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ハリケーン「アイダ」でNYに甚大被害、洪水対策追いつかず
Getty
How Ida dodged NYC’s flood defenses

ハリケーン「アイダ」でNYに甚大被害、洪水対策追いつかず

米東海岸を襲ったハリケーン「アイダ」は都市に甚大な被害をもたらした。ニューヨーク市はここ数年、洪水対策に取り組んできたが、頻発する脅威にまだ適応できていない。 by Casey Crownhart2021.09.07

ニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州を襲ったハリケーン「アイダ」による洪水で、少なくとも20数名が死亡した。このハリケーンがルイジアナ州、ミシシッピ州、アラバマ州を襲った先週末には13人が死亡100万戸が停電したが、今回の被害はそれを上回っている。

ハリケーンが東海岸を北上する中、ニューヨーク市は特に大きな打撃を受けた。セントラルパークでは、1時間に76.2ミリ以上の雨が降り、1週間前に更新した最大降水量の記録をさらに更新した。洪水は公園道路を運河に、地下鉄の階段を滝に変え、住民らは立ち往生したり閉じ込められたりした。2012年のハリケーン「サンディ」以降、市は数十億ドルを投じて洪水対策を強化してきたにもかかわらずだ。

気候変動による降雨量の増加に伴い、極端に強い嵐は珍しくなってきており、さらに温暖化が進めば暴風雨も悪化すると見られる。その結果として生じるさまざまな脅威(鉄砲水から高潮まで)に備えるために、都市が解決しなければならない課題はまだ山積みだ。適応には時間と費用がかかり、数十年の時間と何千億ドルもの費用に達することもある。だが、気候変動とそれに適応する取り組みは、進むペースに開きがある。

「問題は、気候変動の影響と暴風雨の変化はより早まる一方で、それに対する適応策が追いついていないことです」と、都市部の洪水を研究している水文学者であるペンシルベニア州立大学工学部のローレン・マクフィリップス准教授は言う。

マクフィリップス准教授によると、ニューヨーク市は洪水への備えという点では比較的進んでいるという。何年も前から市は、屋上緑化やレインガーデン(雨水浸透緑地帯)など透水性の高い建築物を設置したり、ポンプや排水管を改良したりしてきた。サンディ以降、これらの改善はさらに進んだ。

「サンディからは多くの教訓を学びました」。ニューヨーク州知事のキャシー・ホークルは、今回のハリケーンの翌朝に記者会見で言った。「私たちはレジリエンス (回復力)を取り戻し、沿岸地域はハリケーンに対して以前よりはるかに強固になりました。しかし、私たちがを抱えている脆弱性は街中にあります」。

ニューヨーク市の洪水を語る上で、サンディの存在は無視できない。一方で、サンディとアイダの違いは、気候変動によってニューヨークが直面する複雑な洪水の脅威を示している。サンディは高潮を引き起こし、海水が市に流れ込んだ。アイダでは、短時間のうちに数十ミリもの雨水が市に降り注いだが、これは防潮堤などの沿岸保護では解決できない問題だった。

ニューヨーク市をはじめとする沿岸部は海面上昇の影響を受けやすいが、そうでなくとも都市部であれば、降雨を原因とする洪水が発生する可能性がある。「ニューヨーク市を開発してきた手法が、洪水問題を引き起こしているのです」。都市気候変動について研究し、「気候変動に関するニューヨーク市パネル」のメンバーでもあるニュースクール大学公共政策学部のティモン・マクファーソン准教授は言う。

コンクリートのような水が浸透しない地面は、草原や森林の地面とは違い、水が浸み込まずに傾斜に従って流れ落ちる。そして、十分な量の水が合流すれば、その結果は致命的なものとなる。

「この問題を解決するためには、文字通り市を再設計する必要があります」
ティモン・マクファーソン准教授

ニューヨーク市は、マクファーソン准教授ら研究者の意見を取り入れ、暴風雨により発生する洪水への防御力を高める計画を立てた。2021年5月に発表された、暴風雨からのレジリエンスを高める計画は先進的なもので、市全体の洪水リスクの評価、洪水リスクに関する地元市議会の教育などの社会的戦略から、屋上緑化やレインガーデンの増設などの工学的手法まで、さまざまな解決策を提案している。

さらに、市の環境保護局では、最も激しい暴風雨の際に特に大きな被害を受ける地域のための計画を検討している。2018年に完成した「集中豪雨からのレジリエンスについての調査」では、極端な降雨事象に対処するための戦略について考察している。クイーンズ区の頻繁に浸水する地域における計画には、透水性のある公園の歩道などの緑地設備や、大洪水の際に水を溜めておくように設計されたバスケットボールコートが含まれていた。

しかし、これらの計画やその他の雨水管理対策を実行するには、多額の資金が必要となり、中には設計と施工に10年を要するものもある。「この問題を解決するためには、文字通り市を再設計する必要があります」とマクファーソン准教授は言う。そして、その費用は何千億ドルにもなると見込んでいる。彼によれば、いくつかのケースでは、洪水から都市を守る方法は研究によってすでに明らかになっているが、必要な資金を調達し、政治的支持を集めて実行に移すことに対しては依然として高いハードルがあるとのことだ。

その間にも、洪水による死者は出続ける。ケント州立大学地質学部の水文学者であるアン・ジェファーソン准教授は、ハリケーンの影響の中でも洪水による死亡者数が最も多いと言う。そして、水害によって被害を受けたり死亡したりする可能性が最も高いのは、社会的弱者だ。ニューヨーク市でアイダにより亡くなった少なくとも8人は、地下のアパートに住んでいた。中には違法建築もあり、地上と比べて安価な傾向にあるアパートだった。

工学的な解決策は、都市で発生する洪水による一部の被害を軽減するのに役立つ。しかし、今のところ、これらの解決策の整備は遅々として進まず、気候変動が進むにつれ、何百万人もの人々が脅威にさらされ続けることになる。

結局のところ、温暖化が続けば、暴風雨はさらに悪化する可能性が高い。そして、将来の被害を抑えるためには、幅広い解決策(生態学的、社会的、法的、工学的な手法)が必要になる。アイダは、山火事熱波など、今年発生した他の多くの気候災害とともに、あることを非常に明確にした。もはや、気候変動は避けられる未来の問題ではないということだ。それは、現に起きていることであり、私たちはそれに追いつくのに精一杯なのだ。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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