KADOKAWA Technology Review
×
ビル・ゲイツの気候ファンド、「適応」にも投資拡大へ
Steven Walter
Bill Gates’ energy venture fund is expanding into climate adaptation and later-stage investments

ビル・ゲイツの気候ファンド、「適応」にも投資拡大へ

ビル・ゲイツらが創設した投資ファンド「ブレークスルー・エナジー」は、従来からの脱炭素技術に加え、自然災害対策などの「適応」分野への投資を拡大する。 by James Temple2022.10.25

ビル・ゲイツが創設した気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド「ブレークスルー・エナジー(Breakthrough Energy)」が、その使命を拡大する。投資対象に気候変動への「適応」プロジェクトを加え、株式公開が視野に入ったレイター・ステージにあるクリーンテック・スタートアップのプラント建設やテクノロジーの規模拡大を支援する資金提供を始める。

この計画は、10月17〜19日にシアトルで開催された同ファンドの「ブレークスルー・エネルギー・サミット」の最後に発表された。

これまでブレークスルー・エナジーは、「5つの重要な課題」に焦点を当ててきた。つまり、電力・運輸・製造・建物・農業といったすべての分野で、気候変動の「緩和」策の一環と認められている気候汚染物質の削減を約束する企業を支援してきた。今回新しく投資の対象になった気候変動への「適応」とは、気候変動そのものを防ぐのではなく、そのリスクから人々を守る方法を開発することを指している。

世界で排出量が増え続け、地球が温暖化し続ける中、気候変動への適応が大きな役割を果たさなければならないことが明確になってきている。そうインタビューで語るのは、ブレークスルー・エナジーのベンチャー企業投資委員会で技術部門責任者を務めるエリック・トゥーンだ。

トゥーン責任者は「緩和策では間に合わないし、温暖化の苦しみは受け入れられません」と言う。これは、バラク・オバマ大統領時代のジョン・ホールドレン科学顧問が気候変動への対応には、緩和、適応、苦しみという3つの選択肢しかないと述べたことになぞらえている。

「だから今後も緩和策に重点を置きつつ、適応策も含むよう視野を広げていきます」とトゥーン責任者は話す。

ブレークスルー・エナジーのサミットで、次の投資の優先順位について語るエリック・トゥーン責任者(Photo:JAMES TEMPLE)。

ブレークスルー・エナジーは、ますます日常化・深刻化する干ばつに取り組む農家や地域社会を支援する方法など、いくつかの分野に焦点を当てている。例えば、先端的な海水淡水化テクノロジーや空気中から水分を抽出するシステムなどだ。他にも、世界の気温が上昇したり、湿度が高くなったり、乾燥が深刻化したりしても、屋内農業や植物の遺伝子組み換えによって、作物の生産性を維持できるようにする取り組みもある。

また、ブレークスルー・エナジーは海面上昇やますます深刻化する暴風雨の脅威にさらされている、世界の港湾インフラを強化する方法に対しても投資を検討するとトゥーン責任者は述べた。例えば、高潮に自動的に対応する動的係留システム、高温・過酷な環境でも安全に操作できるクレーン、より堅牢な船舶などだ。

数週間前、ゲイツ創設者はブルームバーグに、これらの新しい投資分野はブレークスルー・エナジーが資金調達中のファンドの下で活動を開始することになると語り、サミット期間中の18日に再度断言した。その規模やいつ確定するかはまだ発表していないが、現在までに、ブレークスルー・エナジーは約10億ドル規模の資金を2回調達している。

また、「セレクト(Select)」と名付けた別のレイター・ステージ・ファンドは、「大規模かつ追加」の資金を主に提供し、企業が実証プロジェクトを進められるように支援する。まだ商業化されていない、大規模なテクノロジーをテストし、最適化するために設立されたものだ。トゥーン責任者は、今回の資金のほとんどはブレークスルー・エナジーがすでに投資している企業に向けられるが、そうした企業だけに限定するわけではないと述べた。

ブレークスルー・エナジーが投資しているスタートアップに出資しているシンガポール政府所有の投資会社テマセク(Temasek)も、この新しいファンドへの出資を予定している。ブレークスルー・エナジーはこの新しいファンドの規模も、他の出資者もまだ公表していない。

人気の記事ランキング
  1. Inside the tedious effort to tally AI’s energy appetite 動画生成は別次元、思ったより深刻だったAIの電力問題
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2025 「Innovators Under 35 Japan」2025年度候補者募集のお知らせ
  3. IBM aims to build the world’s first large-scale, error-corrected quantum computer by 2028 IBM、世界初の大規模誤り訂正量子コンピューター 28年実現へ
  4. What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法
ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る