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GAFAレイオフでも「AI冬の時代」が再来しない理由
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
The economy is down, but AI is hot. Where do we go from here?

GAFAレイオフでも「AI冬の時代」が再来しない理由

アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフト、ツイッターなど世界的な巨大テック企業が大規模な人員削減計画を発表している。それでも、AIの世界では依然として好況が続いている。この好況はいつまで続き、その後に何が起こるのだろうか。 by Melissa Heikkilä2023.01.31

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

世は残酷だ。世界的なテック企業が大規模なレイオフ(一時解雇)を次々と発表している。1月20日、アルファベット(グーグル)は1万2000人のレイオフを発表した。アマゾンやメタ、マイクロソフト、ツイッターでも、個々の人工知能(AI)研究者だけでなく、AIチーム全体に影響するレイオフが相次いでいる。

突然の解雇を知らされた従業員が書いた胸が痛むような記事を読んだ。グーグル検索に17年以上携わっていた研究科学者のダン・ラッセルは、仕事を終わらせようと午前4時にオフィスに行き、入室バッジが使えないことに気づいたという

世界経済の先行きが極めて不透明な中、エコノミストは今年、米国経済が景気後退に陥るだろうと予測している。大手テック企業は、その影響を感じ始めているのだ。

過去には、景気後退によってAI研究の資金源が閉ざされたことがある。「AIの冬の時代」と呼ばれた時代だ。 だが、今回はまったく異なることが起きている。AI研究は依然として活発で、テック企業の経営が厳しくなっている中でも大きく前進しているのだ。

実際には、大手テック企業は今後の自社の運命をAIに賭けていると言っていい。

1950年代後半に一つの分野として確立されて以来、AI研究は流行と衰退の激しい波を繰り返してきた。 AIの冬は、これまでに2度あった。1970年代と、1980年代後半から1990年代前半である。テキサス大学オースティン校のコンピューター・サイエンス教授で、2002年までAT&Tベル研究所(現在はノキア傘下)でAI研究に携わっていたピーター・ストーンは、AI研究はこれまで肥大した期待に最終的には応えることができなかった、ハイプ・サイクルの犠牲になってきたと語る。

ベル研究所は長らく、イノベーションのホット・スポットとされてきた。かつてはヤン・ルカン、ヨシュア・ベンジオ、ジェフリー・ヒントンなどの科学者が在籍し、ノーベル賞やチューリング賞の受賞者も輩出している。だが、経営陣が漸進的な技術革新に基づくより直接的な利益を上げるよう強く要求し始め、研究所の予算は削減された。そして結局、2000年代初頭のインターネット革命の波に乗ることができず、利益を得られなかった、とジョン・ガートナーは著書の『 The Idea Factory: Bell Labs and the Great Age of American Innovation』で述べている。

過去の低迷期は、当時話題のAI技術が進歩を示せず、信頼性が低く運用が困難だったために起こったものだとストーン教授は言う。AI研究を支援していた米国と英国の政府機関は、その手法が行き詰まっていることにすぐに気づき、資金提供を打ち切った。

現在、AI研究は「主役」の時を迎えている。 景気の悪化があるとしても、AI研究は盛り上がりを見せているのだ。オックスフォード大学のコンピューター・サイエンス教授で、『A Brief History of Artificial Intelligence : What It Is, Where We Are, and Where We Are Going』の著者であるマイケル・ウールドリッジは、「AIの可能性を押し広げるようなシステムが今も定期的に公開されています」と話す。

これは、ウールドリッジ教授が博士課程を終えようとしていた1990年代におけるこの分野の評判とは大違いである。その頃のAIは、奇妙で非主流的な研究と考えられていた。テック産業ではまだ、確立された医学がホメオパシーを見るのと同じような目で見られていた、と同教授は話す

現代のAI研究ブームは、人間の脳のパターンをシミュレーションすることで、1980年代に大きなブレークスルーを遂げたニューラル・ネットワークによって加速されてきた。当時、このテクノロジーは壁にぶつかっていた。コンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったからだ。今では、大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、この技術を実行することができる。

「チャットGPT(ChatGPT)」や、テキストから画像を生成するモデル「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」など、新しいブレークスルーが数カ月ごとに登場している。チャットGPTのようなテクノロジーはまだ十分に精査されておらず、産業界も学術界もその活用方法について考えているところだとストーン教授は話す。

本格的なAIの冬がやって来る代わりに、長期的なAI研究に向けた資金が減少し、その技術を使って稼がなければならないというプレッシャーが高まる可能性が高い、とウールドリッジ教授は考えている。企業の研究所で働く研究者は、自分たちの研究が製品に組み込めるものであり、利益を生むものであることを示せなければならないプレッシャーにさらされるだろう、と彼は付け加えた。

それはすでに起こっている。オープンAI(OpenAI)のチャットGPTの成功を受け、グーグルは主力製品である検索の脅威状況を「コードレッド」と宣言し、独自のAI研究で検索を積極的に改良しようとしている。

ストーン教授は、ベル研究所で起きたこととの類似点を指摘する。  この分野を支配する大手テック企業のAI研究所が、長期的な深い研究から引き上げ、短期的な製品開発に注力しすぎれば、苛立ったAI研究者は学術界に移ってしまうかもしれない。そうなれば、大手企業の研究所はイノベーションを支配できなくなる恐れがあるという。

それは必ずしも悪いことではない。仕事を求めている賢い人間は多数存在する。暗号資産の分野が次第に終焉を迎える中、ベンチャー・キャピタリストは投資先となる新しいスタートアップを探しているし、生成型AIはこのテクノロジーがどのように製品化できるのかを示している。

今回の節目は、新しいテクノロジーの可能性を模索する、一世一代の機会をAI研究者や企業に示している。レイオフをめぐる憂鬱な状況をよそに、それは心躍る展望でもある。

水没したローマ遺跡にAIがインターネットを運ぶ

2000年以上の昔、バイアエはイタリア半島で最も壮麗なリゾート地であった。天然温泉に引き付けられた裕福な政治家が、温水スパや、モザイクタイルの温泉プールを備えた豪華なヴィラをそこに建設した。しかし何世紀にもわたる火山活動は、ローマ貴族の行楽地だったこの街を水没させた。そして、街の半分は地中海に沈んだままになった。現在そこは海洋保護区に指定されており、ダイバーや環境要因による損傷を監視する必要がある。だが、水中でのコミュニケーションは非常に難しい。

 イタリアの研究者は、水中でインターネットを利用する新しい方法を見つけたと考えている。海況に応じてネットワーク・プロトコルを調整し、最長2キロメートルまで信号を伝達可能にするAIアルゴリズムである。これは、気候変動が海洋環境に及ぼす影響をより深く研究したり、海底火山を調査したりするときに助けになるかもしれない。AI研究は概念的なものになりやすいが、これは技術の活用法を示す、すばらしく実用的な例である。  マヌエラ・カラリの記事を詳しく読む

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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