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暗号通貨で新競争時代を迎えた「お金」のイノベーション史
Lauren Simkin Berke
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Money is about to enter a new era of competition

暗号通貨で新競争時代を迎えた「お金」のイノベーション史

デジタル・テクノロジーは、お金の性質を変え、人々とお金との関係を変え、一部の国の経済管理能力を変えるかもしれない。それが将来、人類全体にとって幸福なのか、不平等をさらに悪化させるのかはまだ分からない。 by Eswar Prasad2022.05.16

貨幣は、人類が生み出したもっとも目覚ましいイノベーションの1つだ。貨幣のおかげで、地理的な距離を越え、お互いよく知らない人々の間でも、お互いを信頼する必要もなく、商品やサービスを交換できるのだ。貨幣はまた、富や資源の経時的な移譲にも利用できる。貨幣がなければ、貿易や商取引、つまり人間の経済活動は、時間的にも空間的にも大きく制約されてしまうだろう。

貨幣を発行する特権は、経済力と同じ意味を持つ。そのために歴史上、国内外での通貨競争が幾度もなく繰り返されてきた。初めて紙幣が発行された中国では、商人と地方政府が発行する通貨が何世紀にもわたって競争してきた。実際、中国では20世紀前半まで、政府系銀行と民間銀行の発行する紙幣が併存していた。

最終的に政府系銀行と民間銀行の競争に終止符を打ったのは、法定通貨を独占的に発行する特権を与えられ、その安定性の維持に責任を持つ中央銀行の登場だ。中央銀行への移行はスウェーデンではかなり早い時期に起こり、世界最古の中央銀行であるスウェーデン国立銀行(Riksbank)は17世紀に設立された。中国では、中華人民共和国が正式に発足する直前の1948年に中国人民銀行が設立され、競争は終わった。中央銀行の出現により、通貨競争は主に国際的な競争へと舞台を移し、通貨間の相対的な価値は、法定通貨を発行する中央銀行の評判と安定性に依存することになった。

人々は今、新しい激動の時代の入り口に立っている。現金は消えつつあり、それに代わるデジタル・テクノロジーが貨幣の本質と機能そのものを変える可能性がある。現在、中央銀行が発行する貨幣は、価値尺度、交換手段、価値貯蔵の役割を同時に果たしている。しかし、一部の暗号通貨を含む特定の民間デジタルマネーが普及するにつれ、そうした役割を分離させるかもしれない。この変化は、中央銀行の貨幣の支配力を弱め、通貨競争の新しい波を引き起こし、多くの国々、特に経済規模の小さい国々に永続的な影響を与えるかもしれない。

古代社会では、貝殻、ビーズ、石などがお金として使われていた。7世紀に中国で登場した最初の紙幣は、評判の良い商人が発行した預かり証だった。コモディティや貴金属を貯蔵してその価値の裏付けとした。13世紀には、フビライ・ハン(元の初代皇帝)が世界で初めて裏付けのない紙幣を発行した。この紙幣の価値が認められたのは、単にフビライが、すべての領民にこの紙幣を受け入れることを命令し、違反した者は死罪としたからだ。

しかし、フビライの後継者たちは紙幣の発行・管理について、フビライほど規律が取れていなかった。フビライ以降の政府は、中国やその他の国においても、政府支出を賄うために紙幣を乱発する誘惑に負けてしまったのだ。このような抑制に欠けた行為は通常、インフレの進行やハイパーインフレを引き起こし、その結果、同じ金額のお金で買えるモノやサービスの量が激減することになる。この原則は、現代にも当てはまる。今日、中央銀行券が広く受け入れられるのは、中央銀行に対する信頼があるからだが、この信頼は政府の規律ある政策によって維持されなければならない。

しかし、多くの人にとって、今や現金は時代遅れに感じるものだ。スマートフォンで簡単に決済ができるようになり、物理的なお金を扱うことは少なくなってきている。米国やスウェーデンなどの裕福な国でも、インドやケニアなどの貧しい国でも、基本的な買い物をするための支払い方法でさえ、わずかここ数年間で変化している。そして、不平等はさらに悪化するかもしれない。なぜなら現金がなくなれば、高齢者や貧困層など、技術的に不利な立場にある人々の権利が奪われる可能性があるからだ。ただ実際には、多くの国で携帯電話の普及率がほぼ飽和状態にある。またデジタルマネーは、正しく導入されれば、正規の銀行システムを使えない家庭に対する、金融包摂(誰もが金融サービスを利用でき、サービスを受けられるようにする取り組み)の鍵となる大きな潜在力を秘めている。

現金にはまだ使い道がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、非接触型決済が普及したにも関わらず、米国を含む主要国では現金需要が急増した。おそらく、人々が現金を安全な貯蓄形態と見なしたためだろう。米国の多くの州では、現金以外では支払えない、あるいは支払いたくない人々を保護するために、現金を支払手段として認めるよう定めた法律が制定されている。しかし、消費者、企業、政府は一般的に、新しいテクノロジーによって現金より安価で便利になった、デジタル決済への移行を歓迎している。

ただし、かつて最も重要なお金の形態として高い評価を受けていた物理的な現金の衰退は、急速に変化する金融情勢における小さな1つの事象に過ぎない。変化を引き起こす大きな要因の1つは、暗号通貨の台頭だ。暗号通貨は、貨幣と金融に関する長年の既成概念を揺るがす。

その発端となった暗号通貨のビットコインは、お金の未来において、あまり大きな役割を担っていないかもしれない。

ビットコインは、中央銀行や金融機関のような信頼できる第三者の介入なしに、人々が偽名で(実在の身分証ではなく、デジタルIDのみを使用して)取引が完了できるように設計されている。つまり、コンピューターさえあれば、クレジットカードや銀行口座は不要で、誰でも取引ができる。コイ …

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