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「気候変動移住」が引き起こす貧困の連鎖、ジンバブエ現地ルポ
AP Photo/Tsvangirayi Mukwazhi
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Zimbabwe's climate migration is a sign of what's to come

「気候変動移住」が引き起こす貧困の連鎖、ジンバブエ現地ルポ

世界銀行の予測によると、気候変動により、サハラ以南アフリカでは2050年までに数千万人が国内での移住を余儀なくされるという。すでに非合法な移住が始まっているジンバブエでは、生活を圧迫された移住先の人々と移住民との間で緊張が高まっている。 by Andrew Mambondiyani2021.12.21

ジュリアス・ムテロはこの6年間、ほとんど何も収穫していない。ムテロは大人になってからずっと、ジンバブエ東部の農村マビヤにある3ヘクタールの土地で農業を営んできた。トウモロコシと落花生を栽培し、自分と妻、そして3人の子どもたちの食糧としてきた。残ったものはすべて売って現金収入とする。

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しかし、10年以上前からムテロの住む地域では雨が少なくなり始め、川も干上がった。以前から、30℃に達することもあるような暑い地域だったが、毎年、夏の最高気温が37℃を記録するようになった。今では梅雨は11月上旬ではなく12月下旬に始まるようになり、梅雨明けも早くなった。最も乾燥する時期には、とげのある低木しか残っていない干からびた農地に砂埃が舞い上がる。

何年も続く深刻な干ばつで、ムテロの作物は全滅してしまった。早生品種のトウモロコシを育てようとしたが、それさえも生き残ることができなかった。家畜のための牧草地もなく、ムテロはの7頭の飼育牛がすべて死んでいくのをなすすべもなく見守るだけだった。

「ここでの生活は今、極めて厳しいものになっています」とムテロは言う。家族は主に非営利団体(NPO)やジンバブエ政府から提供される食糧援助に頼って生き延びている。しかし、それだけでは十分ではない。

ムテロは水を求めて住まいを捨てざるを得ないと感じている。彼は幸運だ。伝統的な指導者が、ジンバブエのイースタンハイランズにあるマビヤから約30キロメートル離れた場所にある小さな土地を約束してくれた。この土地はジンバブエの他の地域よりも雨が多く、霧も多い。

10月に話を聞いたとき、ムテロは新しい家を建てて年末までに家族で移住することを計画していた。しかし、彼は心配していた。「私たち家族にどんな状況が待ち受けているか、私たちがどのように受け入れられるかはわかりません」。

世界銀行の予測では、気候変動のために2050年までにサハラ以南のアフリカに住む8600万人が国内での移住を余儀なくされる。世界銀行の新しいレポートで調査対象となった世界6つの地域の中で、サハラ以南アフリカの予測移住者数は最も多い。ムテロはその1人に過ぎない。

ジンバブエでは、雨水を貯めたり、栽培作物を変えたりして順応し、耐え忍ぼうとしてきた農民たちが、新たな異常気象に直面して、その努力が全く報われないことに気づいた。干ばつによって、すでに何万人もの農民がジンバブエの低地からイースタンハイランズへ追いやられている。しかし、彼らの必死の移住はイースタンハイランズで新たな水の争奪戦を生み出し、緊張はやがて沸点に達するかもしれない。

枯渇間近

ジンバブエは過去30年間干ばつに耐えてきた。しかし、気候変動の影響で干ばつの発生頻度は高まり、深刻度は増している。ジンバブエ国民の最大70パーセントは、農業または関連する農村経済活動で生計を立てており、そのうち数百万人の自給自足農家は完全に雨水に依存した農業をしている。過去40年間で平均気温は1°C上昇したが、年間降水量は20〜30パーセント減少している。

2018年から2020年まで続いた最近の干ばつでは、最もひどかった時期にはジンバブエでは通常の半分程度の雨しか降らなかった。農作物は枯れ果て、牧草地は干上がった。人々や家畜は水を求めて手押しポンプの掘井戸の周りに群がったが、井戸はすぐに干上がってしまった。干ばつが最もひどい地域では食べるものがほとんどなく、バオバブの木の葉や白い粉っぽい果実で生き延びた人もいた。

昨年の栽培期には雨量が増えたが、多くの農家は将来に不安を感じている。1940年代から旧植民地政府が積極的に推進してきたジンバブエの主食であるトウモロコシは、栽培が不可能になりつつある。

世界食糧計画によると、ジンバブエでは人口の3分の1に当たる500万人以上が十分な食事をとれていないという。干ばつによる農業崩壊に対する国の脆弱性に関する2019年の調査では、ジンバブエはボツワナとナミビアに次ぐ3位にランクされた。

ムテロをはじめとする気候変動による移住者が知っているように、イースタンハイランズの状況は幾分良い。イースタ …

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