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日本企業はスペースデブリ問題にどう取り組むか?キープレイヤーが議論
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How will Japanese companies take on the space debris problem?

日本企業はスペースデブリ問題にどう取り組むか?キープレイヤーが議論

大量の人工衛星の打ち上げなど、宇宙利用が加速するにつれて、スペースデブリ(宇宙ゴミ)に対する懸念が高まっている。日本企業はこの問題にどう取り組むのか。関係各社が議論した。 by Ayano Akiyama2021.05.18

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を巡るトピックには枚挙にいとまがない。この半年だけでも、2020年10月には通信衛星の大型コンステレーションを計画する米AST & サイエンス が連邦通信委員会のパブリックコメントでNASAからスペースデブリ対策の不備を指摘され、2021年1月には、1999年に打ち上げられたNASAの地球観測衛星「テラ(Terra)」がデブリ対策ルールの「ミッション終了後25年以内に軌道離脱」という期限を大幅に越えて50年近く軌道上に留まる可能性を指摘された。3月には米国海洋大気庁(NOAA)の気象衛星が約11年のミッションを終えた後、軌道上で破砕したことが報告され、4月には中国の民間企業オリジンスペースの技術実証衛星NEO-1が長征6号で打ち上げられ、宇宙資源の採掘と軌道上でのネットによるデブリ捕獲の実証を開始している。長征5号Bの大気圏再突入が懸念されたことも記憶に新しい。

課題が山積する中で、日本の民間衛星オペレーターや事業者は軌道上の安全確保にどのように取り組むのか。2月24日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)主催の第9回スペースデブリワークショップに関係各社が集まり、パネルディスカッション「日本の民間デブリ関連ソリューション事業化に向けた挑戦」が開かれた。

パネリスト。モデレーターはJAXAの上野浩史氏が務めた。(主催者提供)

パネリストからは、各社のスペースデブリ対策に関する発表があった。スカパーJSATでデブリ除去プロジェクトリーダーを務める福島忠徳氏は、同社と理化学研究所が進める、衛星からパルスレーザー発して役割を終えた衛星を軌道から離脱、大気圏に再突入させるEOLサービスのプロジェクトを紹介。2024年には軌道上実証を実施し、2026年にサービス開始を目指しているとした。パルスレーザーで役割を終えた衛星からプラズマを発生させ、推進力を生み出すアブレーション方式を利用するため衛星を動かすための推進剤が不要という利点がある。メガコンステレーションと呼ばれる大規模衛星群、宇宙機関やNGOなどを想定顧客としているという。

メガコンステレーション型の衛星は、もともと軌道上の寿命を終えた後に自力で軌道から離脱し、大気圏へ再突入する機能を持つ衛星群もある。衛星自身でも可能なことをサービスとして成立させるにあたり、福島氏は「高いPMD(ミッション後の軌道離脱)の達成」を挙げた。「自力での軌道離脱失敗の際に、ADRを保険として組み込む」PMD達成率を上げるといい、「デオービット(軌道離脱)保険」のような何らかの保険の枠組みの創出、またADRサービスを提供する側が顧客を獲得するまでに時間がかかることから、政府系のアンカーテナンシー(調達保証)を求めた。

(主催者提供)

川崎重工業でETS-VII(きく7号)やISS日本実験棟「きぼう」の開発に参加し、同社のデブリ除去事業を進める久保田伸幸氏は、川崎重工の進めるデブリ除去衛星の試みを紹介した。JAXAの革新的衛星技術実証プログラム2号機として2021年度打ち上げ予定のデブリ除去技術実証衛星「DRUMS」は、60センチメートル角、60キログラム級の衛星となる。衛星からターゲット(模擬デブリ)を放出して接近、捕獲する技術を高め、将来はJAXAのデブリ除去実証衛星への参入を目指す。

久保田氏は、スペースデブリ対策には「経済合理性が成り立つのはいつか?」という課題があるとして、福島氏と同様に政府のアンカーテナンシーが民間資金を呼び込むきっかけになるとした。また、対策をとる企業を「環境改善優良企業」として認定する制度など、スペースデブリを環境問題の一部として考え、SDGsの取り組みとして発信することを提案した。

(主催者提供)
(主催者提供)

 

スペースデブリ対策だけでなく衛星のミッション延長サービスも展開し、「総合軌道上サービス」を打ち出すアストロスケールの田治米伸康氏は、「技術がなければデブリ除去の議論も進まない」として、やはりアンカーテナンシーによる技術開発の促進を求めた。また、中島田鉄工所開発のミッション終了後軌道離脱装置「DOM」の代理店であるSpace BDの金澤 誠氏は、技術開発の「課題は予算にある」とし、宇宙実証の機会を補助し、打ち上げ機会を提供することが支援につながると述べた。

各社がどちらかといえばスペースデブリへの対策側、軌道離脱技術の提供側として発言する中、衛星コンステレーションを展開するプレーヤーの立場から発言したのが、アクセルスペースの中村友哉氏だ。同社は、地球観測衛星プラットフォーム「AxelGlobe」の展開を目指して小型衛星「GRUS(グルース)」の打ち上げを続けている。中村氏は、「スペースデブリに関する議論では、宇宙利用側の視点が乏しいまま議論されているのではないか?」と懸念を表明し、小学生から「デブリ問題をどうするのですか?」といった質問が寄せられた経験を語った。スペースデブリ問題は、道路にごみを捨てる行為のように、道義的な問題と考えられているのではないかという。実効的な議論をするには、スペースデブリ関係の議論に衛星事業のプレーヤーが入ったほうがよいとの認識だ。

(主催者提供)
(主催者提供)

問題提起を受けたパネルディスカッションでは、世界各国のスペースデブリ規制の現状について認識が示された。「レギュレーションに関する議論が始まっているが、最初にどこがどの程度まで規制度を上げていくのか探り合いになっている。日欧はADRの実証進んでいるように見えるが、米国は規制の進み方が早い。日本の場合は、宇宙基本計画の工程表などで数年に1回は状況の前進度を測ることができる」(福島氏)。「米連邦通信委員会(FCC)がパブリックコメントを実施するなどかなり進んでいる。米国は宇宙開発市場が大きいため、FCCによる規制は影響力が大きい」(田治米氏)のように、日米欧でも規制の進め方が異なる。「技術開発からアンカーテナンシーへつなげていくことは難しいのか?」(MUSCATスペース・エンジニアリングの八田真児氏)、「限りある宇宙予算の中でアンカーテナンシーを設けると、他の予算を食ってしまう」(久保田氏)など、デブリ対策のコスト負担はなかなか進まない。

対策を進めるために何が必要なのか。根本的な規制のあり方について、「環境規制に厳しいほうが保全につながるのか」という論点に対しては、品行方正さのバランスについてアクセルスペースが異論を述べた。日本だけ規制が厳しすぎるとかえって不利益が出る。アンカーテナンシーを実施するならば、技術開発だけに資金をつけるのではなく、太陽光発電の買取制度のように、デブリ対策装置を取り付けた衛星に補助金を出すといった制度を設ければ負担感を減らせるのではないか。『この技術を使わなければならない』というやり方はうまくいかないのではないか」(中村氏)。

宇宙利用の促進とスペースデブリ対策という利害調整の方法として、「全体を通して『この規制を進めると全体が進む』という視点が必要だ。日本だけ半歩先に規制を始める、PMDデバイスを導入できるようお金をプールするといった仕組みでもよいのではないか?」(福島氏)という提案に対し、「1社で回復できない失敗など、巨大な問題発生が発生した場合のため、資金をプールしておくことが必要ではないか。軌道上利用税のように、利用する企業がお金を払う仕組みではどうか」(ALEの蔵本 順氏)、「例えばカリフォルニア州では、自動車の排ガス規制が厳しくして、一般ユーザーはその規制に対応した自動車を選ぶ、といった仕組みになっている。考え方を応用できるのではないか」(IHIの泉山卓氏)といった提案があった。とはいえ、「事業者にとって実効的なしくみはまだわからない」(中村氏)との反応もある。

現在はまだ「規制のありかた」の全体像を描く議論が必要な段階だといえそうだ。話題に新しい長征5号Bの制御されない大気圏再突入の例のように、軌道上の安全は総論賛成でも、各論では強大なプレーヤーが実力を行使している状況がある。SDGsになぞらえてスペースデブリ問題を議論することは、宇宙業界外部に対して説明する際にはわかりやすいたとえではある。しかし、実際の軌道上には守るべき生態系が存在するわけではない。たとえを多用するとスペースデブリ対策は宇宙を利用する者にとって必要な利害調整である、という側面が見えにくくなってしまわないだろうか。

日本が率先してスペースデブリ対策を打ち出し、環境問題のメタファーを用いて品行方正さをアピールすることは、世界に対する発言の仕方としてありうるだろう。ただし、それがアクセルスペースのような衛星プレーヤーにとってプレッシャーとなってしまうことも十分に考慮されるべきだろう。

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秋山文野 [Ayano Akiyama]日本版 フリーランスライター/翻訳者
1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経て宇宙開発中心のフリーランスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。
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