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米EV減税「諸刃の剣」、米国産バッテリー優遇で供給は間に合うか?
FeatureChina via AP Images
EV tax credits could stall out on lack of US battery supply

米EV減税「諸刃の剣」、米国産バッテリー優遇で供給は間に合うか?

米上院が可決した大規模な気候変動対策の1つとして、電気自動車に対する税控除の拡大が盛り込まれた。米国製のバッテリーや国内調達した鉱物の使用を求めているが、税控除によるEVの需要拡大によって供給が追いつくかは不明だ。 by Casey Crownhart2022.08.09

米上院民主党は先週、気候対策の妥協案をまとめ上げ、「2022年インフレ抑制法案」を発表した。725ページに及ぶこの法案には、気候変動対策に向けた数千億ドルの拠出が盛り込まれており、可決成立すれば、米国は炭素排出量を2005年のピーク時から最大40%削減することが可能となる(日本版注:8月7日に上院で可決され、12日には下院で採決の予定)。

法案の鍵となる気候変動対策の1つが、電気自動車(EV)の普及促進を目的としたEV減税(税控除)の適用拡大だ。

この施策により、対象となる電気自動車を新車で購入した場合、購入者は7500ドルの税控除を受けられるようになる。税控除にはこれまで自動車メーカーごとに販売台数の上限が設けられており、テスラとゼネラルモーターズ(GM)はいずれも上限に達しているが、適用拡大によって再び控除対象となる。また中古車の場合は額は小さくなるものの、4000ドルの控除がある。

だが、新車が税控除の対象となるには、バッテリーとバッテリーに使われる重要鉱物の大半が米国か、自由貿易協定を結んでいる国で生産されたものである必要がある。

現在、EVのバッテリーに使われているリチウムイオン電池のほとんどは中国製だ。米国製は7%程度に過ぎない。この法案は、企業に対して米国内での採鉱とバッテリー製造の能力を引き上げるよう促す刺激策でもある。

この規制により、やがては米国内にバッテリーの盤石なサプライチェーンが構築され、製造業や鉱業でより多くの雇用が創出されることにもなるだろう。だが専門家の中には、米国企業がどれだけ迅速に対応できるかは不確かだとする声もある。資格をクリアするバッテリーやその材料となる鉱物が供給不足となれば、税控除が今後の短期的なEV販売に及ぼす影響も限定的になる恐れがある。

新たな基準のポイントは2つ。まず、リチウム、ニッケル、コバルトといった重要鉱物に関する制限だ。2023年初頭の税控除政策の導入時点で、車載用電池に使われるこれらの鉱物のうち40%が米国または自由貿易協定相手国で採掘、加工、またはリサイクルされたものでなければならないとする。この割合は経時的に増加し、2026年には80%にも達する。

バッテリーの実際の製造場所についても基準が定められており、2023年からは、構成部品の50%は北米で製造または組み立てられたものである必要がある。この割合は2029年には100%に達する。

最後に、バッテリーに関する採鉱、加工、製造のいずれかが「懸念される外国企業」によって実施されている場合、その自動車は税控除の対象から除外される。バッテリー部品に関する要件は2024年から、重要鉱物に関する要件は2025年から発効となる。

どの国がこの定義に当てはまるのか明確ではないものの、明らかにバッテリー・ビジネスにおける中国の優位性を削ぐための試みだと、ジョンズホプキンス大学のジョナス・ナーム教授(エネルギー資源環境学)は言う。

しかし、そのスケジュールは「極めて野心的」であり、この法案は、「基本的に人々が達成できないかもしれない目標を設定しています」とナーム教授は付け加える。

先週のE&Eニュースの報道によると、気候変動活動家らはすでに、自動車メーカーが新たな要件を満たすことができるかどうか懸念しているという。

バッテリーの製造は米国とヨーロッパで成長しており、GMのような国内大手自動車メーカーは最近、新たな大規模バッテリー工場建設への投資を発表している。しかし、米国が巻き返す状況にはまだほど遠い。

現在、車載用電池に使われるリチウムイオン電池の約80%が中国製だ。ベンチマーク・ミネラルズ・インテリジェンス(Benchmark Minerals Intelligence)で編集責任者を務めるヘンリー・サンダーソンによると、中国は重要鉱物を始めとする、バッテリーに使用される多くの材料のサプライチェーンも独占しているという。

電極に使われるグラファイト(黒鉛)のほとんどは中国産で、加工も中国。リチウムも、その多くはオーストラリアやチリなどで採掘されるものの、加工は中国だという。

ニッケルも、税控除の対象となることを望む自動車メーカーにとっては調達が困難になる可能性がある。ニッケルのほとんどはインドネシアで加工されており、インドネシアは米国と自由貿易協定を結んでいないからだ。

新たな鉱山を計画して開発するには7年以上かかる。つまり、鉱物の供給は一夜にして変えられるようなものではないということだ。

いずれはリサイクルによって大量の電池材料が供給される可能性はあるものの、今すぐその効果が発揮されることはあり得ないとサンダーソンは言う。現在寿命を迎えつつあるEV車の台数が、指数関数的に伸びる需要に追いつくことはないからだ。

ナーム教授は、いずれにしても、消費者側の税控除と結び付けたバッテリー要件を設定しただけでは、サプライチェーンを実際に変革するには不十分だと指摘する。生産者側の税控除や新工場建設への融資など、新たな法案に含まれる他の支援策も重要な鍵となる。

大がかりなEV税控除政策が、米国内のバッテリー製造を強化し、新たなサプライチェーンを促進する役割を果たすかもしれない。しかし、こうした変化が成長著しいEV車の販売に追いつくほど早く進むかどうかは未知数だ。そしてそれは、新法案が米国の路上を走る自動車の顔ぶれを塗り替える上でどれほどの効果を持つか、判断する材料になりそうだ。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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