テスラ元CTOも着目、
リサイクル・バッテリーは
EVシフトのカギになるか?
今後予測される電気自動車への急速なシフトによって、電池材料の不足が懸念されている。テスラ元CTOが創業したスタートアップ企業は、大規模なバッテリー・リサイクル工場を建設中だ。 by Casey Crownhart2023.02.10
米国のスタートアップ企業であるレッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)にとって、砂利敷きの駐車場に並んだ段ボール箱は、電気自動車の過去と未来の両方を象徴するものだ。この一時的な資材置き場は、ネバダ州リノにほど近い、レッドウッド・マテリアルズの新しい電池リサイクル施設にある。広さは10エーカー(およそ4万468平方メートル)ほど。ほとんどの段ボールは洗濯機ほどの大きさで、白いプラスチック・フィルムに包まれている。封が開いて中が見えているものもあり、ワイヤレス・キーボードや廃棄されたおもちゃ、ホンダ・シビックの使用済みバッテリーなどが見える。
決してゴミなどではない。これらの廃棄製品が内蔵しているバッテリーの材料こそ、宝の山だ。各種金属は、電気自動車(EV)の爆発的な需要増大に対応するために必要不可欠な価値ある材料になる。
レッドウッド・マテリアルズは、電気製品やEVで使用済みとなったリチウムイオン電池の、埋め立てに代わる処理手段の提供に取り組む企業だ。電池リサイクル企業は近年、増えつつある。同社は2022年、35億ドルの費用をかけてリノに工場を建設する計画を発表した。この施設は2025年までにEV100万台分に相当するリチウムイオン電池の材料を生産し、2030年までには生産量を最大5倍にまで増やす予定だ。2023年には米国東部にもう1カ所、施設の着工を計画している。
一方、カナダ企業のライ・サイクル(Li-Cycle)は4カ所の商業施設をすでに稼働しており、合計で年間3万トンの電池をリサイクルする能力を持つ。同社はさらに3カ所の施設を増設する計画だ。米国の他のスタートアップ企業、例えばアメリカン・バッテリー・テクノロジー・カンパニー(American Battery Technology Company)も、中国と欧州の既存のリサイクル市場に参入し、大規模な商用化試験を実施すると発表している。
こうした新しいリサイクル・ビジネスは、金属を埋め立てるよりも環境に良いというだけでなく、急成長を遂げるEV市場の影響を強く受けている。EVの導入は世界中で爆発的に進んでおり、電池に使用する金属、特にリチウム、ニッケル、コバルトの新しい需要を生んでいる。EVは2022年の新車売上の13%を占めると予測され、2030年までに30%に増えるとの見立てもある。これらの自動車すべてにバッテリーを供給するには、現在利用可能な量よりもはるかに多くの金属が必要なのだ。
コバルト、リチウム、ニッケルだけでも、EV用電池に必要な分をまかなうには、2035年までに新しい鉱山が200カ所以上必要になるとの試算がある。特にリチウムに限って言えば、EV関連の需要を満たすためには生産量を2050年までに現在の20倍規模にまで高める必要があるという。
したがって、リサイクルは原材料の新たな調達元になり得る。2021年には、世界全体で60万トンを超えるリサイクル可能なリチウムイオン電池と、関連する製造廃棄物が排出された。コンサルティング会社のサーキュラー・エナジー・ストレージ(Circular Energy Storage)によると、こうした廃棄物の量は2030年までに最大160万トンにまで増えると見られている。その後、第一世代のEVが廃車になれば、廃棄物量はさらに飛躍的に増大するだろう。
リチウムイオン電池のリサイクル工程の新たな発展は、業界を大きく変えつつある。リサイクル業者は、処理にかかるコストをまかなうのに十分な量の価値ある金属を取り出して再生できるようになっている。もちろん、リサイクルだけで原材料不足を解消することはできない。金属の需要が、現在使われている電池に含まれる量を超えているからだ。とはいえ、リサイクル技術の発展のおかげで、今後数十年にわたって原材料供給のかなりの割合をリサイクルでまかなうえるようになる可能性がある。
2022年9月にレッドウッド・マテリアルズを訪問したとき、同社は最初の製品の出荷を準備しているところだった。アノード(負極)に使う銅箔の少量のサンプルだ。この銅箔はパナソニックに送られ、レッドウッド・マテリアルズの施設にも程近い「ギガファクトリー」で使われるという。ギガファクトリーはテスラ車用の電池セルの生産拠点となっている工場だ。
レッドウッド・マテリアルズの施設に向かう途中、私はハイウェイを横切るタンブルウィードを見かけた。丘陵地帯のあちこちに野生の馬もたむろしていた。後でコヨーテが駐車場を横切るのも目にした。
しかし施設に向かう未舗装の道を進んでいくと、西部劇のような雰囲気は一変し、その場にいるほとんど全員から切迫した空気が伝わってくるようになった。いくつもの巨大な建造物の建設が進められており、安全ベストとヘルメットを身につけたエンジニアたちと現場作業員が、仮設オフィスとして使われているトレーラー・ハウス、研究室、会議室の間をせわしなく行き交っていた。
建設が終われば、レッドウッド・マテリアルズのこの施設では2種類の主要製品を製造することになる。アノード用の銅箔と、カソード(正極)活物質と呼ばれるリチウム、ニッケル、コバルトの混合物だ。これらの部品のコストは電池セルの価格の半分以上を占める。レッドウッド・マテリアルズは、2025年までに自社施設で十分な量の電池材料を生産できるようになると見込んでいる。生産能力は、EV用バッテリーに換算して年間100万台分以上になるという。
トレーラー・ハウスから坂を下っていくと、銅箔を生産する建物の屋根と壁がいちばん遠くに見える。銅箔を作る機械は角に隠れている。しかしあと2つの大型の建物はまだ完成からは程遠いように見えた。1つは壁がなく、もう1つはまだ基礎しかなかった。
レッドウッド・マテリアルズには壮大な計画と多くの施設の建設計画が控えている。
「一種のパラノイア」
レッドウッド・マテリアルズは、2010年代初頭にテスラの最高技術責任者(CTO)を務め、充電ステーション・ネットワークの整備など、同社の電池分野でのいくつものブレークスルーを主導したJ.B.ストラウベルが創業した。だが、テスラがEVの製造と販売のあり方を大きく …
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