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子どもを襲う「ロング・コビッド」今取り組むべきことは?
Carsten Koall/Getty Images
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A battle is raging over long covid in children

子どもを襲う「ロング・コビッド」今取り組むべきことは?

新型コロナウイルス感染症の影響を受けているのは大人だけではない。重症化しづらいとされる子どもたちもまた、後遺症と見られる疾患に苦しんでいる。今できることは何だろうか。 by Jessica Hamzelou2022.04.14

ジャスミンは昨年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかるまで、ダンスや水泳、体操が大好きな、目立って活発な10歳の女の子だった。「いつも逆立ちしては、ひっくり返っていました」。母親のビニタ・ケーンは言う。ケーンは英国マンチェスター大学病院に勤務する呼吸器内科医でもある。症状は軽症だったが、倦怠感を覚える後遺症が長期化し、学校に通えなくなってしまった。現在11歳のジャスミンは、以前の活発さは影を潜め、車いす生活を送っている。

ジャスミンは新型コロナウイルス感染症の後遺症(ロング・コビッド)を抱える子どもの1人だ。後遺症の子どもが何人いるかははっきりしていない。子どもの後遺症の症状は人によって大きな違いがあるが、ジャスミンは定期的な発熱、喉の痛み、手足の衰えと痛み、めまい、倦怠感に悩まされている。後遺症を抱える子どもの人数が分からないだけでなく、どの症状が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に起因するのか、どの症状がパンデミックで間接的に生じたのかも分かっていない。科学者たちの間にはまだ、子どもたちの後遺症の意味についてさえ共通の見解がない。

臨床医と疫学者の意見は対立しているが、この問題は単なる学術上の論争にとどまらない。理解が進んでいないということは、潜在的に数百万人もいるかもしれない病気の子どもが、必要な治療を受けていないということなのだ。ケーン医師は「子どもたちへの支援、理解、研究、治療が本当に不足しています」と言う。

ことの重大さの判断

世界保健機関(WHO)は成人の新型コロナウイルス感染症の後遺症を、新型コロナウイルスに感染した人に見られ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないものであり、通常は新型コロナウイルス感染症の発症から3カ月経った時点でも見られる、と定義している。症状には一般的に、倦怠感、思考力や記憶力の低下、息切れなどがある。

適切な定義があるということは、診断ができるということだ。新型コロナウイルス感染症の後遺症は「障害を持つ米国人法(ADA)」において2021年7月から潜在的な障害として認識されており、後遺症の影響を受ける人を差別から保護する必要がある。現在のところ、子どもに関する後遺症の合意された定義はない。

医師や科学者の間で最も活発に議論が交わされているテーマの1つは、子どもの後遺症が実際どれほど重大な問題なのかだ。新型コロナの子どもの後遺症の有病率は、研究の規模や対象者、症状の測定補法によって1.8%から67%と推定値に大きな幅があるからだ。その結果、一生を左右するかもしれない未知の症状群から子どもを守るように親たちに警告する研究者もいれば、リスクが誇張されていると言う研究者もいる。

この議論には、大規模かつ厳密な研究が不足している。

「論文の中には、とてもひどいものもあります」とテキサス州にあるヒューストン・メソジスト研究所(Houston Methodist Research Institute)のソニア・ビラボル助教授は言う。彼女は同僚たちとこれまでに発表されたすべての研究を分析して、子どもの後遺症の有病率を推定しようとした。

ビラボル助教授は、多くの子どもたちは無症状か軽症であるため、新型コロナウイルス感染症を引き越す新型コロナウイルスの検査を受けていないと話す。中には、発症していないがウイルスには感染していた子どもがいたかもしれない。彼女のチームの分析によれば、感染した子どもの約25%は4週間後には少なくとも1つの症状を発症する可能性があるという。

ロンドンにあるユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)グレート・オーモンド・ストリート小児健康研究所(Great Ormond Street Institute of Child Health)のテレンス・ステファンソン教授は、子どもの後遺症に関する高い評価を受けている研究に携わっている。この研究チームは、新型コロナウイルスの検査で陽性または陰性だった、英国の11歳から17歳までのティーンエイジャー数千人の経過観察をしている。彼らが発表した最新の研究結果では、陽性または陰性と判定された子どもたちの間で、後遺症とされる症状の有病率にほとんど差ががないことが明らかになった。陽性のグループは3分の2、陰性のグループでは半分強であった。両方のグループで似たような症状があり、特に頭痛と倦怠感がどちらでもよく見られた。

これは何を意味するのだろうか? 誰に尋ねるかによって見解は異なってくる。共同研究者の英国公衆衛生庁(PHE)の疫学者でもある小児科医のシャメズ・ラダニは、後遺症が子どもに影響を与える可能性がほとんどないという研究結果を、親たちに伝えて安心させるべきだと話す。

ラダニ医師は、スマートフォン・アプリのユーザーから収集したデータについても指摘している。2020年3月、健康科学企業のゾエ(ZOE)とキングス・カレッジ・ロンドンは共同で「コビット・シンプトム・スタディ(COVID Symptom Study:新型コロナウイルス感染症症状調査)」アプリを発表し、数十万人の協力者から毎日の症状報告を収集してきた。1734人の子どもの親からの報告では、新型コロナウイルスに感染した子どものうち、発症から28日経ってもまだ症状があるのはわずか4%だった。

この研究の論文共 …

新型コロナウイルス感染症の影響を受けているのは大人だけではない。重症化しづらいとされる子どもたちもまた、後遺症と見られる疾患に苦しんでいる。今できることは何だろうか。
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