KADOKAWA Technology Review
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動き出した浮体式洋上風力発電、今後の課題は?
Sebastien Salom Gomis / AFP via AP Images
The wild new technology coming to offshore wind power

動き出した浮体式洋上風力発電、今後の課題は?

カリフォルニア州で実施された浮体式洋上風力発電タービン設置用地の競売は、5社が合計7億5700万ドルで落札した。カリフォルニア州での今回の取り組みは、世界の風力発電にどのような意味を持つのだろうか。 by Casey Crownhart2022.12.28

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

風力発電は、急速に台頭しつつある再生可能エネルギー源の1つだ。その勢力圏はまもなく、さらなる拡大を遂げる可能性がある。

12月上旬、カリフォルニア州は、米国初の浮体式風力タービンの設置先候補となる沿岸沖合の用地5カ所の入札を実施した。面積は合計でおよそ1500平方キロメートルに及び、5社によって総額7億5700万ドルで落札された。

海上に浮き、海底にワイヤーで係留する洋上風力タービンを建設する動きが開発業者の間で進んでいる。

浮体式洋上風力発電については、すでに実証プロジェクトが世界中でいくつか稼働しているが、今度は新たな局面を迎えようとしている。 実際、政府・自治体で設置目標を掲げる動きが広がっており、より大規模なプロジェクトが計画・許認可の段階に入っている。カリフォルニア州は、浮体式洋上風力発電の主要な実験場となる可能性がある。

浮体式風力発電は、設計・建設、行政手続き、資材調達の面で課題に直面しているが、大規模に展開できれば、沿岸地域の主要な安定電力源となる可能性がある。そこで今回は、浮体式洋上風力発電について掘り下げていく。実用化には何が必要か、カリフォルニア州での競売が世界の風力発電にどのような意味を持つのか、考えていこう。

浮体式風力発電とは?

MITテクノロジーレビューが米国で11月に開催したイベント「EmTech(エムテック)」では、トライデント・ウィンズ(Trident Winds)の最高経営責任者(CEO)であり、浮体式風力発電の実用化を目指す主要プレイヤーの1人であるアラ・ワインスタインに話を伺っている。

「海には、私たちが必要とする以上の量のエネルギーが存在します。ただ、それを確保して活用できればすればいいのです」と、ワインスタインCEOは話した。

洋上風力発電の大きな利点の1つは、他の再生可能エネルギー源よりも安定した電力を供給できることだとワインスタインCEOは述べている。 風速の変動は避けられないが、全体的にその影響は陸上と比べて急激ではない(一般的に、風力発電は太陽光発電のように夜間に完全に停止することはない)。 再生可能エネルギーによる送電網を構築するには、この安定性が欠かせない。

海底にタービンの基礎を固定する従来の大規模な洋上風力発電プロジェクトは、英国、中国、ドイツの海岸に点在している。しかし、そのような風力発電所の建設に適した場所はどこにでもあるわけではない。カリフォルニア州では、大陸棚が海岸付近で急に落ち込み、沖合数十キロメートルで水深1000メートルを超えるため、従来型の風力発電(水深60メートル程度の深さにしか対応できない)では対応できない。

ワインスタインCEOが考える解決策は、浮体式タービンを建設することだ。洋上風力発電は、石油・ガス会社の採掘装置と同様の変遷をたどっている。すなわち、陸上から洋上、そして浮体式設備へと移行しているのだとワインスタインCEOは言う。

ワインスタインCEOは、スコットランドでの50メガワット級の浮体式風力発電タービン設置をはじめ、世界の中でも先駆的な浮体式風力発電の実証プロジェクトに携わってきた。現在、合計約125メガワットの発電容量を有する実証プロジェクトが世界各地で稼働しており、新たに125メガワット規模の実証プロジェクトの建設が進んでいる。

そして、そのパイプラインは急速に拡大が進んでいる。世界中で、合計60ギガワット以上の洋上風力発電プロジェクトが計画段階にあり、計画容量では韓国、英国、オーストラリア、ブラジルが上位を占めている。

Illustration of six offshore wind turbines. Three on the left are in shallow water with shafts resting on the ocean floor. Three on the right are in deeper water, floating but tethered to the ocean floor.
洋上風力発電機6基の図。左3基は従来の固定式、右3基は浮体式。

マイルストーン、そして次なる展開

そして今度は、カリフォルニア州が、浮体式風力発電事業に乗り出す自治体として名乗りを挙げた。

カリフォルニア州は沿岸の1500平方キロメートルの2海域を入札にかけ、5つの用地に分割した。これらの用地の水深は最大で1300メートルに達し、浮体式風力発電の技術が必要になる( 本誌のジェームス・テンプル編集者による記事を参照)。

企業が入札した用地は合計で出力4.5ギガワットの風力タービンを設置できる。150万世帯以上の電力を賄える出力だ。総額7億5700万ドルで落札され、最大規模の用地には1億7400万ドル近くの値が付けられた。

今回の競売は、浮体式洋上風力発電の新たな局面を象徴している。EmTechでの取材でワインスタインCEOは、10年ほど前、カリフォルニア州での洋上風力発電所の建設計画を提案した時、真剣に取り合ってくれる者はいなかったと話した。「誰もが私を見て、『馬鹿げている。なぜこんなことをするんだ。うまくいくはずがない』と言ったのです」とワインスタインCEOは語った。

これで、企業は米国内での浮体式洋上風力発電所建設への道を本格的に歩み始めることができるだろう。しかし、競売は構想から運用までに連なるいくつものステップの1つに過ぎない。企業が風力発電所の稼働を開始する前に、計画と建設に何年もかかる。許認可の取得だけでも5〜7年かかる可能性がある。

そして、辺りを見回すと至るところで新たな課題が出現しているようだ。カリフォルニア州の件の用地は海岸からおよそ32キロメートルも離れているため、洋上風力発電所が供給する電力に対応し、分配できる送電線の建設は大仕事で、法外なコストがかかる可能性がある。また、巨大なタービンを組み立て、搬送し、海に曳航できるように、港湾を抜本的に改造しなければならないかもしれない。さらに、たとえ沖合数十キロメートルであっても、風力タービンの建設計画に誰もが賛同しているわけではない

今年初め、バイデン政権は、2035年までに浮体式洋上風力発電を15ギガワットに拡大し、コストを70%以上削減するという目標を発表した。

おそらくは後者の目標こそ最も重要なパズル・ピースとなるだろう。コストは、浮体式洋上風力発電が再生可能エネルギーをめぐる諸々の目標の一助となりうるかどうかの重要な決め手となるかもしれないからだ。

浮体式洋上風力発電のコストはその新しさゆえに見積もりは難しいが、米国エネルギー省は1メガワット時あたり約200ドルと見積もっている。これは、陸上風力発電(30ドル)、太陽光発電(35ドル)、固定式洋上風力発電(80ドル)よりもかなり高い見積もりだ。

浮体式洋上風力発電の普及が進むにつれて、コストが低下することも考えられる。太陽光発電やリチウムイオン電池など、他の再生可能エネルギー技術は、規模の拡大とともにコストが急落した。しかし、浮体式風力発電には他にも様々な障壁があり、同じような軌道をたどる保証はない。

カリフォルニアの用地は、世界各地の他の大規模な商業プロジェクトとともに、浮体式洋上風力が沿岸部のエネルギー・ミックスの重要な部分となり得るかを見定める試金石となるかもしれない。 浮体式洋上風力発電の見込みと課題、およびカリフォルニアと世界各地におけるこのテクノロジーの展望については、ジェームズの記事を参照されたい。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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