相次ぐ異常気象、今こそ米国には送電網の相互接続が必要だ
米国は、熱波、洪水、火災、暴風雨の際に必要な電力を供給できるように、つぎはぎだらけの電力システムを改善・統合する必要がある。そのための技術的な問題は大きいが、政治的なハードルはもっと高い。 by James Temple2022.08.21
7月末の数日、米国のほとんどの地域で最高気温の記録を更新した猛烈な熱波によって、電力システムに負担がかかり、国内の電力供給が脆弱な地域では停電が起こる恐れがあった。
この夏、これまでのところは電力供給が続けられているが、問題は散在しており、危機一髪という状況もあった。
最大の問題は、電力を大量に消費するエアコンの使用だ。だが、酷暑は発電所の出力を低下させ、変電所の機能を損ない、送電線をたるませる可能性がある。北米電力信頼度協議会(NERC)によると、国内の広い地域を襲った厳しい干ばつにより、水力発電による電力供給は大幅に低下している。
こうした状況が、すぐに好転する可能性は低い。NERCの報告書では、多くの送電網事業者が夏のピーク需要への対応に苦慮し、計画停電の危険があると述べられている。
気候変動による異常気象がより当たり前に、そして深刻かつ危険になっている中、照明、暖房、エアコンの稼働を維持するためには、国内の孤立し、老朽化した送電網を是が非でも改善する必要がある。これら問題の多くを軽減する明確な方法の1つは、国内の地域送電網をより緊密に統合し、より長距離の送電線でつなぎ合わせることだ。
ある地域で発電された電力をより広い地域で、より簡単に共有できれば、消費者がエアコンを一斉につけたり、気温の上昇や山火事、ハリケーンなどによって発電所や燃料供給ラインが故障したりした時に、必要な場所に電力を容易に融通できる、とリザ・リードは話す。リードはワシントンD.C.にあるシンクタンク、ニスカネン・センター(Niskanen Center)で送電を担当する研究部長を務めている。
問題は、より長距離の送電を実現したり、送電網の相互接続を構築したりする難しさが、さまざまな理由から証明されていることだ。理由としては、都市、郡、州を横断して私有地と公有地に送電線を敷設する許認可をめぐる課題と、地方自治体が地元の送電網の管理を手放すことや、連邦政府による監督・干渉の強化に対して躊躇している点などが挙げられる。
特異なテキサス州
米国内の送電網の信頼性の低さは、なにも新しい問題ではない。近年、猛暑と冬の嵐によって、電力システムの脆弱性は繰り返し露呈しており、気温が急上昇または急降下すると、数千人から数百万人が電力を利用できない状態に陥っている。
基本的な課題の1つは、現在の送電網が非常に細分化されていることだ。米国の送電網は、東部送電網(Eastern Grid)、西部送電網(Western Grid)、テキサス州送電網(ERCOT:Electric Reliability Council of Texas)という3つの主要なエリアに分かれている。一方で、東部および西部送電網には、カリフォルニア独立系統運用事業者(CAISO:California Independent System Operator)、南西地域電力プール(SPP:Southwest Power Pool)、PJM(PJM Interconnection)、ニューヨーク独立系統運用事業者(NYISO:New York Independent System Operator)をはじめ、多くの地域送電事業者が存在する。
これらの送電網は複雑なクモの巣のようなネットワークを形成して、さまざまな規制当局、規則、市場構造の下で運用されており、往々にして相互接続は制限されている。
ERCOTは特に孤立している。その理由の一端は、地元の政治家、市民、電力会社が抱く、競争の激化、他の州の規則に従う煩わしさ、連邦エネルギー規制委員会(FERC)による監督・干渉を避けたいという願望だ。一方でテキサス州は、ますます厳しくなる気候条件の中で、なぜ送電網の孤立が深刻な問題を引き起こすのか、という事例を提供していると前出のリード研究部長は話す。
テキサス州の送電網事業者は7月初め、夏の猛暑によって電力需要が急増し、供給を上回る可能性から計画停電の恐れが出てきたため、複数回にわたって消費者に節電を要請した。 弱い風(による風力発電の低下)、雲の量(が多いための太陽光発電の低下)、化石燃料発電所の停 …
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