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新型コロナ治療にアンチエイジング医薬品、その効果は?
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Anti-aging drugs are being tested as a way to treat covid

新型コロナ治療にアンチエイジング医薬品、その効果は?

新型コロナウイルス感染症で死亡するリスクが高いのは高齢者だ。そこで、免疫系を若返らせたり、老化細胞を除去したりするアンチエイジング医薬品を使った治療法が試されている。 by Jessica Hamzelou2022.05.23

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で死亡する確率は、高齢者ほど高くなる。理由の一つとして、老化した免疫系にとって、感染症への対応と感染後の回復が難しいことがある。ならば体を若返らせる薬を試してみてはどうだろうか? この大胆なアイデアが、現在世界中で臨床試験中である。臨床試験では、体の老化による影響を逆転させ、免疫系を若返らせ、老化して消耗した細胞を除去する医薬品が試されている。

「アンチエイジング」という言葉の使用を避ける科学者もいる。この言葉はまがい物の薬を想起させるからだ。しかし、ここで言うアンチエイジング医薬品は、特に老化生物学を対象としたものである。高齢化した体が感染症に対抗するのを助けるためにこのような薬を利用することは直観的に理解できる。アンチエイジング医薬品は免疫系が衰弱したどのような人であっても、それが老化によるものでも、幼少期の病気によるものでも、慢性疾患によるものでも、助けられる可能性がある。

新型コロナウイルス感染症を治療するための新しい方法が必要であることは確かだ。新型コロナウイルス感染症はずっと無くならないかもしれない。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫が高水準にある国であっても、この病気によって入院し、亡くなっている人たちがいる。しかし、これまでに見つかった有効な治療法はまだ数えるほどしかない。抗ウイルス薬、抗体、ステロイド医薬品などだ。これらは将来の変異株に対しては有効でないかもしれない。

老化は、新型コロナウイルス感染症で重症化する可能性を高めるだけでなく、症状の長期化のリスクも高める。もしアンチエイジング医薬品に効果があるならば、新型コロナウイルス感染症の治療にも役立つ可能性があると期待する理由だ。

若い防御態勢

加齢はさまざまな要因で免疫系を衰えさせる。高齢者はインフルエンザなどの感染症で死亡する可能性が高く、老化した免疫系はワクチンにも強く反応しない傾向がある。一部の免疫細胞は弱くなり、有害なウイルスやバクテリアを殺す力が弱くなるようだ。また、感染していない時にも高いレベルの有害な炎症が持続しやすくなり、体の組織を傷つけてしまうような免疫細胞も出てくるようだ。

このような免疫系の劣化は、生物学的に老化している若い人、つまり同年齢の他の人よりも体の機能が高齢者に近い人にも起こると考えられている。新型コロナウイルスに対してより脆弱になる状態、例えば糖尿病や肺・心臓疾患は、生物学的年齢が高いことと関連しているようだ。そしてパンデミックが始まる 10年前に、想定よりも生物学的年齢が高かった人は、感染した時に死亡する可能性が高かった。

英国バーミンガム大学で加齢が免疫系に与える影響を研究しているジャネット・ロード教授は、高齢者で異常が見られるように思われる、ひとつの免疫細胞に注目している。好中球だ。好中球は普段は血液中に浮遊しており、感染が起こるとその場所に一直線で向かう。高齢者の場合、好中球は間違った方向に向かい、「ミミズが土を掘り返すように」組織を突き破って大きな損傷を与えることがあるという。「高齢者が感染症にかかるとより重症化する原因はこれだと考えられます」とロード教授は言う。

ロード教授の研究チームは、この問題を解決し、好中球がより効率的に感染を狙えるようにする方法を研究してきた。同チームは、免疫系の働きに影響を与えるある酵素の活動を阻害すると、実験室で好中球が若い状態に戻るらしいことを発見した。興味深いことにロード教授は、スタチン(コレステロールを下げるためによく処方される医薬品)にも同様の効果がありそうなことを発見した。

数年前に、ロード教授の研究チームは、肺炎で入院した 68歳から 90歳の人々を対象に、スタチンの小規模な臨床試験をした。参加者の半分にはシンバスタチンが 1日1回、7日間与えられた。血液検査の結果、スタチンを投与した人々の好中球は、若い人々から採取した細胞にずっと似た働きをし、肺炎の症状が軽いことが分かった。偽薬を服用した人の 20%が試験後 30日以内に死亡したのに対し、スタチンを服用した人はわずか6%であった。

この方法は、もし上手くいけば、高齢者の免疫系が新型コロナウイルス感染症に対応するのを助けるのにも有効かもしれない。ロード教授は、スタチンの使用と新型コロナウイルス感染症に対する生存率との間に関連があることを示す、中国からの証拠を指摘する。武漢大学のシャオ・ジン・チャン准教授らの研究チームは、湖北省でコロナによって入院した 1万3981人の結果を比較した。そのうち 1219人はスタチンを服用していた。スタチンを服用した人は死亡する可能性が低く、順調に回復する可能性が高いことがわ …

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