ユナイテッド航空、人工微生物で燃料を生産する新興企業に出資
ユナイテッド航空は、人工微生物を使ってジェット燃料を生産するスタートアップに出資している。微生物を使った燃料作りは以前にも盛り上がったが、商業的には失敗に終わった。遺伝子工学の進歩により、今回は成功するかもしれない。 by Casey Crownhart2022.04.25
遺伝子組み換えの微生物と光、そして二酸化炭素を利用して、石油関連製品に代わるものを作ろうとしているスタートアップ企業が、世界最大級の航空会社ユナイテッド航空の目に留まった。
航空業界が排出する二酸化炭素は、世界の二酸化炭素排出量の約3%を占め、2019年にはほぼ1ギガトンに達した。この数字は増え続けており、解決策はほとんどない。飛行機以外の運輸方法においては、例えば自動車の場合は電池(場合によっては水素)などの新しい選択肢があるが、飛行機のテクノロジーは再開発するのが難しい。
バクテリアによって作られる安価な燃料は、航空機の二酸化炭素排出量を削減し、気候変動の影響を最小限に抑えることができるかもしれない。微生物燃料は以前にも試みられたことがあるが、商業的な成功には至らなかった。しかし、遺伝子工学の進歩と、より寛大な気候変動対策融資によって、新たなベンチャー企業が異なる結果を得られるかもしれない。
ユナイテッド航空は、微生物によるジェット燃料の生産を開発しているセンビタ・ファクトリー(Cemvita Factory)に出資している。これは、ユナイテッド航空による代替燃料へのいくつかの取り組みの1つである。ユナイテッド航空のベンチャーキャピタル部門であるユナイテッド・エアラインズ・ベンチャーズのアンドリュー・チャン部長は、「現時点では、液体燃料以外の選択肢はないと考えています」と言う。
センビタは、光と二酸化炭素を利用して成長するシアノバクテリアと呼ばれる光合成微生物を主な研究対象としている。同社は遺伝子操作によって、目的の化学物質(今回の場合はジェット燃料の成分)を生産するシアノバクテリアを作り出している。
センビタのロジャー・ハリスCMO(最高商務責任者)によると、詳細はまだ決まっていないが、ユナイテッド航空の資金を活用して実験室規模のテクノロジーを開発し、商業化する予定だという。センビタは、この微生物を利用して、プラスチックの構成要素であるエチレンを生成する研究にも取り組んでいる。
センビタのであるモジ・カリミCEO(最高経営責任者)は、微生物が二酸化炭素を消費していることから、同社の燃料はカーボンニュートラルに近づく可能性があると言う。燃料を燃やすと二酸化炭素を排出するが、燃料を作るために取り込んだ二酸化炭素によって部分的に相殺されるというわけだ。
微生物が必要とする光については、おそらくセンビタは反応炉内で人工光を使うことになるだろうとハリスは言う。太陽光は無料で手に入るが、太陽光に頼ると製造工場の建設方法や場所に制約が生じてしまう。
人工微生物を使って燃料を作ろうとした企業は、センビタが初めてではない。2005年に設立されたLS9や2007年に設立されたジュール・アンリミテッド(Joule Unlimited)といった企業は、バイオ燃料ブームの中で大規模な投資と熱狂を獲得した。だが結局、これらの取り組みのほとんどは中止されるか、燃料から離れていった。2014年にLS9は売却され、2017年にジュール社は閉鎖された。
ジュール・アンリミテッドとLS9の共同創業者で、現在はフラッグシップ・パイオニア(Flagship Pioneering)のバイオテクノロジー投資家であるデビッド・ベリーは、遺伝子工学のツールは劇的に進歩した現在、微生物燃料企業は別の世界に直面しているかもしれないと言う。今日の研究者は、はるかに速く遺伝子を見つけて検査することができ、その遺伝子を微生物の遺伝物質に組み込む手法もより精密になった。
その一方で、商業的な課題も残っている。ジュールは結局、原油価格が下落したときに、大規模な実証施設を建設するための資金を集めるのに苦労した、とベリーは言う。今日の投資家は、長期的なプロジェクトに投資することに前向きかもしれないが、タイミング悪く不況になれば、やはり問題が生じる。
センビタの燃料は、他のスタートアップ企業が残したバイオ燃料が散乱する長い道のりを歩むことになる。ジェット燃料市場のごく一部を獲得するだけでも、莫大な資金と時間が必要になるだろう。しかし、ユナイテッド航空の支援により、センビタはようやく軌道に乗ることを期待している。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。