KADOKAWA Technology Review
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ドローン、ナンバー監視——
米警察組織に広がる
ハイテク捜査チームの内側
Niki Chan Wylie
コネクティビティ Insider Online限定
Inside the rise of police department real-time crime centers

ドローン、ナンバー監視——
米警察組織に広がる
ハイテク捜査チームの内側

警察は可能な限り、多くのデータを収集したいと考えている。しかし、監視テクノロジーの進化に、規制する法律は追いついていない。警察が導入するテクノロジーが、どのように使われ、どのように市民に公開されているのか。米国ユタ州のオグデン市警察が設置する地域戦術分析センターに密着取材した。 by Rowan Moore Gerety2021.09.10

2007年当時、ユタ州オグデン市の警察本部長だったジョン・グレイナーが、ニューヨーク市警察の「リアルタイム犯罪センター(RTCC:real time crime center)」と呼ばれる最新鋭のデータ・ハブに関する取り組みを耳にしたのは、ニューオリンズで開催されたカンファレンスでのことだった。赤や緑のマークや点線、それに小さな黄色のアイコンによって示される大量の情報が、ニューヨーク市の地図の上に重ねて表示されていた。殺人事件、銃撃事件、通行止めなどの情報に加えて、ラガーディア空港に着陸する飛行機の経路やハドソン川河口に到着するコンテナ船のスケジュールも確認できた。

1990年代初頭、ニューヨーク市警察は、犯罪データの分類識別を目的とするコンプスタット(CompStat)というシステムを全国に先駆けて導入した。以来、このシステムは全国の大規模な警察組織で広く採用されている。RTCCは、そのシステムを一歩先に進め、事件発生時に通信指令者が警察無線を使って出す指示に、コンプスタットの膨大な情報を活かすことを目指したものだった。

人口8万2702人のオグデン市に戻ったグレイナー本部長の頭の中にあった最大の課題は、長年にわたって頻発していた自動車盗難事件だった。現状では、警察でただ1人の犯罪分析官が紙の地図に盗難住所を記録したり、特定の地域で同様の犯罪が起きるまでの平均時間を手計算したりして、類似点を見つける作業をしていた。その頃、オグデン市は連邦政府の助成金を使って自動ナンバープレート読取り装置を導入していたが、得られた画像記録と他の部門の捜査とを統合する手段がなかった。手元のデータを、もっと有効に活用できる可能性があるのは明らかだった。

「オグデン市はニューヨーク市とは違うものの、適切なソフトウェアを使えば、規模を小さくしたニューヨーク市のようなシステムを活用できるのではないか」とグレイナー本部長は考えた。そこで、警察を辞めて大手地図制作会社のエスリ(Esri)で働いている元同僚に電話をかけ、地図にどのような種類の情報を記載することが可能なのかを尋ねた。スプレッドシートに記入できるものなら何でも、というのがその答えだった。例えば、麻薬、強盗、武器など過去の有罪歴で分類した仮釈放者の住所履歴、自動車の盗難場所と発見場所、面白半分に自動車を盗み乗り回す自動車窃盗犯が自宅近くで盗難車を乗り捨る傾向などだ。パトロールカーや消防車が市中を移動している経路が分かったり、携帯電話の位置情報の記録を時間を追って地図上に示したり、犯罪前後の時間における被疑者の居場所を特定したりもできると分かったのだ。

2021年現在では、地図に記載できないものを尋ねる方が簡単なくらいだろう。グーグルやソーシャルメディアによって、ある意味、誰もが気になる人の日記や机の引き出しをのぞき見られるようになったのと同様に、今日の法執行機関は、データ処理とデータ結合の強力な新しいエンジンにアクセスできるようになった。とはいえ、オグデン市はテクノロジーの先端にあるとは言い難い。大規模な都市の警察ではすでに顔認識を利用して被疑者を特定したり(誤認する場合もある)、潜在的な犯罪行為の可能性を示す予測捜査を効果的に使ってパトロール経路を決めたりしている。

「そのような手法は、オグデン市では取り入れていません」。2021年1月にオグデン市警察の新本部長に就任したエリック・ヤングは話す。「我々はどのような種類であれ、人工知能(AI)を使った手法は取り入れていません」。

2007年、市議会はグレイナー本部長が初めて提案したRTCC設立予算案を否決した。しかし、市長は、既存の警察予算内におけるRTCCプロジェクトの推進は承諾した。グレイナー本部長はエスリに話を持ちかけ、エスリの本社があるカリフォルニア州レッドランズ市に飛んだ。そして、エスリの共同創業者で億万長者のジャック・デンジャモンドと「ちょっとした友好関係を始め」、カメラを搭載した約9メートルの飛行船をオグデン市の上空に飛ばして、緊急時にリアルタイムで監視する計画を発表した。「この件では、ジェイ・レノ(著名なコメディアン)に叩かれました」とグレイナー本部長は話し、飛行船計画は結局取り止めとなった。だが、オグデン市はエスリの主力製品である地理情報システム(GIS)プラットフォームであるアークGSI(ArcGIS)を計画立案や公共事業にすでに使っていたこともあり、エスリはRTCCのテスト・サイトを無料で構築することを申し出た。

警察テクノロジーの拡大は、全米で似たようなパターンをたどっている。つまり、警察と警察が尽くすべき市民との間における対話からではなく、警察とベンダーとの協議によって推進されるのだ。地方の法執行機関における監視テクノロジーの普及を追跡する人権団体の電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)によると、人口1万人に満たないルイジアナ州ウェストウィーゴ市のような小さな都市に設置されているRTCCは現在、85カ所にのぼる。私は「憲法上の権利に触れる可能性があるこの新しいツール(RTCC)で、何をするつもりなのか?」という質問に対する、グレイナー本部長の回答を得るため、オグデン市へ向かった。連邦法や州法が、エスリなどの企業によって提供される商品に追いつくには時間がかかる。だとすれば、どこからが憲法上の権利に抵触するのかを決めるのは、一体誰なのだろう。

オグデン市は19世紀後半に成長した都市だ。東西から建設が進んだ大陸横断鉄道のレールが1869年に最終的に接続された地点に最も近い分岐地点である。当時、「西の交差点」と呼ばれ、東西2つの異なる自然環境の境界に位置している。市の東側にはロッキー山脈の最西端を形成するワサッチ山脈があり、西側にはグレートソルト湖を挟んで宏大な乾燥した地域のグレートベースンが広がっている。オグデン市のマイク・コールドウェル市長が好んで言うように、鉄道がオグデン市を「適切な時期に豊かに」した。しかし、鉄道はまた、市が今なお克服に努める不名誉な評判ももたらした。地元には、1920年代、列車で市を訪れたアル・カポネは25番街周辺を歩き、あまりにも荒れているのでこの街には滞在できない、と言い放ったという言い伝えが残っている。1995年にグレイナーが警察本部長に就任する頃まで、25番街の主な課題は物乞いと公衆の面前での酔っ払いだったそうだ。こうした軽犯罪が問題となるオグデン市であっても、市の指導部は重大犯罪を対象としたRTCCを繁華街活性化の取り組みの要とみなしている。

RTCCは、オグデン市の公共安全ビルの2階の薄暗い三角形のオフィス空間を占有している。室内の光の多くは、壁に沿って曲がりくねって並べられた6つのデスクそれぞれに設置された2台のマルチ・ディスプレイから放たれている。さらに、その向こうには2列の壁掛け式ディスプレイもある。奥の隅には携帯電話解析機が置かれ、頑丈な保管箱の中には数台のドローンが積み重ねられている。

7人の分析官チームは時間交代制で勤務し、警察無線の交信をチェックして、刑事やパトロール警察官からの「情報提供要請」を処理している。分析官チームの上司であるデイビッド・ウェロス部長はあごひげをきちんと整え、白髪を角刈りにした、おおらかな印象の元刑事だ。ウェロス部長は2005年にオグデン市警察を退職したが、1年も経たずに犯罪分析官として復帰し、以来ずっと仕事を続けている。

私が2月に訪問した時、オグデン市警察のヘザー・ウェスト刑事は、フロック・セイフティ(Flock Safety)と呼ばれる新しい自動ナンバープレート読取りシステムで撮影された数百枚の写真の列をスクロールしていた。盗難に使われたと思われる特徴的なピックアップ・トラック(赤いキャンピグカー用の屋根を搭載した灰色の車)を探していたのだ。その前の週、フロック・セイフティは3日間で盗難車両を5台発見するのに役立ったとウェロス部長は説明した。2020年12月に導入して以来、分析官たちはフロック・セイフティを使った検索を800回以上こなしていた。とはいえ、ナンバー不明の特定の車種や色の車を探す場合、フロック・セイフティのプログラムは誤認する傾向があった。「どういうわけか、フロック・セイフティは赤いマツダ3が好きなようです」とウェスト刑事は画面から目を逸らさず話した。

隅のテレビでフォックス・ニュースが静かに流れる中、ウェロス部長はチームを紹介してくれた。ウェスト刑事は、チーム内に2人いる刑事の1人であり、チームにはオグデン市近郊のウィーバー郡の保安官代理と連邦法執行機関に勤務経験のある4人の民間人の分析官が含まれる。元米国財務省職員だった分析官は、州全体の質入れ品登録データを調査し、オグデン市で盗難にあった盗品を探していた。

ウェロス部長は分析官の1人に、最近の殺人事件の捜査に関連するビデオを再生させた。その捜査では、令状を取って取得した携帯電話の記録から、ある女性が殺害された夜の被疑者(女性と親密な関係の男性)の行動において、重要な点でアリバイの矛盾が明らかになった。ウェロス部長のチームは、オグデン市の水処理施設にある市所有の監視カメラの映像を利用して、「携帯電話のデータが示す場所に被疑者がいたことを証明し」起訴を確実なものにした。

これは、オグデン市のRTCCでテクノロジーをどのように活用しているかに関する議論で、繰り返し例として挙げられる数少ない最大の功績の1つだ。もう1つの例では、2018年、誘拐されていた女性が警察官を呼び止め、被疑者の身体的な特徴を提供した後、分析官が市所有の監視カメラ・ネットワークを駆使して、被疑者を見つけ出したことだ。警察官が現場に到着した時、被疑者の男は発砲してきたが、警察官は反撃して射殺した。

人権侵害的なテクノロジーを利用するための適切な理由があるとしたら、殺人事件の解決と暴力犯罪の阻止は両方とも確実に当てはまるだろう。それよりはるかに評価が難しいのは、監視ツールを使用すると、警察官と日常のパトロールで出会う住民との関係にどのような影響が出るか、または警察活動の目的に関する住民の理解がどのように変化するかである。

自動車の盗難を例にしてみよう。オグデン市の自動ナンバープレート読取りネットワークが早くから成功を収めたのは、盗難車の発見に関してだ。グレイナー本部長が思い出したように、自動車盗難は冬場に増加する。「自宅の私道で車を温めておくため、エンジンをかけ、イグニッションにキーを挿したまま家の中に戻る人が多いからです」。現在でも「エンジンをかけたまま放置しておいた」ことが原因の事件は、市内の自動車盗難事件の約3分の1を占めるとウェロス部長は言う。2020年11月、若い母親が後部座席に生後10カ月の赤ちゃんを置いたままエンジンをかけていた自動車が盗まれた事件も同様だ。自動ナンバープレート読取り装置が、この赤ちゃんを2時間以内に見つけ出す …

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