KADOKAWA Technology Review
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アメリカ経済は
AIとロボットで
再び偉大になるか?
DELCAN & COMPANY
カバーストーリー Insider Online限定
“The Relentless Pace of Automation”

アメリカ経済は
AIとロボットで
再び偉大になるか?

トランプ大統領の得票と強く相関しているのは、失業率よりも定型仕事の割合であることがわかった。大統領選挙の奥底にあった怒りの正体は、AIと自動化で人間らしい仕事を奪われた人の怨嗟だったのかもしれない。 by David Rotman2017.02.14

昨年10月、ウーバーは自社の自動運転トラックでビールを配送した。バドワイザーの積み荷をコリンズから州をまたいでコロラドスプリングスまで、200km運んだのだ。トラックには人間がひとり「同乗」したが、ほとんどの時間を睡眠用スペースで自動運転システムを監視して過ごした(ウーバーがピッツバーグで実施する無人自動車サービスを発表した数週間後の実験)。ウーバーが先日買収したオットーの開発チームによる自動運転トラックには、目覚ましい技術上の成果が反映されている。また、このトラックは迫り来る経済の転換の流れも象徴しており、政治的にも非常に重要だ。

無人トラックや自動車が道路上で普及までにどれだけの期間がかかるかは不明だ。現状では、消極的にしか運転に関わらないとはいえ、いわゆる「自動運転車」にはアルバイト的な意味でドライバーが必要だ。だが、昨年12月にオバマ政権が発表したレポートの付属書類Aでは、何百万もの雇用が失われる可能性が示されていた。オバマ大統領の経済・科学分野の最高顧問が作成した「Artificial Intelligence, Automation, and the Economy (人工知能、自動化ならびに経済)」は、急速に発展するAIや自動化テクノロジーが雇用に与える影響を明敏に考察しており、この大きな変化への対応についての提案が長々と書かれている。

自動運転車によって、米国の220万~310万人分の既存の雇用を脅かすか、代替する可能性があると予測されている。そのうち170万人は、幹線道路をひっきりなしに走行する大型トラックのドライバーだ。長距離ドライバーは「現在、同程度の学歴の労働市場で他よりも賃金が優遇されている」といわれている。つまり、運転の自動化で最も割を食うのは、トラック・ドライバーなのだ。

発表の半年前にあった大統領選に思いを巡らせずにホワイトハウスのレポートは読めない。長く「ラストベルト(赤さび地帯)」と呼ばれた一帯の中心に位置する中西部の数州により、大統領選の勝敗は決した。さらに多くの米国の有権者にとって重要な問題だったのは経済、より正確には、相対的に賃金の高い雇用の不足だった。選挙運動で使われた論法では、失業の大きな原因として、グローバル化や製造施設の海外移転に批判の矛先が向けられた。「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」はある意味、米国内で繁栄していた中産階級が鉄鋼等の製品の製造に関わっていた時代を思う嘆きだった。

だが、グローバル化以上に中産階級を没落させ、中西部で製造業の雇用を減少させた点で咎められるべきは自動化だ、と多くの経済学者が議論している。実際、シカゴの会議場を埋めた数千人を前にしたオバマ大統領の退任演説では「経済の歪みの次の波は海外から来るのではない。多くの中産階級の健全な雇用を衰退させるのは、容赦ない自動化の波によって起きる」と述べたのだ。

ホワイトハウスのレポートでは、特にAIの現在の傾向に関して、2010年頃から始まったと記述している。当時は、機械学習の進歩やビッグデータ、高度な計算能力が利用しやすくなったことで、コンピューターにかつてない機能がもたらされた時期だ。正確に画像を認識する機能もこの時期に実用化された。レポートでは、AIや自動化の導入が増えることで新たなタイプの雇用が生まれ、多くの事業における効率が改善され、経済成長が促進される可能性が示されている。しかし、このレポートでは負の効果も指摘されている。雇用の破壊と所得格差の拡大だ。少なくとも現状では「教養の高い労働者と比較して教養の低い労働者が自動化により代替される傾向が強い」。レポートでは、これまでは自動化が高度な技能のある労働者の職まではあまり奪わなかった点に触れながら「人間が比較優位性を維持できる技能は、時と共に、AIや新たなテクノロジーが高度化するのに伴い、侵食される可能性が高い」と記している。

数年前から、労働経済学者は新たなデジタル・テクノロジーによる雇用への重大な影響を指摘しており、ホワイトハウスのレポートでは、判明した多くの成果を律儀に羅列している。レポートが指摘するとおり、喫緊の問題はロボットによって人間の労働者が不要になる日の到来を早めることではない。仕事の消滅のシナリオは推論の域を出ず、レポートでもほとんど留意されていない。むしろ、レポートが取り扱っているのは、現在進行中の経済における変化の詳細だ。変化とは、求人される職種の急激な変化のことだ。この点で、レポートは非常にタイミングがよい。自動化と並んで急速に重要度が高まっているAIが、雇用にどのような影響を与えるか、さらには、テクノロジーによって淘汰された労働者や、新たな雇用機会に適合できない労働者の窮状に対処するための教育・労働政策を今こそ採用すべきである理由の2点をワシントンの政策担当者の議題に上げることが、レポートの狙いなのだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アシモグル教授(経済学)によれば、政治指導者が自動化による雇用の変化に対処する「準備がまったくできていない」ことは「紛れもなく明らかである」 …

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