「招かざる客」
ビットコイン採掘業者が
小さな町に残した爪痕
暗号通貨の採掘(マイニング)は地域社会に大きな影響を与えている。採掘業者は電気代が低い地域を狙って進出し、大量のサーバーを稼働させることで暗号通貨を採掘し続ける。暗号通貨採掘業者に翻弄された人口3万人の米国の小さな町を訪れた。 by Lois Parshley2022.06.23
もしも2017年にあなたがビットコインという比較的新しいデジタル通貨を購入していたら、今ごろは億万長者になっていただろう。だが、ごく一部の人が暗号通貨で大金を得る一方で、地域社会はその代償を払ってきた。
暗号通貨はコンピューターが複雑な数式を解くことによって生成される。2016年にビットメインという中国企業が特定用途向け回路(ASIC)を搭載して必要な計算をはるかに高速で処理できる機械を発売して以来、計算の規模は急速に拡大した。ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校のコリン・リード教授(経済学・金融学)は、「ほぼ一夜にして暗号通貨採掘(マイニング)の軍拡競争が始まりました」という。
この回路を使って大規模なビットコイン採掘場を運営するべく、人々はエネルギー価格の安い場所を求めて世界中を探し回った。暗号通貨は膨大な電力を消費することで知られている。ビットコインはトランザクション(取引)あたり1173キロワット時を消費するが、これは平均的な米国人が1カ月に使う電力量よりも多い。2020年には、世界の暗号通貨採掘の消費電力量がスイス全体の電力消費量を上回った。
米国ニューヨーク州のプラッツバーグ市(日本版注:地域の総人口はおよそ3万人)は当時、ナイアガラ電力公社による安価な水力発電のおかげで、米国内でもとりわけ電力価格の低い地域だった。人気の採掘会社コインミント(Coinmint)の子会社が、市内にあったファミリー・ダラー(米ディスカウント・チェーン)の店舗を借り受けたのもそんなときだ。市の建築検査官ジョー・マクマホンは、契約書にサインしたプリアー・リアリーからせっつかれたことを覚えている。「次の日には電気を通したいと言われました。私たちは皆不安でしたが、本当の実害にはその時は気づきませんでした」。
コインミントは建物中をサーバーで埋め尽くし、ノンストップで稼働させ始めた。それからコインミントが近くのショッピングセンターの建物も借りようとした際には、プラッツバーグ市電力課のビル・トレーシー課長は、新しいインフラ投資に14万ドルが必要だと告げた。驚いたことに、コインミントはそれでも断念しなかった。やがて同社は10メガワットを超える電力を定期的に使用するようになった。これはおよそ4000世帯分の電力に相当する。
まもなく、他の暗号通貨採掘企業もこれに続いた。ある時、進出を検討する採掘企業から、5ギガワットの電力を使えるかどうか尋ねる電話がかかってきたことがある。「こう答えましたよ。『何かの間違いではないでしょうか? ニューヨーク州の1日の電力使用量の4分の1ですよ』、と」。それから間もなく、プラッツバーグ市には毎週のように大規模な採掘企業の問い合わせが舞い込むようになった。
2018年1月には寒波がプラッツバーグを襲った。市民らは暖房を強め、スペースヒーターを使うようになった。水力発電の割当量をあっという間に超過したため、市ははるかに高い料金でよそから電力を購入せざるを得なくなった。マクマホンによると、プラッツバーグ市にある自宅の電気代が月額30~40ドルも上昇したという。「何かおかしいとはみんな感じていましたが、その原因まではわかりませんでした」。
長い冬が明けようとしてき …
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