により、2020年を通して大統領選挙と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する陰謀論を拡散し続けてきたトランプ大統領と、ツイッターの間で繰り広げられてきた現在進行系対立がさらに激化する形となった。

だが、ツイッターは、トランプ大統領のアカウントの完全凍結、あるいはプラットフォームからの永久的な排除を決断したわけではない。世界のリーダーの1人であるトランプ大統領は、彼が発するメッセージのニュースとしての価値、あるいは公益性を鑑みて、通常の対応が適用されないというポリシーの恩恵を受けてきた。だが、ツイッターの現在および以前の関係者をはじめとする専門家たちは、議会で起こった一連の事件は、ラベルの適用や投稿の個別削除ではもはや不十分だということを示すのに十分すぎる根拠になるはずだと述べている。

トランプ大統領のアカウント凍結をツイッターのジャック・ドーシーCEO(最高経営責任者)に繰り返し求めてきた同社元従業員のローラ・ゴメスは、単に動画を削除するだけでは「吹き飛ばされた腕にバンドエイドを貼るようなものです」と述べている(ゴメスは最近、トランプ大統領がツイッターを利用してクーデターを起こそうとしていると警告していた)。

他方、バージニア大学の法学教授で、2009年からツイッターに対してヘイトスピーチとハラスメントへの対応に関する助言をしてきたダニエル・シトロンは、ツイッターに対し、トランプ大統領を永久追放するよう公に求めている。

「ツイッター関係者たちと話し合いをしてきたことを通じて、こうなることを彼らは最初から分かっていたはずなのは明らかです」とシトロン教授は言う。「私はそのことを伝え続けてきました。しかし、もうたくさんだということは今や明白です」。

公益を守るという倫理的枠組みに基づくポリシーによってトランプ大統領のツイートがツイッター上で保護されているのであれば、単純にツイッターがそのポリシーを正しく適用すれば、同じ結論に至るはずだとシトロン教授は述べる。

ツイッターは大方のところ、トランプ大統領のツイートを個別に見て、規約違反の可能性のあるツイートが投稿されるたびに判断しているとシトロン教授は語る。だが、トランプ大統領のツイッター内外での行動を総合的に見て、ツイッターのポリシーを適用すべきだと同教授は付け加える。

「トランプ大統領のディベートでの発言は、彼のツイートと聴衆に対して語っていることが混ざり合ったものです。トランプ大統領は暴力を扇動しました。数週間にわたって暴力を煽ってきたのです」。

「トランプ大統領は嘘によって死と破壊を引き起こしています。トランプ大統領の排除こそが公益に資することなのです」。

ツイッターのローカライズ部門トップだったゴメスが政治家によるツイッターの乱用に最初に懸念を示したのは、当時ベネズエラの大統領だったウゴ・チャベスがツイッターを利用し始めた2010年のことだった。「私は皆に、『世界の指導者あるいは独裁者に対しては、市民や彼らの政敵を守るためのポリシーや異なる規約が必要ではないか』と尋ねました」とゴメスは言う。

だが、ツイッターは、政治家に対する個別ポリシーの作成を却下した。

そして2017年、ゴメスはトランプ大統領によるツイッターの規約違反を、警戒を強めながら見守っていた。

何も対応はなされず、ドーシーCEOはゴメスとの個別の話し合いでも提案を受け入れる気はなさそうだった。「私はドーシーCEOに、『よく眠れていますか?』と尋ねました。その答えは『とてもよく眠れているよ』というものでした」とゴメスは当時を振り返る。

「波及効果」

ゴメスは、自分の懸念は自身の政治観やトランプ大統領に対する考え方に基づくものではなく、ツイッターの利用規約に関する一貫性に対するものだったことを強調する。問題は、これが「他のツイッターユーザー」、さらには「ツイッターを利用している他国のリーダー」であった場合でさえ、このようなことが認められるのかという点にある、とゴメスは言う。

個別のコンテンツに対して短期的な禁止や制限をかけても、情報の拡散は防げないことはすでに証明されている。トランプ大統領の物議を醸すツイートに警告を付けるというツイッターのこれまでの取り組みは、実際にはそれらのツイートにより大きな注目を集めるという結果を生んできた。あるツイートは、制限をかけられたにもかかわらず、50万件の「いいね」やリツイートがあった。他方で、ジョー・バイデンの次男であるハンター・バイデンに関する話題の拡散を抑えこもうとしたツイッターの試みは、実際にはより多くのエンゲージメントを生んだことがデータから明らかになっている。

これは他のプラットフォームでも同じことだ。議会に突入しようとした暴徒たちに向けてトランプ大統領が投稿したメッセージ動画は、フェイスブックが削除したにもかかわらず、他のユーザーやメディアがコピーして流しているため、拡散し続けている。

ゴメスは、トランプ大統領のアカウント凍結の根拠となるような証拠はさらに増えており、アカウントが凍結されずに同大統領が扇情的なコンテンツをツイートし続けた場合、「波及効果」が起こるだろうと指摘する。この日の動画のようなツイートをトランプ大統領が投稿し続ければ、「他の都市でも抗議活動が起こる」可能性がある。

AP通信は、全米15州の州議会で抗議活動が起こっており、一部の抗議参加者は武装していると報じている(日本版注:その後、武装した抗議者らは警察によって排除され、AP通信はトランプ大統領が敗北を認めたと報道。ツイッターのアカウント凍結は現在解除されている)。

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
アイリーン・グオ [Eileen Guo]米国版 特集・調査担当上級記者
特集・調査担当の上級記者として、テクノロジー産業がどのように私たちの世界を形作っているのか、その過程でしばしば既存の不公正や不平等を定着させているのかをテーマに取材している。以前は、フリーランスの記者およびオーディオ・プロデューサーとして、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ナショナル・ジオグラフィック誌、ワイアードなどで活動していた。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る