KADOKAWA Technology Review
×
10/9「生成AIと法規制のこの1年」開催!申込み受付中
ウェイモ、クルーズに挑む
「AV2.0」ベンチャーは
自律自動車の突破口となるか
Jamiel Law
スマートシティ Insider Online限定
The big new idea for making self-driving cars that can go anywhere

ウェイモ、クルーズに挑む
「AV2.0」ベンチャーは
自律自動車の突破口となるか

無人乗用車の開発にはこれまでに膨大な費用と時間が投じられてきたが、実用化は遠い状況だ。最近になり、現在主流となっている手法とは異なるアプローチで、無人乗用車の実用化に取り組むスタートアップが登場し始めた。 by Will Douglas Heaven2022.05.30

4年前、英国の田舎にある小さな道路で、車の中に座っていたアレックス・ケンダルはハンドルから手を離した。数台の安価なカメラと巨大なニューラル・ネットワークを搭載したその車は、道路の端に向かって進んだ。すると、ケンダルは数秒間ハンドルを握り、進行方向を修正した。車が再び道を逸れたときも、ケンダルはそれを修正した。ケンダルによると、その車は20分足らずで自力で道路を走行できるようになったという。

世界を変えるU35イノベーター2022年版
この記事はマガジン「世界を変えるU35イノベーター2022年版」に収録されています。 マガジンの紹介

試行錯誤の末にニューラル・ネットワークを訓練する「強化学習」と呼ばれる人工知能(AI)の手法を利用し、実際の道路でゼロから車に運転を教えたのは、これが初めてのことだった。この試みは新たな道へと進む小さな一歩であった。新世代のスタートアップが、日常生活で無人乗用車を実現するための突破口になる可能性があると考える道である。

https://www.youtube.com/watch?v=eRwTbRtnT1I

 

強化学習は、超人的な腕前で囲碁やビデオゲームをプレイできるコンピューター・プログラムの作成において大きな成功を収めてきた。今では核融合炉の制御にまで利用されている。しかし、運転は複雑すぎる技術だと考えられていた。「私たちは笑いものにされました」と、英国に拠点を置く無人乗用車のスタートアップ、ウェイヴ(Wayve)の創業者兼最高経営責任者(CEO)であるケンダルは語る。

ウェイヴは現在、ラッシュアワーの時間帯のロンドンで自社の自動車を訓練している。同社は昨年、ロンドンの街中で訓練した車を、追加訓練なしで、ケンブリッジ(英国)、コヴェントリー、リーズ、リヴァプール、マンチェスターの5都市で走行させられることを示した。それは、クルーズ(Cruise)やウェイモ(Waymo)といった自律走行車業界のリーダー企業がなかなか実現できずにいたことであった。ウェイヴは5月にマイクロソフトと提携し、同社のニューラル・ネットワークをマイクロソフトのクラウドサービスであるアジュール(Azure)のスーパーコンピューター上で訓練すると発表した。

https://www.youtube.com/watch?v=GUwk7LIe1ug

投資家たちはこれまでに、自律走行する自動車の開発に1000億ドル以上をつぎ込んできた。これは、米国航空宇宙局(NASA)が人類を月に到達させるために費やした費用の3分の1にあたる額だ。しかし、15年の開発期間と途方もない距離の走行試験にもかかわらず、自動運転技術は試験段階から進展していない。「膨大な額の費用が使われたのに、非常に限定された成果しか得られていません」とケンダルCEOは言う。

ウェイヴをはじめ、米国のワービ(Waabi)やゴースト(Ghost)、イスラエルのオートブレインズ(Autobrains)といった無人乗用車のスタートアップがAIに全力を注いでいるのは、それが理由だ。「自動走行車(AV)2.0」と自称するこれらの企業は、よりスマートかつ安価な技術で、現在の市場をリードする企業を追い抜けると考えている。

誇大広告マシン

ウェイヴは、100の異なる都市に無人乗用車を配備する最初の企業になることを望んでいる。しかし、それは自身が生み出した理想を長年にわたり信奉し続けてきた業界による、さらなる誇大広告にすぎないのだろうか。

「この分野では過剰な宣伝があまりにも多すぎます」と、ウーバーで自動運転チームを4年間率いた後、2021年にワービを設立したラケル・ウルタスンCEOは語る。「そもそも、この課題がいかに難しいかという認識も不足しています。私は自動運転で主流となっている手法では、自律走行車を安全に利用するために必要な水準に到達できないと思います」。

現在主流となっている手法の起源は、少なくとも2007年、使われなくなった米空軍基地内の小さな模擬市街地内で、6つの研究者チームがロボット車両を走行させた「国防先端研究計画局(DARPA)アーバン・チャレンジ」まで遡る。

ウェイモやクルーズは、このイベントでの成功を受 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
  2. Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
  3. Space travel is dangerous. Could genetic testing and gene editing make it safer? 遺伝子編集が出発の条件に? 知られざる宇宙旅行のリスク
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る