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農家のごみを宝の山に、
BECCSの事業化に挑む
米スタートアップ
Courtesy: Mote
気候変動/エネルギー Insider Online限定
This fuel plant will use agricultural waste to combat climate change

農家のごみを宝の山に、
BECCSの事業化に挑む
米スタートアップ

米ローレンス・リバモア国立研究所の科学者たちが立ち上げたスタートアップ企業が、カリフォルニア州に新しい燃料製造プラントを計画している。農業廃棄物の山から水素を作り出して、二酸化炭素を地中に貯留する施設は商業的に成立するか。 by James Temple2022.03.09

あるスタートアップ企業が、カリフォルニア州の肥沃なセントラル・バレーに新しいタイプの燃料製造プラントを建設する計画を進めている。うまくいけばこのプラントは、二酸化炭素を継続的に捕捉して埋め立てるものになるかもしれない。

脱炭素イノベーション
この記事はマガジン「脱炭素イノベーション」に収録されています。 マガジンの紹介

ロサンゼルスに拠点を置く企業「モート(Mote)」が開発しているこの施設は、カリフォルニア州に広がるアーモンドの果樹園などの農場で出た農業廃棄物の山をバイオマスとして活用するものだ。剪定された木の枝や果肉などのごみを約815℃まで加熱。この高温でバイオマスを水素と二酸化炭素に変換する。

モートの計画では、二酸化炭素は分離して地下の塩水帯水層、またはプラント近くのすでに稼働していない石油坑井に送り込む。水素はカリフォルニア州で増えているカーボンフリーのバスやトラックの燃料として販売される。

このプロセスでは、植物から成長に伴って捕捉してきた二酸化炭素を永久的に封じ込める必要がある。そしてこのプロセスにかかる膨大な費用は、水素の販売でまかなえるはずだ。

モートは、排出された二酸化炭素を捕捉しつつバイオマスを水素に変換する史上初めての施設になると語っている。しかしこの構想は、気候変動に対処する手段の一つとして20年前に初めて提唱され、二酸化炭素回収・貯留付きバイオエネルギー(ベックス、BECCS:Bioenergy with Carbon Capture and Storage)として知られるコンセプトを商業化しようとする、近年急速に増えている試みの一つだ。

こうしたプロセスにより、大気中の温室効果ガスを時間をかけて除去し、さらに石油燃料に代わってCO2の排出が少ない、あるいはまったくない燃料を提供できる。ただし、このプロセスをコストを抑えて実現し、また大量の二酸化炭素を安定して吸収する方法については大きな課題がある。

カリフォルニア大学バークレー校で二酸化炭素除去研究室を運営するダン・サンチェスによると、モートが利用しようとしているプロセスは「バイオマスガス化」と呼ばれ、技術的に困難でコストが高いという。廃棄物の慎重な下処理と、排出されたガスの清浄化が必要になるのだ。さらに各所に散らばった農場や森から燃料を集めるのも煩雑でコストがかかる。

加えて同社の長期的な展望は、以下の悪条件から制約を受ける可能性がある。産出するガスの輸送や貯蔵のためのインフラが整っていないこと、製造を予定している水素燃料がコスト高であることから需要が限定的であること——の2つだ。

それでもモートのプラントは、BECCSへの特に効果的なアプローチといえるかもしれない。他のタイプのプラントで製造される燃料には、最終的にある程度の量の二酸化炭素が戻されるのに対し、モートのプラントで製造される燃料は二酸化炭素を一切含まないからだ。

モートの最高責任者であるマック・ケネディによると、この施設は低炭素燃料に対する州の補助金や、二酸化炭素貯留に関する米国政府の税額控除を活用することで、数年以内に黒字化できる可能性があるという。ケネディは将来的にカリフォルニア州内外にいくつものプラントを建造し、森林火災の後処理や予防のために撤去された木々などの原料を使用することも考えている。

難しい問題

BECCSは定義のあいまいな技術で、木くず、スイッチグラス(雑草)、都市ごみを使用し、車やトラック、飛行機の動力源となる電気、エタノール、またはいわゆる合成燃料を産出する施設が含まれる。

危機的水準の温暖化を避けるには、膨大な量の温室効果ガスを大気中から吸い出すしかないということが気候モデルによって明らかになるにつれ、BECCSのコンセプトは研究や政策議論において急速に注目されてきた。

植物や木々は温室効果ガスの吸収に長けているものの、枯れたり腐ったり、あるいは焼却されることで、吸収された二酸化炭素の多くが空気中に戻される。ローレンス・リバモア国立研究所で二酸化炭素削減イニシアチブを率いるロジャー・エインズによると、さまざまなBECCSの枠組みが「大気中から二酸化炭素を、確実に、永久的に取り除く」ことを約束しているという。

BECCSのプロセスは、少なくとも取り除いた以上の温室効果ガスを発生させない「カーボンニュートラル」を実現できると期待されており、中には排出量よりもはるかに多くの二酸化炭素を除去する「ネガティブエミッション」を実現すると語る人もいる。

2018年、国連の気候パネルは、産業革命前の水準からの気温上昇を1.5℃に抑えるために、2050年までにBECCSを通じて二酸化炭素を80億トン程度取り除く必要があるだろうと結論付けた。BECCSによる二酸化炭素削減効果の概算には非常に幅があり、エナジー・フューチャーズ・イニシアチブ(Energy Futures Initiative)が1月に公表した科学文献レビューでは、世界全体で21世紀半ばまでに年間10億トンから150億トンになると見積もられる。

コスト概算は、採用するテクノロジーや原料、産出量により幅がある。しかし、オークリッジ国立研究所が実施した2020年の研究によると、バイオマスを使用して2億トン近くの二酸化炭素を捕捉し、永久的に貯蔵するためのコストは、米国では1トンあたり62ドルから137ドルにのぼる。これには産出される製品による売上高も含まれ、プラントで発電される電力を販売することが想定されていた。

このコスト水準は、空気中から二酸化炭素を削減する手法としてよく知られている別の技術、直接空気回収(DAC)に比べると非常に安い。直接空気回収のコストは1トン当たり600ドルを超える。しかし1トン当たり60ドルという安さとはいえ、BECCSはそれ単体では利益を出すことができない。

つまり現在のところ、BECCSの運営は主に政府の補助金に依存することになる。「BECCSや、ネガティブエミッションを実現する他の二酸化炭素吸収戦略には余分なコストがかかるため、業界の成長のためには何らかの形で補償される必要があります」。オークリッジ国立研究所で前述の研究論文の著者の1人である天然資源経済学者のマシュー・ランゴルズは、電子メールによる取材にこう回答した。

また、仮にBECCSが広く普及した場合、燃料の原料として農業廃棄物以外の植物まで使うようになり、食糧生産の費用が高額になるのではないか、との懸念を示す専門家もい …

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