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The up-and-coming entrepreneur talked about the future of health tech

コロナ禍で注目、米ベンチャー起業家が語ったヘルステックの未来

新型コロナウイルス禍を経て、予防医療やウェルビーイングなど、あらためて「健康」の重要性が問われる中、AIなどのデジタル技術は、人々にどのような恩恵をもたらすのか。 by Yasuhiro Hatabe2021.06.21

新型コロナウイルスのパンデミックを受け、この1年であらゆる社会活動のリモート化が進み、さまざまな分野でデジタル化が加速した。一方、長引く自粛生活によって「健康」の重要性が問われる中、AIなどのデジタル・テクノロジーはどのような価値を提供できるだろうか。

2021年5月28日にオンライン開催された「Emerging Technology Nite #18」では、「AI×ヘルステックの未来」をテーマに、オンライン・フィットネス・サービスを提供するスタートアップ企業「ニューラルエックス(NeuralX)」を米国で経営する仲田真輝CEOが、米国の最新デジタル・ヘルスケア事情を語った。仲田CEOは、MITテクノロジーレビューが選ぶ「35歳未満のイノベーター」の1人である。


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コロナ禍で注目度が高まったホームフィットネス業界

新型コロナウイルス感染症の影響で、フィットネス業界における倒産件数が過去10年で最悪といった報道も目にする。仲田CEOは「これら倒産のほとんどが、いわゆる『ブリック&モルタル』、実店舗を持って経営されている企業」だと話し、アフターコロナに向けて変革が問われる時代になったと指摘する。

日本でも資金に余力があるフィットネス企業はデジタル化に舵を切っているが、米国のフィットネス業界、ひいてはヘルスケア業界のデジタル化に向けて莫大な資金が流れ込んでいる現状があると仲田CEOは話す。

コロナが拡大していた2020年6月にはルルレモン・アスレティカ(Lulukemon Athletica)が、ホームフィットネスのスタートアップ、ミラー(Mirror)を5億ドルで買収した。2021年に入ると、3月にトナル(Tonal)が2億5000万ドル、4月にはテンポ(Tempo)が2億2000万ドル、ヌーム(Noom)が5億4000万ドルと大型の資金調達を立て続けに実施し、ホームフィットネス業界にただならぬ注目が集まっていることが分かる。

仲田真輝(なかだ・まさき)
神奈川県で生誕。幼少期は海、山遊び、サッカーなどのスポーツに没頭して過ごす。人型ロボットに憧れ早稲田大学理工学部応用物理学科に進学し、学部・修士過程を通じ、人型ロボットのバランス制御の研究に従事。卒業後、株式会社インテルに就職し、その後、アメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) のコンピュータサイエンスPhD過程に進学。UCLAにて、 アカデミー賞受賞歴のあるDemetri教授のもとで、人工生命の研究に従事。PhDを修了後、ポスドク研究員として更に人工生命の研究を追求し、10年間にわ たる研究成果をもとに2019年2月NeuralX, incを起業。最近、MIT Innovators Under 35 JapanとForbes Next 1000を受賞。

米国民のフィットネス加入率が高い理由

そもそも米国では、フィットネスジムの加入率が日本と比べて高い。仲田CEOが紹介したデータによると、日本ではジムに加入している人の割合が全人口の4.4%であるのに対し、米国は24.3%、およそ4分の1がジムに加入しているのだという。

なぜここまでの乖離があるのか。仲田CEOは「主観ですが」と断った上で、日米の違いの背景を考察した。

理由の1つとしてよく言われるのは、医療保険制度の違いだ。米国には日本のような国民皆保険制度はなく、米国民が負担する医療費は日本と比べると非常に高額だ。そのため予防医療への取り組みが活発で、健康維持への関心も高い。

2つ目は、食文化の違いだ。「日本食には健康的なイメージがありますが、実際、米国では脂っこいものを食べる機会が多い。国民の肥満率も高く、運動への意識があるのでは」と仲田CEOは言う。

3つ目に挙げたのは、美意識の違いだ。「日本では、やせている人がきれい・かっこいいという美意識がありますが、米国では健康美、ほどよく筋肉がある締まった体が美しいとされることが多い。そういった美意識の違いが、フィットネスへの意識の高さにつながっているのでは」。

米ヘルステック業界の注目カテゴリ

仲田CEOによると、「テクノロジー自体はパンデミックに見舞われる前からあった」という。しかし、ヘルスケア業界自体が古い体質で、デジタル化のリスクを負えない、負った瞬間に経営が悪化してしまうような業界であり、テクノロジーに疎い経営者が多かった。

「でも、新型コロナによって強制的に変革が起きた。ものすごい勢いで業界が変わっており、チャンスがたくさんある状況」(仲田CEO)。

ヘルステックというカテゴリーでみると、市場規模は1100億ドル、投資額は800億ドルに及び、巨大なマーケットになっている。「今も伸びており、これからも伸びていく」と仲田CEOは話す。

中でも、AIが活用されている最たる分野は、創薬(新薬開発)の領域だ。もとより治験のコストがかさむ領域ではあるが、それを踏まえても、多くの資金が投じられており、AIによる創薬支援を行なうスタートアップは軒並み数億ドル単位の資金を調達している。

テレへルス、テレメディスンと呼ばれる遠隔医療の領域のスタートアップにも、大量の資金が流れ込んでいる。仲田CEOによると、米国民の半数は遠隔医療をすでに体験しており、通院不要、非接触で診療を受けられるメリットに気がついているそうだ。

さらに、ヘルスケア目的のウェアラブルデバイスへの注目度も高い。ウェアラブルはIoTのメディカル版、IoMT(Internet of Medical Things)の一要素だが、最近では心電図(ECG)をモニタリングするデバイスが一般家庭でも使われ始め、人々の目に触れるようになってきた。

ここで仲田CEOは、2つの懸念点を挙げた。

1つは、異なる複数のメーカーがさまざまなIoMT機器を作っているため、現状ではまだデバイス、そしてデータの仕様が標準化されていないこと。データの解釈の仕方も含め、これを今後どのように統一された形でコミュニケーションをとっていくかが課題だ。

もう1つは、セキュリティの問題。健康に関するデータは、個人情報の最たるものだからだ。しかしこの点について仲田CEOは、「ヘルステックのデータを支えるインフラにブロックチェーンを実装していくことで、アクセシビリティを保ったままセキュリティを高める方向へ進みつつあります。それを実現できる企業が台頭していくのではないでしょうか」との見方を示している。

ヘルステックは日本へどのように浸透していくのか

この日のイベントはユーチューブでライブ配信され、視聴者からの質問を受け付けた。

「米国と日本では、自宅でトレーニングできるスペースに違いがあると思う。日本でのホームフィットネスの浸透にどのように影響するか?」

自身が立ち上げたニューラルエックスでオンライン・フィットネス・サービス「プレゼンス・フィット(Presence.fit)」を提供する仲田CEOは、この質問に「日本のホームフィットネス、あるいはデジタルフィットネスの実装は、米国とは異なると考えていて、我々も意識しています」と答えた。

今後は、フィットネスのデータだけでなく、運動をしていない時の、食事に関するデータ、睡眠に関するデータなど、さまざまな種類のデータを取得し、ヘルスケアに活用する方向へ向かう。その兆候は米国ですでに出ており、いずれ日本でも同じことが起きると予測できるという。

「自宅にスペースがない日本では、フィットネスのためのスペースだけを提供する店舗があり、利用者はそこへモバイルデバイスだけを持っていき、エクササイズができる、そんな方法が考えられます。例えばそのスペースで、ロサンゼルスのインストラクターの指導を受けてエクササイズをしたり、360度のプロジェクションでサンタモニカのビーチを映し出して気分を変えてトレーニングしたり。もはや『ホーム』フィットネスではない形で、日本にはデジタル・フィットネスが浸透していくのではないでしょうか」(仲田CEO)。

最後に仲田CEOは、デジタル技術が我々にもたらす最大のメリットとして「自分を律すること」をサポートしてくれる点を挙げた。

「人間って、やっぱり弱いと思う。ほとんどの人は、自分を律することができない。でも、今までは富裕層の人しか付けられなかったパーソナル・トレーナーの役割を技術が担ったり、かかりつけ医の代わりを技術が果たしたりすることで、ヘルスケアを民主化できる。それこそが、テクノロジーのなせる業だと思います。またその先には、体の健康だけでなく、メンタルの健康も含めた心身のヘルスケアサービスを、デジタルで手軽に安価に受けられる時代が来るというのが、僕が見ている未来像」。仲田CEOはこう語った。

本イベントでは視聴者から多数の質問が寄せられた。そのうちのいくつかについて、イベント終了後、仲田CEOから回答を得た。以下に掲載する(質問、回答は一部編集している)。

Q:日本の保健医療では医療費抑制の文脈が強く、そのためには個人のメディカルデータ・行動データ、医療機関の診断データも揃えて分析できるプラットフォームが必要だと思います。米国では、こうしたパーソナルヘルスデータ・プラットフォームに向けた動き、特に民間・行政間の連携は具体的に進んでいるのでしょうか?

A: 米国ではEHR(Electorical Health Record: 電子カルテ)を通じて、いかにオープンプラットフォーム化できるかということの議論がしばらく長年続けられています。ブロックチェーン技術を使うことで、データを匿名性の高い状態にして保存し、そしてそれをどこからでもアクセスしやすくすることで、どこの病院に通院したときにも過去のメディカル履歴が確認でき、患者さんにより良いパーソナライズされたサービスを提供するような取り組みは、今年から来年にかけてますます加速すると思います。アップルも先日、アップルウォッチやヘルスキットから取れるバイタルデータを医師に送信して共有できるサービスをアナウンスしました。医療機関でのメディカルデータの有効活用、そして家庭でのIoMTデバイスから取れるバイタルデータと融合させた形でのデータ分析を通じたサービスはかなりこれから大きくなっていく分野だと感じています。

Q:まだ連携が進んでいない最大の制約は何だと思われますか?

A:これまでのセキュリティ上で課題、リスクを取りたくない病院経営陣、既得権益のあるビジネス側から見たときに他社に共有できる形にすることにメリットを感じない会社が多いということが挙げられると思います。大きな力(法律等)でトップダウンで強制的にデータを共有しなければならないルールにするか、あるいは共有することで、現状データを多く保有する会社がなにかしらのメリットを享受できるような道標を見せる必要があると感じています。

Q:仲田さんの四肢の神経から脳の運動野につなげたシミュレーション技術は、フィットネス以外でも応用された事例はありますか?

A:直近ではフィジカルセラピー、プロアスリートの解析、高齢者の運動強化・支援といったことへ応用したいと考えています。他には、ロサンゼルスにあるアカデミー賞受賞歴のある映像制作会社とコラボし、CGを使った映画コンテンツへの応用に取り組んだ事例があります。将来的には、筋肉や運動野に関する病気のリハビリ支援や原因解明、新しい治療方法の考案のためのシミュレーションを通した安全な治験プラットフォームの提供といったことにもつなげていきたいと考えています。

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畑邊 康浩 [Yasuhiro Hatabe]日本版 寄稿者
フリーランスの編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリー。
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