MITTRが選ぶ、2021年の「最低なテクノロジー」5選
MITテクノロジーレビュー は毎年、その年の失敗したイノベーションを選んで年末に発表している。2021年にリストアップしたのは、効かないのに承認された高価なアルツハイマー薬、宇宙へ行く億万長者、美顔フィルターなどだ。 by Antonio Regalado2022.01.04
これまでにないほど、私たちは課題解決のためにテクノロジーに依存している。テクノロジーによる課題解決は、うまくいくこともある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、新型コロナによる死亡者数を減少させた。ウイルス検査や治療薬もそうだ。
だが、この記事で取り上げるのは、2021年に成功したことではない。ここに掲載するのは、MITテクノロジーレビュー が毎年発表している、その年のうまくいかなかったイノベーションのリストである。メタバースからアルツハイマー治療薬まで、失敗したテクノロジー(あるいは必要以上にうまくいってしまったテクノロジー)、誰にも見つけてほしくなかった発見、人間の知性のダークサイドが生み出した発明品たちだ。
1. バイオジェンのアルツハイマー病治療薬
最良な薬とは、安価で安全、かつ効果のある薬だ。骨をギブスで固定したり、虫歯を治療したり、1ドルのポリオワクチンを投与したりすることを思い浮かべてほしい。2021年の最悪の薬は、まさにその逆である。「アデュカヌマブ(Aduhelm)」は、6月に米国で発売されたアルツハイマー病治療薬であり、その価格は年間5万6400ドルにものぼる。にもかかわらず、アルツハイマー病患者に効果があるという証拠は少なく、一方で重篤な脳腫脹のリスクがある。
バイオジェン(Biogen)が販売するアデュカヌマブは、脳内のプラークに付着する抗体医薬である。大規模なヒト臨床試験で失敗し、アルツハイマー病患者に対する具体的な有効性は確認されなかった。しかし、同社と米国食品医薬局(FDA)は、FDAの諮問委員会の専門家らの反対を押し切り、同治療薬を6月に承認することを決定。諮問委員の数人が辞任する事態となった。辞任した専門家の一人である米ハーバード大医科大学院のアーロン・ケッセルハイム教授は、同治療薬の承認決定までの一連の流れについて、「最近の米国では最悪の承認判断だろう」と述べた。
確かに、アルツハイマー病には新しい治療法が必要とされている。しかし、今回の承認は、「サロゲート(代用)マーカー」として知られる弱い種類の証拠を用いて医薬品を承認するという懸念される傾向を示している。アデュカヌマブは、認知症のマーカーである脳のプラークを測定可能な形で減少させることから、FDAはアルツハイマー病患者に効果をもたらす「合理的な可能性」があるとの決定を下した。このような推測における問題点は、プラークが病気の原因なのか、それとも症状の一つなのかが分かっていないということだ。
20年ぶりのアルツハイマー病の新薬であるアデュカヌマブは、すでに大失敗に終わっている。同治療薬が投与されている患者は少なく、売上もごくわずかで、これまでに少なくとも1人が投与による脳腫脹で死亡している。承認後、バイオジェンは薬価を半分に下げ、主任研究員は突然辞任した。
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