KADOKAWA Technology Review
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世界有数の農業生産地
カリフォルニアの誕生、
そして水が枯れるまで
Tomas Ovalle
気候変動/エネルギー Insider Online限定
How we drained California dry

世界有数の農業生産地
カリフォルニアの誕生、
そして水が枯れるまで

カリフォルニア州は農業に適した土地だとされている。しかし、初めから農業に向く土地だったわけではない。山の向こうにある川から水路を引き、地下水を汲み上げるなどの人工的な工事によって、農業に欠かせない水を確保してきたのだ。そして今、カリフォルニア州を空前の干ばつが襲っている。 by Mark Arax2022.01.13

昨夜になって風向きがようやく変わり、燃え盛るシエラ・ネバダ山脈の煙が一掃された。ここカリフォルニア州の平地では、かつては花崗岩の山を別世界の避難場所くらいに思っていた。だが、そのような隔たりはもう存在しない。無数の松の枯れ木がすべて野火に焼かれ、灰じんと化したシエラ・ネバダ山脈は私たちの目と鼻の先にある。

私たちは抜け目なく空を観察することを学んだ。空を見て危険性を読み取るのだ。日によっては、世界一ひどい空気を吸うことになる。脳や肺を傷つける心配をせずに戸外を歩ける日はめったになく、行き交う人々とあいさつを交わすときには、新たな祈りの言葉を紡ぐようになった。「風向きが変わりますように」と、私は隣人に告げる。あるいは、「粉塵が舞うのはアーモンドの収穫のときだけでありますように」、と。とりあえず、HEPAフィルターの空気清浄機を止める勇気は私にはない。空調音は新生活の音だ。

サン・ホアキン・バレーで最も過酷な夏が、ようやく終わった。6月以来、38度を超えた日は67日間。新記録の達成だ。カリフォルニアの干ばつは今後も続きそうだ。過去10年間のうち8年は、特に干ばつが酷かった。引きこもり生活を始めてからひと月経った10月の朝、私は郊外の自宅を出て、灌漑が作った最大の砂漠、カリフォルニア州中部を見て回ることに決めた。田舎の空気は秋の匂いがする。秋の到来を祝いに、旧友のマスモトを訪ねることにした。彼は、デル・レイにある0.3平方キロメートルほどの土地で農業を営んでおり、レーズンの箱詰めの終盤を迎えているところだ。

収穫末期のフレズノを出て、世界で最も工業化が進んだ農業地帯の疲弊した畑を走り抜けていると、どうしても水のことを考えずにはいられない。水の存在や感覚、雨雪となって空から降ってくる形を。そして人間がダム、溝、運河、水路、ポンプ、散水管など、高度な技術を発明・導入して、水を獲得してきたことを思う。水は生物も無生物も活性化させる。今目の前にあるブドウ畑、果樹園、綿花畑、住宅地など、万物に力を与える。水は多すぎても少なすぎても私たちを滅ぼしかねない。必要な量だけを確保する利水など夢物語だ。

私はカリフォルニア州と水について何度か文章を書いており、必要ならば昔の話を繰り返すこともある。新しい言葉を探しながら、私は何度となくハイウェイ99号線でサン・ホアキン・バレーを走ってきた。サン・ホアキン・バレーを指して地質学者は「史上最も大きく人の手で改変された風景」と呼ぶ。今私の目に映るのは、新しい改変の傷痕だ。水不足を解消するために、なりふり構わず続けてきた所業の結果である。

カリフォルニア州の獲得は、決して簡単ではなかった。それは、米国で最も繁栄していた先住民族の抹殺にかかっていたからだ。立ちはだかる先住民族には1万年以上続く文明があり、30万人の住民がいた。ヨクト族、マイドゥ族、ミーウォク族、クラマス族、ポモ族、チュマシュ族、クミアイ族など、ほんの一例でもこれだけ挙げられる。熱に浮かされたような過去175年の足跡を振り返るとき、私たちはカリフォルニア州の先住民族の慎み深さを理想化しがちだ。とはいえ、先住民族は人数が多く、豊かで広大な土地を持っていたにもかかわらず、戦利品目当てに相争うことがなかったのは間違いないだろう。彼らは、地球にほとんど負担をかけない暮らしをしていた。自然が変化すれば自分たちが住処を変えた。洪水で引っ越し、干ばつでまた引っ越した。森の間伐が必要になると、雑草や下枝を焼いてからすぐに鎮火した。

虐殺が進むにつれ、カリフォルニア州の先住民文化は、スペイン人による宣教活動、メキシコによる占領、米国人入植の3段階によってゆっくりと消し去られた。残虐行為が、当時のあらゆる手段(毛布、天然痘、梅毒、松明、ナイフ、コルト45口径など)で実行された。最初に訪れたのは、セラ神父率いるフランシスコ会の修道士たちだった。セラ神父は奴隷商人でありながら列福された人物で、先住民族を労働奴隷として所有・使役して、初期の簡素なダムや運河を建設した。川がなかった場所に川を出現させ、サンディエゴからソノマにかけて21の伝道所を築いたのだ。サン・ガブリエル伝道所では、得た水で大量の穀物、野菜、異国の果物を育て、約0.7平方キロメートルのブドウ園「ラス・ヴィーニャ」を作った。

次にやってきたのは、メキシコの有力者たちだった。ただしスペインから独立したメキシコ勢力とカリフォルニア州の小競り合いは、1821年から1848年までの四半世紀しか続かなかった。欧州人、メキシコ人、米国人の血が入り混じった住民たちは、自らをカリフォルニア人と呼んだ。彼らはカリフォルニア州の多彩な自然を手なずけるのではなく、広大な土地を手に入れ、自らが土地に順応した。遠く離れた入植地で、カリフォルニア人は毎日1頭の子牛を殺して食べ、大量のワインとブランデーを飲み、王の名の下で結婚式を開いた。結婚式は、ずっと花嫁学校に閉じ込められて暮らしてきた娘たちが、ようやく太陽の下に出られる機会だった。カリフォルニア人は親愛のしるしとして、残った原住民に宣教師の土地と伝道所の水源を譲ると誓ったが、そのような契約が守られることはなかった。

米国の入植者たち、猟師や毛皮商人、偵察者、測量者らは、何十年もの間カリフォルニアの様子をうかがっていた。米国人の意図がついに明るみに出たのは、1846年の夏のことだ。入植者の背後にいた政府が、公式には一切発砲することなく、南北約1600キロメートルに及ぶ大陸西端のカリフォルニアをもぎ取ったのだ。地質的に11の地域に分かれ、緯度10度分にまたがり、地域によって年間降水量約5センチから350センチとばらつきのある土地を、いったいどうしたものか? 各地域が、それぞれの豊かさと制限の中で共存するという方針も取れたかもしれない。しかし米国人は、多様な地域を丸ごと線で囲い込み1つの州として宣言し、地域差を埋めるために無限の取り組みを始めた。

マニフェスト・デスティニー(米国の西部開拓を正当化する標語)は、カリフォルニア州にも着実に向かっていたが、1848年、突如金発見のニュースが世界中にとどろいた。金発見というニュースがもたらした激震は桁違いだった。一夜にして金の採掘に取りつかれた人々が、世界中から何万人も海を越えて押し寄せ、大半は一度も金を採掘できずに世を去った。採掘者はバール片手に山や川へ向かった。金の採掘には工業規模での水の確保が欠かせないことを知ったのだ。

「水!水!水!」とジェイムズ・メイソン・ハッチングズは大声で叫んだ。彼は傑出した季報『ハッチングズのカリフォルニア州画報』を1850年代に発行していた英国人である。「どこの山頂でも湧水は見つかる。必要なのは飲料水ではなく、作業用の水だ。作業者は金混じりの土をすくい取る。すくい取った金混じりの土は、渦流で処理されることになる。渦流処理が富をもたらすことになる。だから私たちは、強欲に『よこせ、よこせ』と叫ぶのだ。だがここで欲しいのは水だ!水!水!」

1862年の大洪水のときには、ハッチングズの雑誌はすでに廃刊していた。洪水がもたらした結果を説明したのは、イェール大学出身で、カリフォルニア州の天然資源を調査するため西部にやって来たウィリアム・ブルワーだ。「この広大な地域にあるすべての家屋、農場が無くなった」とブルワーは記している。「今回の洪水は、米国がかつて経験したことのない悲劇を生み出した」。ブルワーはやがて、カリフォルニアの人々特有の何事にも耐え抜く不屈の精神を理解し、こう述べた。「カリフォルニアの人々ほど災難に強い人々はいない。彼らは災難に慣れているのだ」。

人々は、干ばつを忘れるのと同じような無頓着さで、洪水のことも忘れ去った。洪水や干ばつを忘れてしまうことで、奇妙な回復力が備わった。採掘者 …

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