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デモ写真1枚で即「アカバン」、党大会前にWeChatが過剰規制
Stephanie Arnett/MITTR
WeChat users are begging Tencent to give their accounts back after talking about a Beijing protest

デモ写真1枚で即「アカバン」、党大会前にWeChatが過剰規制

中国共産党の党大会を前に、中国政府に対する抗議活動の写真をウィーチャットに投稿した中国人ユーザーのアカウントが相次いで停止された。あまりにも厳しい措置に、ネット上では救済を求める投稿が相次いでいる。 by Zeyi Yang2022.10.23

中国で人気のソーシャルメディア・プラットフォームであるウェイボー(Weibo)では、ここ1週間、必死に「懺悔の手紙」をしたためるユーザーの姿が何百人も見られた。

「私は、最近のパンデミック防止対策が大変大きなストレスとなり、精神状態が非常に悪化しています。自制が効かなくなり、6人のチャットグループで不適切な発言をしてしまいました」。あるユーザーはこう書いている。「自らの過ちを痛感しました。テンセント(Tencent)が私に、まっさらな状態でやり直すチャンスをくれることを願っています。中国共産党と中国をがっかりさせることはしません」。メッセージは、「テンセント・カスタマーサービス」向けの特別なハッシュタグを付けて投稿されていた。

こうしたメッセージは10月13日に急増した。内容はさまざまだが、どれもテンセントが運営する巨大アプリ、ウィーチャット(WeChat)のユーザーからの緊急の嘆願だ。自らのウィーチャット・アカウントの復旧をテンセントの担当者に懇願しているのだ。ウィーチャットは、中国での暮らしにはほぼ欠かせないほど浸透している。使われたハッシュタグ自体は新しいものではなかったが、その使用件数は週の後半、つまりウィーチャットが大量のユーザーのアカウントを停止したと報じられているタイミングで急増した。これらのアカウント停止は、北京での珍しい政治抗議活動に言及したことが原因だと考えられている。

すべての始まりは、10月13日だった。中国共産党第20回全国代表大会を2日後に控えたこの日、ある抗議活動家が北京で歩道橋に複数の横断幕を掲げ、パンデミック管理対策の撤廃と民主化を求めたのだ。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査にはノー、食糧にはイエスといおう。ロックダウンにはノー、自由にはイエスと言おう」と、横断幕の一部には書かれていた。別の横断幕には、「ストライキをしよう、独裁者で国賊の習近平を追い払おう」との文言が躍っていた。

中国共産党第20回全国代表大会の直前というタイミング、そしてこの大会で前代未聞の3期目が決まると見られている中国の習近平国家主席を名指しする、極めて微妙な行動から、中国のソーシャルメディアではこの抗議活動についての言及が厳しく検閲されることになった。

ウェイボーでは、「北京」「橋」「勇敢」などの単語を含むユーザー生成コンテンツは、検索結果に表示されないようになっている。中国版のアップル・ミュージックは、「四通橋」という名前の楽曲の提供を停止した。曲名がこの抗議活動の現場となった歩道橋にちなんでいることが、提供停止の唯一の理由とみられている。

検閲はウィーチャットにも及んでいる。ウィーチャットは、世界で12億人を超えるユーザーを擁する巨大メッセージング・アプリで、ユーザーのほとんどは中国在住だ。ユーザーは、今回の抗議活動の写真を1枚、それもプライベートのグループチャットで投稿しただけでも、アカウントが永久に停止される可能性があるということにすぐに気づき始めた。

北京在住のチェン(本人の希望により姓のみ表記)は、北京時間の10月13日午後1時11分に、今回の抗議活動の1枚の写真をあるグループチャットに送信した。すると、チェンのアカウントは午後5時35分に永久停止となった。ウィーチャットからは、定型文での通知が送られてきた。それによると、アカウントの永久停止という決定は、「関連するインターネットのポリシーならびに法律および規制に従って」下されたとのことだ。

このグループチャットの別のメンバーも、この写真を送信しようとしてアカウントが停止されたことを、チェンは後に知った。チェンは、「アカウントの一時停止をくらうかもしれないとは思っていました。でも、永久に停止されるとは思っていなかったのです。送信したときには、数日間停止されるだけで済むだろうと考えていました」と話す。

この日に停止されたアカウントの総数は公式には発表されていない。だが、ウェイボーなどのソーシャルメディア・プラットフォームでは、ウィーチャットのユーザーが抗議活動の後にアカウントを失ったことを訴える数多くの投稿が見受けられる。アカウントを失った人の中には、その原因がわからない人もいる。MITテクノロジーレビューはテンセントにコメントを求めたが、返答はなかった。

ウィーチャットのアカウントを停止されるのは、中国人にとっては一大事だ。日常生活に大きな不都合が生じるからだ。例えば、健康管理用のQRコードや、ネットサービスのサブスクリプションなど、アカウントに紐づけられた多くのデジタルサービスが使えなくなってしまう。新たなアカウントを取得してその他のデジタルサービスと接続し直したり、連絡先を再登録したりするには、数週間とはいかなくても、数日はかかってしまう。

今回の大量のアカウント停止措置は、社会全体に影響を与えるものだ。中国の検閲体制がどれほど迅速に反対の声を抑え込めるかが、今回改めて浮き彫りになった。今後反対の声を上げることはさらに難しくなるだろう。今回のような政府への抗議活動は、現在の中国ではもはや珍しいものとなっており、こうした活動が実施されたことをこれまで一度も耳にしたことがない人も多くなっている。

ウィーチャットでのリアルタイム検閲

中国のソーシャルメディア・プラットフォームは、政府の命令により、ユーザー生成コンテンツを細かくスクリーニングする責任を負っている。中国サイバースペース管理局(CAC)が2017年に導入した規制は、オンラインのグループチャットを対象に、プラットフォームおよびユーザーの両方による「法律および関連の規制で禁じられたコンテンツの拡散」を禁じている。2021年には、人気のソーシャルメディア・プラットフォームであるドーバン(Douban)ウェイボーが、「違法な」コンテンツをプラットフォームで閲覧可能な状態にしていたとして、数百万人民元の公的罰金を課せられた。

ウィーチャットの規約には、プラットフォーム上でどのようなコンテンツが規制対象となるかに関する長大な節がある。しかし、具体的に規制対象として例に挙げられているのは、詐欺、スパム、噂、ギャンブル、そしてポルノについてのみだ。つまり、政治的に微妙なコンテンツについては、ウィーチャットでどのようなものが検閲対象となるか、一切の例が挙げられていない。

しかし、公然の事実として、ウィーチャットで政治的に微妙なコンテンツを送信すれば、それがプライベートのメッセージのやり取りであったとしても、アカウント停止措置が講じられる可能性がある。同様の大量のアカウント停止措置は、これまでに他のオンラインでの抗議行動が起こっていた時期にも見られた。例えば、2022年4月に、人々が上海でのオミクロン株の感染拡大に対する政府の対応が不適切だと批判していた際などだ。

2019年には、トロントに拠点を置く研究団体のシチズン・ラボ(Citizen Lab)が、ウィーチャットはテキスト認識、画像認識、重複ファイル検出ツールを組み合わせることで、チャット画像をリアルタイムで自動的に検閲していることを発見した。これによって、検閲システムがある画像を規制対象として認識すると、直ちにすべてのユーザーを対象として当該画像の送信をブロックできるという。ユーザーはしばしば、機転を利かせてこの規制をかいくぐろうとしている。例えば、ダジャレ、歪曲した画像、または理解しにくい言葉遣いを用いて、共有したい内容をごまかしているのだ。

四通橋の画像も、リアルタイム検閲の対象となっているようだ。北京在住の38歳のティナ(個人が特定されないよう、記事では英語名の使用を希望)は、10月13日に今回の抗議活動の写真を1枚、少人数のグループチャットに送信した。しかし、ティナは、この写真は実際には誰にも届いていないのではないかと考えている。というのも、その後このグループに参加している友人に確認したところ、彼には写真は一切届いていなかったのだ。それでも、ティナのウィーチャット・アカウントは、数時間後に永久に停止された。

「サイバー懺悔」

ウィーチャット・アカウントが永久停止になると、その決定に異議を申し立てる方法はあまりない。指定されたカスタマーサービス・ホットラインに電話をかけても、大抵は数時間待たされてしまう。アプリ内で異議申し立ての手続きをしても、「制限を解除できません」という結論の定型文が送られてくるだけだ。

そのため、数年前からは、アカウントをどうしても取り戻したいユーザーは、テンセントが企業アカウントを持っているその他のソーシャルメディア・プラットフォームを通して異議申し立てをするようになった。

ウェイボーには、2つの「スーパートピック」が作られた。スーパートピックとは、特定のハッシュタグ、この場合は「腾讯客服(テンセントカスタマーサービス)」と「腾讯人工客服(人間の担当者によるテンセントカスタマーサービス)」に基づくウェイボーのコミュニティ機能のことだ。これらの2つのトピックを合わせると、ユーザーが自身のアカウントを取り戻そうとテンセントに対して依頼したり懇願したり抗議の声をあげたりした投稿数は、13万件を超えている。

こうした投稿が始まったのは、2017年のことだった。2017年は、ウェイボーがスーパートピック機能を導入した翌年だ。しかし、投稿の半数以上は2022年以降が占めている。7月26日以降、ほぼ毎日、テンセントに対して投稿を繰り返しているアカウントもあった。

これら2つのスーパートピックは、今回の抗議活動を受けて、かつてない勢いで使われるようになったが、抗議活動のわずか1日後である10月14日の朝にはウェイボーによって削除された。MITテクノロジーレビューは、投稿が削除される前にその一部を調査して保存しており、ウェイボーにコメントを求めたが、返答はなかった。ウェイボーがこれら2つのスーパートピックを削除すると、一部のユーザーは代わりに「テンセント(Tencent)」というスーパートピックを使ったり、スーパートピックは使わずにテンセントの企業アカウントをタグ付けしたりするようになった。

10月13日に投稿件数が急増したことで、他のウェイボー・ユーザーからも注目されるようになった。こうした投稿は「サイバー懺悔」と呼ばれるようになった。ユーザーはしばしば、どのような悪いことをしたかを懺悔した上で、テンセントに対して2回目のチャンスを求めていたからだ。ウィーチャットのユーザーに対しては、アカウントが停止されても、その詳細な理由は説明されないことが一般的だ。

しかし、ユーザーの一部は、政治的に微妙なコンテンツを投稿したことがきっかけでアカウントを停止されたことを確信または疑っている。「カスタマーサービスに電話しましたが、どの行為が規則違反だったのかは教えてもらえませんでした。自分で確認したところ、不適切な複数の写真を再投稿したことが原因であることが分かりました」と、ウェイボーのある投稿には綴られている。

また、何が原因かはあまりはっきりとしないものの、それでも過ちを犯したことを自ら認めるユーザーもいた。「個人的には、有害な情報は一切送信していないと思いますが、本当に送信したことが原因であるなら、大変申し訳ないです。今後は言動に注意します」と記されている投稿もある。

こうしたハッシュタグをつけて投稿したすべての人が、政治的な検閲が原因でアカウント停止に追い込まれていたわけではない。あまりに多くの人にスパム行為や、化粧品を宣伝したことが原因だというユーザーもいる。また、何が原因かまったく分からないユーザーもいる。

これらの投稿のほとんどに共通して見られるのは、訴えの必死さだ。ウィーチャットは、生活のほぼあらゆる場面で使用される巨大アプリに成長した。そのため、自分のメインアカウントを停止されると、極めて大きなダメージを被る可能性がある。ウィーチャットのアカウントが停止されたために、同僚や取引先、家族からのメッセージを受信するのが困難になったと訴える投稿が、ウェイボーには並んでいる。中には、今にもうつ病になりそうだと書き込む人もいる。

だが、テンセントのカスタマーサービス用のウェイボー・アカウントは、こうした投稿に対し、追加情報を求める機械的な返信をしているのみだ。2人のウェイボー・ユーザーは、MITテクノロジーレビューに対し、ハッシュタグを用いて投稿しても異議申し立ての手続きはまったく前に進まなかったと語っている。

ウィーチャット無しの暮らし

ウィーチャットは生活の隅々にまで浸透しているため、アカウントを停止されるとデジタル空間では亡霊のようになってしまう。チェンは、「ウィーチャットが使えなくなり、世界とのつながりがなくなってしまったように感じられます」と言う。「今のところログインできるので、他のユーザーから来たメッセージやグループメッセージを読んだり、デジタル決済をしたりはできるのですが、やりとりや返信はできません」。

ウィーチャットは、2020年から、アカウントを停止されたユーザーでも連絡先リストを書き出せるようにした。そのため、新たなアカウントを登録してやり直したければ、友人を登録し直すことは可能だ。しかし、ウィーチャットを10年以上使っているユーザーのほとんどは、膨大な数の連絡先を手動で追加し、アカウントを停止された事情を相手に説明しなければならない。

チェンの場合は、停止されたアカウントを11年前から使っているもので、連絡先は1400件を超えていた。バックアップアカウントから500件の連絡先を登録し直すだけでも、数時間を要した。チェンは、「連絡先を登録し直していると、詐欺師に間違えられて、相手から確認の電話がかかってきました。もし私が相手の電話番号を知らなかった場合、または他に確認する方法がなかった場合には、友達登録をすぐに却下されるかもしれません」と話す。さらに、サブスクリプション、ブックマークしたコンテンツ、フォローしている公式アカウント、それにその他のウィーチャット・アカウントに紐づけられているすべての情報も、移行が必要だ。

10月14日に、今回の抗議活動に関する話題が下火になると、多くのウィーチャット・ユーザーは、友人の中で誰がアカウントを停止されたのかを把握したり、新たなウィーチャットのハンドルネームを周知するのを手伝ったりしていた。ウィーチャットのアカウントを停止された際にすべきことをまとめた便利なチェックリストが掲載されている2020年の記事は、一夜にして7万回以上も閲覧された。

アカウント停止の知らせは明らかに、人々を萎縮させる効果もあった。今回の抗議活動を話題にしようかどうか迷っていた人々に、話題にすればアカウントが停止されるということがはっきりと伝わったのだ。人々によるデジタルサービスへのアクセスを人質にとることで、中国政府は情報の拡散を阻害し、その支配をより強固なものにできた。

だが、人質になりたくないと考えている人もいる。ティナは、ウェイボーでテンセントに助けを求める投稿をしている人がいることを耳にはしたものの、自分はそうしたいとは考えていない。ティナは、政治検閲の厳しさを理解しており、そうした投稿は役に立たないと分かっているからだ。

これまでのところ、ティナはアカウントが停止されたことを親しい知人にしか伝えていない。少なくとも少しの間はウィーチャットのアカウントなしでの生活を試みてみるつもりだ。ティナは、そもそもソーシャルメディア・アプリに時間を使いすぎていると以前から感じていた。強制的に使えない状態になったことで、デトックス効果があるかもしれないと思っている。

「多くの人が昨日、2つ目のアカウントを登録していました。でも私は、ウィーチャットなしでの生活を試してみたいのです。例えば、ウィーチャットなしでも普通に生活できれば、新たなアカウントは登録しないという選択もできるかもしれない。個人がこれほどまでにウィーチャットに縛られるのはよくないと思っています」。

 

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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