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コロナ禍で浮き彫りになった
「ネット後進国」米国の実態
情報格差は埋められるか?
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コロナ禍で浮き彫りになった
「ネット後進国」米国の実態
情報格差は埋められるか?

米国でずっと続いてきた「情報格差」の問題は、パンデミックが始まったことで一層顕著になった。これからは都市部と非都市部における回線の有無だけでなく、人々の金銭的な問題にも焦点を当てる必要があるだろう。 by Eileen Guo2021.02.15

マービス・フィリップスはサンフランシスコのテンダーロイン地区にある約18平方メートルのアパートに住んでいる。フィリップスは、自分の住むアパートがインターネットに接続される以前は、ノートPCを持つ友人に頼りながら手紙を書く活動を続けて多くの実を結んできた。

フィリップスはあるコミュニティを主催しており、手紙を一通一通手書きして郵送していた。その後、彼の友人がその信書をタイピングし、電子メールやオンラインのコメントフォームで各所へ送信するようになった。このようにしてフィリップスは、40年以上にわたり、市の監督者、計画委員会、州議会議員、国会議員などに宛てて自分の意見を伝えてきた。

フィリップスは何十年もアレクサンダー・レジデンスに住んできた。179戸の手頃な価格の住宅ビルであり、理論上は、インターネットを利用可能だ。フィリップスはツイッターやウーバーやゼンデスク(Zendesk)などの本社からほんの数ブロックしか離れていない場所にいる。しかし、社会保障給付金を主たる固定収入源として生活しているフィリップスは、ブロードバンド契約やネット接続に必要なデバイスのコストを支払うだけの余裕がない。

「長年にわたって、オンラインにアクセスしたいと望んできました」 と65歳のフィリップスは語る。しかし、「家賃を支払って、食費を賄わなければなりません。重要なことがほかにあったのです。」

インターネットが登場してからずっと、持つ者と持たざるものの格差が存在してきた。米国の「永続的な情報格差」の悪い面にはまってしまった人々にとって、必要な金銭的負担はますます上昇している。それこそが、大統領選挙戦の初期から、ジョー・バイデンが万人のためのブロードバンドの優先度を高めることを公約に掲げた理由のひとつだ。

バイデン大統領の公約はパンデミックの結果を受けて、さらなる緊急度をもって取り扱われてきた。新型コロナウイルスは多くの格差を広げた。例えば「宿題格差」だ。学校がオンライン化されたことで低所得者層の学生が取り残される恐れがある。失業給付金や医療へのアクセス、裁判所への出廷も同様だ。そして増加しているのが新型コロナウイルスのワクチンの件である。これら全てにインターネット接続が必要(もしくはその方が容易)だ。

しかし、バイデン大統領がギャップの橋渡しに成功するかどうかは、彼が問題をどう定義するかにかかっている。インフラ強化で解決する問題なのだろうか? それとも支払能力や設備導入のギャップに対処する社会的プログラムを必要とする問題なのだろうか?

隠れた格差

長年にわたって、情報格差は大部分が非都市部の問題だと見られてきた。そして、より遠隔な地域や充分なサービスが提供されていない地域にサービスを届けるために、何十億ドルもの資金がブロードバンドのインフラ拡大や通信会社への資金提供に費やされてきた。しかし、非都市部と都市部の格差に焦点が置かれ続ける一方で、マービス・フィリップスのような人物は取り残されてきた。フィリップスはインターネットサービスが近くにあるかどうかではなく、金銭面で苦労している。蚊帳の外なのだ。

ずっと続いてきた情報格差の影響は、パンデミックが始まり、学校がオンライン授業に転換したことで露骨に引き出されることとなった。インターネットで授業を受けるために、家を出て無料WiFiにアクセスする必要があり、レストランの駐車場に座ることを余儀なくされている生徒たちの画像がある。米国の情報格差がいかに広がったままであるかということだ。

米国連邦通信委員会(FCC)は手をこまぬいていたわけではない。インターネットサービス・プロバイダーに対し、支払いの遅れを許容し、サービスを継続するという自主的な誓約に署名するよう求めたのだ。この誓約でどれだけの人々が恩恵を受けることができたのか、米国連邦通信委員会はデータを公表していない。しかし、このプログラムが想定どおりに作用していないという苦情が大量に寄せられた。

デイリー・ドット(Daily Dot)紙による公的記録要求により、これらの苦情が去年公開された。そのページ数は500ページにも及ぶ。その中に、パンデミックによって不可能な選択を強いられたと語る母親がいた。

「私には学校に通う男の子が4人おり、オンラインの学校活動をするためにインターネットが必要です」と母親は書いていた。支払いがなかったとしてもサービスを切らないという約束にもかかわらず、彼女の回線は切られた。「サービスを有効にするため、221ドルの料金を支払いました。所持していた最後のお金でした。そして今、今週の食料品を買うためのお金がありません」。

ほかにも、食べ物やオムツやその他の必要な生活必需品を諦めねばらないことを語るメッセージがある。学校の活動や仕事のために家族のインターネット接続を守らなければならないからだ。

「金銭的余裕がないためインターネットを使えなくなった人々の数だけが問題なのではありません」と消費者支援団体フリー・プレス(Free Press)の政策マネージャーであるダナ・フロバーグは語る。「そ …

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