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Data Mining Reveals the Crucial Factors That Determine When People Make Blunders データマイニングで判明
能力の高い人は間違えやすい

意志決定は状況や意志決定者の能力、決定にかけられる時間により、影響を受けるが、研究により、もっとも大きな影響があるのがどれかわかった。 by Emerging Technology from the arXiv2016.06.24

人間が現実世界で決断を下すやり方は、心理学はもちろん、社会科学、経済学等の分野でも関心が高まっている。経済や選挙の動向、紛争のきっかけや終結にもつながる。

「限定合理性」の概念は、決断に関する研究の焦点になっている。現実世界で人間が受ける制約が、意志決定の過程に決定的な役割を果たすという考え方である。人間は、意志決定の難易度、各自の決断能力、問題に費やせる時間の制約を受けている。とはいえ、どのような状況であれ、決めるときは決めなければならず、決めたことの結果は受け入れる必要がある。

このように考えると、重要な疑問が浮かんでくる。決断の制約要素は、決断の質に影響するのだろうか? 時間的なプレッシャーは、たとえば、決断能力よりも決断の質により影響を与えるだろうか?

対照実験を用意するのが難しいため、ついこの間まで、この疑問に答えるのは難しいと考えられていた。問題を研究するのに十分な方法を誰も発見せずにいたのだ。

ニューヨーク市にあるマイクロソフト研究所に所属するアシュトン・アンダーソン研究員、コーネル大学のジョン・クラインバーグ研究員、ハーバード大学のセンディール・ムライナサン研究員は、初の大規模対照実験により、決断の質が、難易度や決断者の能力、決断までの制限時間に左右されるかの研究が可能になったことを発表した。

どんな実験か? チェスだ。

「人間が決断を下す際の分析と間違いの予測に使えるモデルシステムとして、私たちはチェスを採用しました」

調査は、アマチュアによるオンラインチェスの2億試合を記録したデータベースと、グランドマスターたちによる約1億試合のデータベースに基づく。試合データベースは、試合結果によってプレイヤーが失敗したかどうかがわかり、記録により、敗者がいつミスを冒したかがわかる点で、研究に役立つ。

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データベースを使うことで、どんな要素が勝敗を決したかを客観的に判別できる。まず、プレイヤーが時間的なプレッシャーを感じていたかはログに記録されている。決断の難易度は、盤上の情勢とその込み入り具合を調べないとわからないが、研究チームは、ある場面であり得るすべての打ち手を割り出し、そのうち何割は不利な打ち手かを調べて、難易度を判定することにした。たとえば、数多くある打ち手の中で、ある一手以外はすべてがミスという形勢は、多くの打ち手の中で、ある一手だけがミス、という形勢よりも難易度が高い。

プレイヤーたちの決断能力は「イーロ」(方法を思いついたアルパド・イロにちなむ)という指数で全チェスプレイヤーが格付けされている。初心者の格付けは1000~2000、ハイアマチュアは2400、世界トップクラスのプレイヤーは2600程度のイーロ指数になる。2800以上のプレイヤーは世界中でも片手で数えるほどしかいない。対戦者同士に400ポイントの差があると、格付けの高い方のプレイヤーが圧倒的に有利とされる。

データベースに膨大な試合が記録されていたおかげで、調査対象となる2つの要素について、変動性が一定に保たれるようにデータを分け、一方は固定で、もう一方が変化するようにした。たとえば、プレイヤーが同じ時間的プレッシャーに晒されていて、盤上の形勢も同じ難易度の状態を検討すれば、勝敗を決めるのはプレイヤーの決断能力の差になる。同様に、研究チームは決断能力と時間的プレッシャーを一定に保ちつつ、盤上の形勢が異なる場合などについて分析した。

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分析結果は興味深い。研究チームによれば、決断に費やせる時間の長さはミスを誘う要因になるが、いつもではないことがわかった。確かに素早い決断はミスを誘いやすいが、10秒を超えるとミスの確率は上がらなくなる。プレイヤーが一手に10秒以上かける状況は、恐らくお手上げの状態なのだ。

決断の難易度もミスの要因になる。より難易度の高い形勢は、ミスを引き起こしやすく、優れた決断能力があれば、ミスの確率は大幅に低下する。一般的に、いいプレイヤーはいい判断をする、といえる。

しかし研究チームは、決断能力の優劣が正反対の役割を果たす、上記に反する現象も発見した。つまり決断能力の高いプレイヤーは、格下の対戦相手よりもミスを冒しやすのだ。研究チームはこの現象を「決断能力と矛盾した形勢」と呼ぶ。

大発見だ。ただし、この状況がなぜ起こるのかは不明であり、今後もっと詳細な研究が必要だ。

「決断能力と矛盾した形勢の発見は驚きでした。というのも、チェスの世界で格上のプレイヤーが格下のプレイヤーよりも多くミスを冒すという状況を普遍的に内包している、という実証済みの理由はないからです」

研究結果は応用しやすいことも重要だ。この分析により、プレイヤーがいつミスを冒しやすいか、予想できるからだ。また、要素のうち、あるひとつが、他の要素よりもはるかに強力な要因になることも重要だ。

大事なことは、決断の難易度は、プレイヤーがミスの有無を左右する、一番の要因であることだ。盤上の形勢の込み入り具合は、プレイヤーの能力や試合の残り時間よりも、プレイヤーがミスを冒すかどうかを予測する上でずっと役に立つ。

今回の発見は、研究チームが他の決断を分析する上でも参考になるかもしれない。たとえば、運転能力の高いドライバーの、難易度の高い状況での事故発生率、運転能力の低いドライバーの、安全な状況での事故発生率は、どう比べればいいだろうか。 もし決断の難易度がドライバーの能力を上回る決定的な要因なら、保険料の算出方法は変更されなければならない。一般的には「経験不足で注意散漫なドライバーを事故の主要因と考えるが、こうした人間のリスク要因と危険な道路状況の存在をどう比べるか?」と今回の研究は問いかけているのだ。

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研究チームによる決断能力とミスの矛盾する状況の発見を考慮に入れると、運転能力の高いドライバーが、能力の低いドライバーよりもミスを起こしやすい道路状況もあり得ることになる。

この研究の応用範囲は、チェスや自動車事故だけに及ばない。経済学者は、この研究が購入決定に与える意味は何だろうと考えるだろうし、選挙に関わる政治家やコンサルタントは、投票行動に関する情報の複雑性について考えるだろうし、法曹関係者は紛争解決に与える影響を考えるだろう。

熟考のために、もっと魅力的な研究と栄養を取ろう。

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