KADOKAWA Technology Review
×
Reached Via a Mind-Reading Device, Deeply Paralyzed Patients Say They Want to Live

心を読む機械で、全身不随状態の患者が「生きたい」と意思表明

意識がないように見える全身麻痺患者との意思疎通に、脳コンピューター・インターフェイスの研究者が成功した。現段階では「はい・いいえ」形式だが、研究者は文字の選択により、文として応答できるようにしたいと考えている。 by Emily Mullin2017.02.01

1995年、ジャン・ドミニク・バウビーは、重い脳卒中で、左瞼の瞬きしかできない身体不随になり、会話できなくなった。左目だけを使って、バウビーは回想録『The Diving Bell and the Butterfly(潜水服は蝶の夢を見る)』を静かに書き取らせ、後に映画化された。

バウビーは、ある程度の目の動きを除いて、完全に身体が麻痺する状態「閉じ込め症候群」に苦しんだ。閉じ込め症候群の患者には、最終的に瞬きする能力さえ失い、世の中とのあらゆる接触を絶たれてしまう場合がある。そうなれば、その状態でも患者は生きていないのか、そもそも意識があるのかわからなくなってしまう。ところがヨーロッパの研究者グループが、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)ですべての随意運動を失い、完全な「閉じ込め症候群」状態にある4人の患者と脳インターフェイスでコミュニケーションし、答えがわかったという。

「私は生きていたい」に対して、閉じ込め症候群4人のうち3人は「はい」と答え、「幸せだ」と伝えた。4人目の23歳の女性については、心が不安定であることを恐れた両親により、自由回答式の質問はしなかった。

現在、バイオ・神経工学ウィス・センター(ジュネーブ)に在席する神経科学者ニールス・ビルバウマー上級研究フェローが設計した脳コンピューター・インターフェイス(Brain-computer Interface : BCI)は、水泳キャップのように人の頭にフィットし「近赤外線分光法」で、脳が発する電気波や血流の変化を測定できる。

4人の患者と意思疎通できていることを確認するために、ビルバウマー上級研究フェローの研究チームは、約10日間のテストで患者の思考に調整し、血流のパターンを変えることによって「あなたはドイツ生まれです」や「パリはドイツの首都です」などの質問に対して「はい」または「いいえ」で返答するように患者に依頼した。システムを通じて伝えられる回答は、約70%の確率で矛盾はなく、実質的には偶然より高かった。

ビルバウマー上級研究フェローによると、最長で4年間、完全に沈黙し続ける愛する者と意思疎通できたこと、そして人工呼吸器を付けてでも生き続けたいと願っていると知って、家族は「大きな安心」を得たという。研究グループは、1月31日付けのオンライン科学誌プロス・バイオロジー誌で研究を詳細に述べている。

2010年にウェスタン大学のエイドリアン・オーウェン教授(脳神経科学)は、脳の特定部分の血流の変化によって、従来なら植物状態と片付けられていた患者に意識があることがわかった、と最初に報告した

ミシガン大学ダイレクト・ブレイン・インターフェイス研究所(UM-DBI)を率いるジェーン・ハギンズ助教授は「何人くらいの閉じ込め症候群の患者がいるのか、誰にも正確にはわかりません」という。しかし、オランダの研究グループは、オランダでは15万人に1人未満の閉じ込め症候群の患者がいると推測した。

患者の中には、目の動きがないか、あるいはとてもわずかな動きしかなく、こん睡状態と誤診される場合がある。ビルバウマー上級研究フェローの研究チームは、システムによって、どの患者が実際にはまだ知覚があり、意識があるかを見極める診断に使えるかもしれないという。また、ビルバウマー上級研究フェローは、完全な閉じ込め症候群の患者が「はい・いいえ」形式以上の質問に回答して意思疎通できるように、文字を選べるテクノロジーを開発したいという。

人気の記事ランキング
  1. A tiny new open-source AI model performs as well as powerful big ones 720億パラメーターでも「GPT-4o超え」、Ai2のオープンモデル
  2. Geoffrey Hinton, AI pioneer and figurehead of doomerism, wins Nobel Prize in Physics ジェフリー・ヒントン、 ノーベル物理学賞を受賞
  3. The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
  4. Geoffrey Hinton tells us why he’s now scared of the tech he helped build ジェフリー・ヒントン独白 「深層学習の父」はなぜ、 AIを恐れているのか?
タグ
クレジット Video courtesy of Wyss Center for Bio and Neuroengineering
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者は11月発表予定です。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る