KADOKAWA Technology Review
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宇宙の「フォード」目指す
ファントム・スペースの
型破りなビジネスモデル
Ursa Major
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Startup Phantom Space wants to head into orbit against the grain

宇宙の「フォード」目指す
ファントム・スペースの
型破りなビジネスモデル

アリゾナ州に本拠を置くロケット打ち上げ企業のファントム・スペースは、「宇宙のヘンリー・フォード」となってロケットを量産し、年間100回の打ち上げを目指している。スペースXの創業メンバーが率いる同社は、ライドシェアのトレンドに反して成功を収めることができるか。 by Neel V. Patel2021.07.07

ジム・カントレルは、自身のことを「小型打ち上げビジネスの聡明な父の1人」と呼ぶ。それは否定しがたい事実だ。イーロン・マスクが2002年にスペースX(SpaceX)を創業したとき、カントレルは初代事業開発担当副社長に就任した。彼の専門知識はスペースX初のロケット「ファルコン1(Falcon 1)」の開発に不可欠だったのだ。

その後、カントレルは「ストラトスペース(StratSpace)」と略称されるストラテジック・スペース・ディベロップメント(Strategic Space Development)を創業した。ストラトスペースは、米国航空宇宙局(NASA)が小惑星ベンヌに送ったオサイリス・レックス(OSIRIS-REx)探査機 や、国際的NPOの惑星協会(Planetary Society)が 宇宙で実証試験した太陽帆テクノロジーといったプロジェクトに取り組んだ。カントレルはまた、月における資源の採掘を目指すムーン・エクスプレス(Moon Express)の共同創業者兼CTO(最高技術責任者)でもある。

カントレルは、失敗が文字通り致命的になる可能性がある宇宙産業の危険性についても熟知している。ムーン・エクスプレスはグーグル・ルナ・エックス・プライズ(Google Lunar X Prize、3000万ドルの賞金がかかった月面無人探査コンテストで後に中止)で決勝戦に進んだが、実際には月どころか宇宙にも行ったことがない。

カントレルが今、一番関心を持っているのは、ファントム・スペース(Phantom Space)だ。同社は、小型かつ安価な人工衛星の爆発的な進歩によって衛星を軌道に投入する需要が高まることを見越し、それに対応するロケットの製造を目指しているスタートアップ企業の1社である。だが、彼のこれまでの道のりと同じように、ファントム・スペースもまた、世の流れに逆らって成功を収める道を模索している。

いまロケットの分野で最も活発なトレンドは、ライドシェア(相乗り)による打ち上げだ。打ち上げ日がすでに決まっている中型または大型のロケットに、ペイロード(積載物)を乗せるスペースを売るビジネスである。通常、顧客にとってライドシェアは、ペイロードを単発で打ち上げて宇宙に送るより安上がりな方法だ。例えば、スペースXのライドシェア・プログラムなら、200キログラムのペイロードの打ち上げが100万ドル(同社のファルコン9ロケットは合計2万2800キログラムを地球低軌道に打ち上げ可能)。1月21日、スペースXはライドシェアに特化したミッションを始め、これまでで最多となる143基の人工衛星を軌道に投入した。続いて6月に、同様のミッションを始める予定だ。3月には、大型ロケットの建造に長らく抵抗してきたロケット・ラボ(Rocket Lab)が突然方向転換し、まさしくライドシェアによる打ち上げを実行するためのロケット「ニュートロン(Neutron)」を発表した 。ニュートロンは、スペースXのファルコン9と競合する。

ファントム・スペースにとって、ライドシェアは得意分野ではない。小型ロケットを大量生産して年間百機打ち上げて、宇宙に足掛かりを築きたいと考えている。「ファントム・スペースは宇宙のヘンリー・フォードになりたいのです」とカントレルはいう。「ファントム・スペースは小型ロケットをどのように開発に …

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